薄膜トランジスタを部分的なレーザー処理で高速化する技術を開発~4K8K大型テレビの製造コストを大幅に低減

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(産学共同実用化開発事業(NexTEP)の成果)

2019-02-22 科学技術振興機構

ポイント
  • 4K8K放送では画素数が増加し、画素あたりの表示時間が短くなるため、従来の大型テレビ向け液晶フラットパネルディスプレイ(FPD)では鮮明な表示ができなかった。
  • 本開発では、FPDの画素点灯を制御する薄膜トランジスタ素子(TFT)のチャネル領域のみをレーザーアニール処理することでTFT素子を高速化した。
  • 本技術は、大型テレビ向けFPDの高精細化や狭額縁化、製造コスト低減に寄与できるため、今後の量産に欠かせない製造技術になると期待される。

JST(理事長 濵口 道成)は、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「大型フラットパネルディスプレイ向けレーザーアニール技術」の開発結果を成功と認定しました。

この開発課題は、山形大学 大学院理工学研究科 城戸 淳二 教授の研究成果を基に、平成27年3月から平成30年3月にかけて株式会社ブイ・テクノロジー(代表取締役 杉本 重人、本社住所 横浜市保土ヶ谷区神戸町134 横浜ビジネスパーク イーストタワー9階、資本金28億円)に委託し、同社にて実用化開発を進めていたものです。

4K8K放送注1)では画素数が増加し、画素あたりの表示時間が短くなるため、一般的な大型液晶テレビで採用されているアモルファスシリコン(a-Si)注2)膜を用いた薄膜トランジスタ(TFT)素子注3)からなるフラットパネルディスプレイ(FPD)注4)では対応できませんでした。a-Si膜よりも高性能な低温ポリシリコン注5)(以下、ポリシリコン)膜のTFTを使えば、高精細化への対応が可能ですが、製造コストが高く、大型テレビへは適用ができませんでした。

本開発では、a-Si膜のTFT素子のチャネル領域のみをレーザーアニール処理注6)して、局所的に再結晶化することでTFT素子を高速化する技術を基に、レーザーアニール処理されたTFTの性能をリアルタイムに測定する装置の開発など、量産する際の課題を解決して試作機に実装し、大型ガラス基板に対してその効果を実証しました。

本装置は、既存のa-Si膜のTFT素子パネルを使用する大型FPD製造ラインに追加するだけでTFT素子が高性能化し、高精細化や狭額縁化、製造コスト低減にも寄与できることから、今後の大型テレビ向けFPD量産に欠かせない製造技術となることが期待されます。

産学共同実用化開発事業(NexTEP)は、大学等の研究成果に基づくシーズを用い、民間企業が単独で事業化することが困難で、開発リスクが高く規模の大きい開発を支援し、実用化を後押しする事業です。

詳細情報 https://www.jst.go.jp/jitsuyoka/

<背景>

現状のFPD、特に大型テレビ向けFPDは画素表示を制御するTFT素子の半導体材料にa-Si膜が使われています。しかしアモルファス状態であるため、電子移動度が低く電流が流れにくいことから、高精細な画像表示には不利でした(表1)。すでに小型化や高精細化が進んでいるスマートフォンでは、a-Si膜の数十倍から数百倍の電子移動度を持つポリシリコン膜が使われています。ポリシリコン膜は、ガラス上に成膜されたa-Si膜全体にレーザー光を照射し、a-Si膜を溶融・再結晶化させるレーザーアニール処理によって作られますが、ランニングコストが高く、低価格化が進む大型テレビ向けには採用が難しい状況でした。

<開発内容>

株式会社ブイ・テクノロジーでは、a-Si膜のTFT素子を使う大型テレビ向けFPD製造の工程において、TFT素子のチャネル領域(数十マイクロメートル角)のみを精密にレーザーアニール処理して再結晶化する技術をすでに開発していました。しかし量産現場でこれを利用するために解決すべき重要な課題が複数残っていました(図1)。

具体的には、①レーザー光源の低ランニングコスト化、②レーザー光のコヒーレント性による光干渉の抑制、③レーザーアニール処理時の異物発生などによるレンズ系の汚染対策、④大型ガラス基板上のa-Si膜のバラつきなどがあっても一定のTFT素子性能を確保するレーザー照射条件の制御方法などの課題です。特にTFT素子性能のバラつきは、FPD画面のムラなど品質へ影響します。また、そのレーザーアニール処理されたTFT素子特性の評価は、多くのFPD製造工程を経て完成した各画素TFT素子の電気特性を測定して評価されるものであり、不具合の発見や原因の分析、工程への対策フィードバックにかなりのタイムラグが生じるという問題がありました。

このような課題に対して、以下のような解決策の検討を進めました。

①・②の解決に向けては安価で長寿命な固体レーザーの利用を検討し、レーザーアニール処理するレーザーの波長と出力、結晶化状態の関係を把握しつつ最適化を探り、レーザー光の干渉によるスペックル解消対策も進めました。しかし固体レーザーによるアニール処理では量産に必要な仕様を達成できないと判断し、干渉性が低く、大出力対応が可能なエキシマレーザーを採用しました。

