イネ稲こうじ病の防除技術標準作業手順書を公開

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土壌改良資材と薬剤散布適期連絡システムの利用でイネ稲こうじ病を防除可能に

2021-06-29 農研機構

ポイント

農研機構は、これまで防除が難しかったイネ稲こうじ病1)に対し、転炉スラグ2)系資材や生石灰による土壌改良と、「1km-メッシュ農業気象データ版薬剤散布適期連絡システム」による適期防除の支援方法を組み合わせた防除技術を開発し、その標準作業手順書3)を本日公開しました。これによりイネ稲こうじ病を適切に防除することができます。

概要

イネ稲こうじ病は、穂に黒い病粒を形成する水稲の病害です。本病の病粒片が玄米に混入すると農産物検査において規格外になるなど発生による被害が大きく国の指定有害動植物にも指定されていますが、これまでは防除が困難でした。農研機構は本病を適切に防除する技術を開発し、その標準作業手順書を農研機構のウェブサイトで公開しました。
(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/138528.html)。
イネ稲こうじ病は、病粒に含まれる多量の厚壁胞子が土壌に落下し伝染源となり、翌年に本菌がイネ苗の根から侵入して収穫期近くの穂に症状が現れます。土壌中の厚壁胞子は数年間にわたり生存するため、一度発生したほ場では、数年間は防除が必要となります。本病は薬剤散布による防除が可能ですが、有効な散布期間は出穂10~21日前に限られており、適切なタイミングの判断が難しいことが問題となっていました。
これらの問題を解決するため、土壌改良資材を水田土壌に混和し厚膜胞子から感染しにくい環境を構築する方法と、電子メールを利用した「1km-メッシュ農業気象データ版イネ稲こうじ病の薬剤散布適期連絡システム」による薬剤の適期散布を支援する方法を組み合わせることにより本病を適切に防除できる技術を開発し、標準作業手順書を作成しました。本技術を導入することで、3年以内にイネ稲こうじ病の防除が不要となることが期待されます。

関連情報

予算:運営費交付金

問い合わせ先

研究推進責任者 :
農研機構植物防疫研究部門 所長 眞岡 哲夫

研究担当者 :
同 作物病害虫防除研究領域 主席研究員 芦澤 武人

広報担当者 :
同 行政連携調整役 宮田 伸一

詳細情報

開発の社会的背景

イネ稲こうじ病は近年、北海道を除く全国で発生が顕著になっており、過去10年のうち5年で発生面積が10万ヘクタールを超えています。本病の病粒が販売用の種籾に混入するとクレームにより生産者から返品されることがあります。病粒片が玄米に混入すると米穀の農産物検査で規格外と判定され、色彩選別機でこれを除去する経費がかかります。また、病粒が混入したサイレージを牛に給与すると、避けて食べようとしない忌避行動を示します。このように本病の影響は多岐にわたりますが、根本的な対策はほ場での本病の発生を少なくすることです。

研究の経緯

これまで、収穫期近くになって本病の発生がわかってからでは防除できないことが知られていましたが、近年になって詳しい発生生態が明らかになり、農薬による防除が可能なことがわかりました。しかしこれまで、土壌中の厚壁胞子からの感染を防ぐために「発生しにくい土壌環境を構築する」という発想や取り組みはなく、また、薬剤防除の適期は出穂前の限られた期間しかないため、的確なタイミングでの処理は非常に困難でした。
これらを解決するため、まず土壌改良資材の施用による土壌環境の構築に向けた効果的な資材のスクリーニングを行うとともに、ICTを活用した薬剤の散布適期を支援するシステムの作成が必要と考え、それらを組み合わせた防除技術の開発に取り組みました。

研究の内容・意義

農研機構は本病を適切に防除する技術を開発し、その標準作業手順書を農研機構のウェブサイトで公開しました(図1)。

1.本技術の特徴

まずイネの移植前のほ場に土壌改良資材を散布して土壌混和し、本病が発生しにくい環境作りを行います。その後、生育期に薬剤散布適期連絡システムから電子メールで散布適期の情報を受け取り、それに従って薬剤を散布し本病の発病(穂に胞子を含む黒い病粒がつく)を抑制します。これを3年繰り返すことで本病の発生を減少させることができ、防除不要になることが期待できます(図2)。

