茎枯病抵抗性のアスパラガス新品種「あすたまJ」を育成~茎枯病発生ほ場でも高い収量が見込める革新的な抵抗性品種~

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2023-10-26 九州大学

九州大学、農研機構、香川県及び、東北大学は共同で、アスパラガス新品種「あすたまJ」を育成しました。本品種は、難防除病害であるアスパラガス茎枯病(くきがれびょう)に抵抗性を有する日本固有種「ハマタマボウキ」と、アスパラガスの種間雑種であり、茎枯病に対して、既存のアスパラガス品種の中では類のない高いほ場抵抗性を有することから、国内のアスパラガスの露地栽培に飛躍的な収量向上をもたらす品種として期待されます。

茎枯病抵抗性のアスパラガス新品種「あすたまJ」を育成~茎枯病発生ほ場でも高い収量が見込める革新的な抵抗性品種~
新品種「あすたまJ」の食用部(長さ25cm)

アスパラガス茎枯病(※1)(以下、茎枯病)は、わが国のアスパラガス露地栽培(※2)において、大幅な減収や廃耕など甚大な被害をもたらす、最も深刻な病害です。これまで、アスパラガス(Asparagus officinalis L.)種内には茎枯病に実用的な抵抗性を示す品種や育種素材がなかったため、抵抗性品種の育成は困難でしたが、近年、アスパラガスと同属の日本固有種であるハマタマボウキ(※3)(Asparagus kiusianus Makino)が茎枯病抵抗性を有すること、かつアスパラガスとの交雑が可能なことが明らかになり、茎枯病抵抗性品種育成への道が開けました。

そこで、農研機構、香川県、東北大学及び九州大学は共同で、アスパラガスとハマタマボウキの種間交雑により、茎枯病に対する高いほ場抵抗性(※4)を有するアスパラガス品種「あすたまJ」を育成しました。

本品種は、茎枯病の防除を目的にビニールハウス等の施設を利用した栽培が一般的であった温暖地でも、露地栽培が可能となります。

また、本品種の名称については、アスパラガスとハマタマボウキの種間雑種であることから、アスパラガスの「アス」とハマタマボウキの「タマ」からとった「あすたま」に、日本固有種を親に持ち、日本のオリジナル性が高いことからJapanのJを付し、「あすたまJ」と命名しました。

今後、オープンイノベーション研究・実用化推進事業課題での現地実証試験を進め、令和10年頃には生産者へ原種苗を提供できる予定です。

新品種開発の社会的背景と経緯


写真1 茎枯病が 発生した茎

茎枯病(病原糸状菌:Phomopsis asparagi)は、アスパラガスの大幅な減収や廃耕などの深刻な被害をもたらす難防除病害の一つで(写真1)、主に降雨により、病斑部から分生子(※5)が飛散することによって伝染が拡大します。茎枯病は、特に国内のアスパラガス栽培面積の約80%を占める露地栽培において最も深刻な病害で、近年、高温傾向や長雨、豪雨の影響により、その被害が深刻化しています。また、アジアモンスーン地域の中国、東南アジア諸国、韓国でも問題になっています。

アスパラガスは一度植えると一般に10年以上栽培が行われるため、茎枯病が発生すると長年にわたり大きな影響を受けることから、茎枯病抵抗性品種の育成は非常に重要な課題でしたが、従来のアスパラガス(Asparagus officinalis L.)種内には茎枯病に実用的な抵抗性を示す品種や育種素材がなかったため、抵抗性品種の育成は困難でした。しかし、近年、アスパラガスと同属で日本固有種であるハマタマボウキ(Asparagus kiusianus Makino)について、東北大学がアスパラガスとの交雑が可能なこと、九州大学が茎枯病抵抗性を有することを明らかにしたことにより、茎枯病抵抗性品種育成への道が開けました。

そこで、アスパラガスの品種育成の実績を有する農研機構、香川県、東北大学及び九州大学が共同で茎枯病抵抗性品種の育成に取り組み、茎枯病に対する高いほ場抵抗性を有するアスパラガス品種「あすたまJ」を育成しました。