③のレーザーアニール処理時の局所アニール向けマイクロレンズ(MLA)光学系への汚損問題に対しては、汚染物質の検証を行い、MLA光学系を最適化しました(図2)。

④の解決に向けてはレーザー照射条件によって再結晶化されたポリシリコン膜の結晶サイズや均一性が変化し、TFT素子の電気特性に大きく影響するため、レーザーアニール処理したポリシリコン膜の結晶状態をレーザーアニール装置内でリアルタイムに検出してレーザー光源にフィードバックすることが重要でした。ポリシリコン膜の結晶状態を光学的に検出する技術は代表研究者の技術シーズに基づいて開発しており、これはTFT素子の構造から算出される反射光スペクトルと、実際に装置内で計測された反射光スペクトルをリアルタイムでフィッティング処理して結晶化状態を数値化するものです。この結晶化状態を結晶化レベルと定義し、その後に得られるTFT素子の電気特性から求められた電子移動度と比較することで、ポリシリコン膜の結晶化レベルとその電子移動度に相関があることを本開発で初めて実証しました(図3)。この原理に基づいたリアルタイム結晶モニターシステムを試作・開発し、その測定値が実用的な精度を持つことも確認しました。

本装置によってレーザーアニール処理直後に結晶化レベルを測定してポリシリコン膜の結晶バラつきを検出・把握し、その後のガラス基板に対するレーザーアニール処理条件に反映することで、このバラつきを補正できるリアルタイム結晶モニターシステムを実現しました(図4)。

本開発の最終段階では、大型テレビ向け局所レーザーアニール装置に、今回開発したリアルタイム結晶モニターシステムを実装し、実際のガラス基板に対する検証を終えていることから、本開発技術を搭載したレーザーアニール装置の早期実用化が見込まれます。

<期待される効果>

開発成果を実装したレーザーアニール装置によるTFT素子の性能向上によって、TFT素子のスイッチ動作が高速化し、扱える電流量が増加することから、高画質対応のFPDパネルの製造が可能になることに加え、従来FPDパネルの周辺に配置されていたゲート駆動用ドライバーICなども、回路内に作り込むことが可能になり、狭額縁化や低コスト化にもつながります。さらに、FPD製造時にTFT素子の性能がオンラインで把握できることから、品質向上や歩留まり向上にも貢献できます。

以上の通り、複数の装置導入メリットがあり、新規FPD製造ラインへの導入のほか、既設製造ライン装置の置き換えや増設にも対応できるものであり、液晶、有機ELディスプレイを含めた世界の大型FPD製造に欠かせない基盤技術となることが期待されます。

<参考図>
項目 アモルファスシリコン 微結晶シリコン IGZO ポリシリコン
電子移動度 0.5 cm2/Vs 1~2 cm2/Vs 5~10 cm2/Vs 10~100 cm2/Vs
成膜方法 プラズマCVD プラズマCVD スパッタリング レーザーアニール
適用先
LCD HD
LCD FHD
LCD 4K2K Δ
LCD 8K4K × Δ Δ
LCD Mobile × × Δ
OLED × × Δ
表1 各種ディスプレイTFT向け半導体膜

図1 局所レーザーアニール技術

図1 局所レーザーアニール技術

図2 エキシマレーザー向けMLA外観

図3 結晶化レベルと電子移動度の相関関係

図3 結晶化レベルと電子移動度の相関関係

図4 リアルタイム結晶モニターによるレーザーアニール処理フロー

図4 リアルタイム結晶モニターによるレーザーアニール処理フロー
<用語解説>
注1)4K8K放送
フルハイビジョン(2K)に比べ、高精細・高画質な映像を提供する次世代放送技術。フルハイビジョンと比べ、モニターなどの表示に必要な画素の数が、4Kでは4倍(3840×2160ピクセル)、8Kでは16倍(7680×4320ピクセル)である。
注2)アモルファスシリコン(a-Si)
原子配列が結晶のような規則性を持たない非結晶性(アモルファス)の構造を持ったシリコン。
注3)薄膜トランジスタ(TFT)素子
ガラスなどの基板に形成された半導体膜を使用した素子。表示デバイスでは、画素に流れる電流のONとOFFを切り替えるスイッチングの役割を担っている。
注4)フラットパネルディスプレイ(FPD)
薄型の平面パネル型の表示装置。
注5)ポリシリコン
多数の小さな結晶が集合した構造のシリコン。多結晶シリコンともいう。非結晶性のa-Siに比べ、電子移動度が数十倍から数百倍である。低温プロセスで作製されるポリシリコンを特に「低温ポリシリコン」という。
注6)レーザーアニール処理
レーザー照射によって材料表面を急加熱し自然冷却により再結晶化することで、a-Siをポリシリコンに改質する技術。高温の炉などを必要としない低温プロセスの1つ。
<お問い合わせ先>
<開発内容に関すること>

水村 通伸(ミズムラ ミチノブ)
株式会社ブイ・テクノロジー第三研究開発部

<JST事業に関すること>

大竹 利也(オオタケ トシヤ)
科学技術振興機構 産学共同開発部 事業推進グループ

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