2.土壌改良の方法

土壌改良資材は「転炉スラグとその粒状資材」および「生石灰(粒状苦土生石灰)」が利用でき、いずれもJAなどから入手できます。転炉スラグは10アールあたり300kgを基準として、一度施用すれば3年間は再散布の必要がありません。生石灰は10アールあたり100kgを基準として、3年間散布する必要があります。散布時期は移植前であればいつでも良く、通常は2月から代かき前までに行います。

3.薬剤散布適期連絡システムの利用方法

農研機構が開発した「1km-メッシュ農業気象データ版イネ稲こうじ病の薬剤散布適期連絡システム」には、パソコン版、スマートフォン版とその簡易版が利用できます。いずれもまずユーザー登録したあと、本病名、地点、品種、移植日等の栽培情報などを登録すると、出穂期の薬剤散布適期に電子メールを受信することができます(図2のポイント2、3、図3)。ユーザー登録にあたっては担当窓口までお問い合わせください。

4.薬剤の散布方法

農薬には、シメコナゾール粒剤と銅剤が利用でき、いずれもJAなどから入手できます。散布適期に入ると電子メールが配信されるので、実際に幼穂が1~5cmに生育していたら薬剤を散布します。シメコナゾール1.5%粒剤および銅剤(粉剤)は10アールあたり3~4kg、銅水和剤は2,000倍希釈液を10アールあたり60~150L散布します(なお、薬剤の使用に当たっては、稲への適用があり、記載の使用量、希釈倍数での使用が可能な登録農薬であることを必ず確認してください)。

5.土壌改良資材と農薬の組み合わせ

「転炉スラグ+シメコナゾール粒剤」「生石灰+シメコナゾール粒剤」「銅剤のみ」の3つの体系を推奨します。生産者の保有する農業機械や実情に合わせて選択してください。例えば3年以内に防除が不要となることをめざす場合は、転炉スラグまたは生石灰を施用し、薬剤による適期防除を行います。銅剤のみを使用する場合は、毎年防除することが基本になります。

6.現地での実証例

「転炉スラグ+シメコナゾール粒剤」による現地実証事例では、株あたりの病粒数が無処理区の0.81個に対し、処理区では0.11個と発病が抑制され、規格外となる発生量(0.5個)を下回りました(図4)。

今後の予定・期待

1.本標準作業手順書を活用して本病の防除対策技術を普及することにより、種籾や食用玄米のみならず飼料用米、サイレージの品質が確保され、生産性の向上や生産者の負担軽減につながることが期待されます。

2.本技術に用いている「薬剤散布適期連絡システム」のプログラムは、農業データ連携基盤WAGRIに搭載されており、今後、民間企業や都道府県などのシステムに実装されサービスが提供されることが期待されています。

用語の解説
1)イネ稲こうじ病(いねいなこうじびょう)
イネ苗の根から病原菌が感染して、出穂後の穂に黒い病粒を形成する水稲の重要な病害です。本病名は「イネに発病する”稲こうじ病”」という意味です。植物に感染する病気で、人や家畜には感染しません。また病粒が混入した食用米や飼料用米による人および家畜の健康への影響は報告されていません。
2)転炉スラグ
鉄鋼を作成する際に生成される副産物。鉄やカルシウムをはじめ作物の栽培に必要な複数の微量要素が含まれています。
3)標準作業手順書(SOP: Standard Operation Procedures)
技術の必要性、導入条件、具体的な導入手順、導入例、効果等を記載した手順書。農研機構は重要な技術についてSOPを作成し、社会実装(普及)を進める指針としています。
発表論文

1km-メッシュ農業気象データ版イネ稲こうじ病の薬剤散布適期判定システム
農研機構研究報告 1:39-41(2019)

参考図

図1 標準作業手順書の表紙

図2 防除技術体系の基本手順

図3 1km-メッシュ農業気象データ版イネ稲こうじ病の薬剤散布適期連絡システムのPC版画面例

図4 転炉スラグの土壌混和と農薬の適期散布による現地実証例(2018年)

注)転炉スラグ+シメコナゾール: 転炉スラグ300kg/10aの土壌散布・混和は4月26日+シメコナゾール4kg/10aの湛水散布は7月26日(出穂期21日前)
無処理: 無散布
イネ品種: きぬむすめ
調査月日: 9月3日

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