用語の解説

(※1) アスパラガス茎枯病
国内のアスパラガス栽培で最も深刻な病害であり、茎に小斑点を生じ、やがて淡褐色紡錘形の病斑になり、さらに拡大すると茎全体が枯死します。枯死はやがて株全体に及び、欠株が生じて減収、廃耕などの大きな被害をもたらします。病原菌は被害残渣上で越冬し、降雨が多いと発生が多くなり、とくに梅雨期と秋雨期に病勢の進展が著しくなります。

(※2) 露地栽培
自然の畑条件で作物を栽培することです。国内のアスパラガス栽培面積のうち、約80%が露地栽培です。

(※3) ハマタマボウキ
アスパラガスと同じクサスギカズラ属に属する日本固有種で、環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠΒ類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)として掲載されています。

(※4) ほ場抵抗性
作物がほ場農地条件で示す病害抵抗性のことで、発病の程度(発病開始時期・病斑数・病斑面積割合・病斑の大きさ・病害増殖速度など病害によりさまざまな要素によって現れます)を低く抑える性質のことです。

(※5) 分生子
菌糸の一部が伸び、その先がくびれてできる特別な胞子です。分生胞子ともいいます。子のう菌類が無性生殖する際に見られます。

新品種「あすたまJ」の特徴

1. 「あすたまJ」は、アスパラガスとハマタマボウキの種間交雑により育成した品種です。

2. 「あすたまJ」は、茎枯病菌の苗への接種試験に対して、従来品種よりも病斑の進展が遅く、高い抵抗性を示します(写真2)。


写真2 茎枯病菌を接種した苗の発病状況(接種28日後)

3. 「あすたまJ」は、茎枯病発生ほ場における殺菌剤無散布条件下での露地栽培において、従来品種が衰弱してしまう条件下においても複数年にわたり旺盛に生育し、高いほ場抵抗性を示します(写真3)。


写真3 殺菌剤無散布条件下の露地ほ場での茎枯病発生状況の例。従来品種(黄色囲みの部分)は、茎枯病のため地上部がほぼ枯れている

4. 「あすたまJ」は、茎枯病発生ほ場における殺菌剤無散布条件下での春どり露地栽培において、従来品種の収量がほぼ皆無となる条件下でも、高い収量性を示します(図1)。

図1 殺菌剤無散布条件下の露地ほ場での春どり栽培における収量の例。茎枯病によって従来品種は収量がほぼ皆無であるが、新品種「あすたまJ」は定植後殺菌剤を一切散布していないにもかかわらず高い収量が得られている

5.「あすたまJ」は、従来品より茎が細い傾向があります(写真4)。揃った細い若茎(わかぐき)(食用部分)がたくさん取れる特徴があります(写真5)。


写真4 新品種「あすたまJ」と従来品種の若茎の太さの違い(長さ25cm)


写真5 新品種「あすたまJ」の収穫物(長さ25cm)

品種の名前の由来

アスパラガスとハマタマボウキの種間雑種であることから、アスパラガスの「アス」とハマタマボウキの「タマ」からとった「あすたま」に、日本固有種を親に持ち、日本のオリジナル性が高いことからJapanのJを付し、「あすたまJ」と命名しました。

今後の予定・期待

今回育成した「あすたまJ」は、茎枯病に対してアスパラガス種内での交配では期待できなかった高いほ場抵抗性を有し、茎枯病発生ほ場での春どり栽培における高い収量性を有します。既存の露地産地のみならず、これまで茎枯病のため営利的な生産が困難とされてきた温暖地の露地生産への導入など、アスパラガスの露地生産を革新することが期待できます。一方で、「あすたまJ」の若茎は細く、太いほうが良いとされる従来の市場価値では単価が低く抑えられる懸念があることから、研究グループでは、今年度採択されたオープンイノベーション研究・実用化推進事業(JPJ011937)において、引き続き「あすたまJ」の若茎の特徴を生かした需要創出や、「みどりの食料システム戦略」に貢献する環境負荷低減技術の開発等に取り組んでいく予定です。

原種苗提供の予定

当面は、オープンイノベーション研究・実用化推進事業課題で行う環境負荷低減栽培技術に関する現地実証試験を進め、プロジェクトが終了する令和10年頃には生産者へ原種苗を提供できる予定です。

1202農芸化学
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