タンデム触媒による新しいC-H官能基化反応の開発に成功~CO2の新たな有効利用法として期待~

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2023-01-06 理化学研究所

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループの侯 召民グループディレクター(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 主任研究員)、ハリクリシュナ・サフー 特別研究員、張 亮 専任研究員(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)、西浦 正芳 専任研究員(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)らの研究チームは、アルケン類[1]のホウ素化反応とカルボキシル化反応[2]を進行させることが可能なタンデム型銅触媒[3]を開発し、二酸化炭素(CO2)によるアルケニルC-H結合[1]のカルボキシル化に成功しました。

本研究成果は、今後の金属触媒の設計・開発にとって重要な指針を与えるとともに、CO2を炭素源とするアルケン類のC-H結合変換反応であることから、CO2の新たな有効利用法の開発にもつながると期待できます。

CO2によるアルケニルC-H結合のカルボキシル化反応は、対応するエステル類[4]やカルボン酸[4]の有用な合成手法ですが、これまで基質が特殊なアルケン類に限られていました。

今回、研究チームは銅触媒を用いて、アルケン類、CO2、ホウ素化合物、リチウムアルコキシド[5]といった複数の入手容易な原料を反応させたところ、アルケン類のホウ素化反応とカルボキシル化反応がタンデム的(ドミノ的)に進行し、1ポットでアルケニルC-H結合を選択的にカルボキシル化できることを発見しました。この反応では、さまざまな官能基を持つアルケン類を用いることが可能であり、基質適用範囲が広いという利点があります。

本研究成果は、科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』オンライン版(2022年12月16日付)に掲載されました。

背景

二酸化炭素(CO2)は温室効果ガスとして環境に悪影響を及ぼすことから、空気中のCO2削減につながる有効な利用法の開発が期待されています。化学合成の観点からは、CO2は入手容易で再生可能なC1炭素資源[6]です。しかし、CO2は化学的に安定であるため、効率的かつ実用的な化学変換を実現するには、新しい反応の開発が必要です。

一方、CO2によるアルケニルC-H結合のカルボキシル化反応は、対応するカルボン酸やエステル類の有用な合成手法ですが、従来、基質は配向基[7]を持つ特殊なアルケン類に限られていました。

研究チームはこれまで、安価な銅触媒を用いてCO2を利用する有機合成反応について研究を進めてきました。そこで今回、CO2を用いて多様なアルケン類のC-H結合を効率的にカルボキシル化できる新しい手法の開発に挑みました。

研究手法と成果

研究チームは以前、銅触媒存在下で、スチレン類[1]、CO2、ホウ素化合物、リチウムアルコキシドなどを反応させて、スチレン類のボラカルボキシル化反応[8]の開発を進めていました。今回、銅触媒上の配位子[9]を検討し、より高い温度で反応させたところ、ボラカルボキシル化反応は進行せず、アルケニルC-H結合のカルボキシル化が選択的に進行することを発見し、対応するアルケニルエステル類の合成手法を開発しました(図1)。この反応では特殊な配向基は必要なく、さまざまな官能基を持つアルケン類を用いることが可能です。

図1 銅触媒を用いたアルケニルC-H結合のカルボキシル化反応

銅触媒存在下、CO2やアルケン類を含む4種類の入手容易な原料を用いることにより、1ポットでアルケニルC-H結合をカルボキシル化できる。これは、多様なアルケン類に適用できる新しい二酸化炭素固定化反応である。


反応機構を詳しく調べたところ、銅触媒を用いることにより、アルケン類のホウ素化反応とカルボキシル化反応がタンデム的(ドミノ的)に進行し、形式的にアルケニルC-H結合のカルボキシル化反応が進行していることが明らかになりました(図2)。この反応では、まず銅触媒によるアルケン類(R-CH=CH2)のホウ素化反応により、銅アルキル種が生成し、その後β水素脱離[10]により、銅ヒドリド[11]種[Cu-H]が生成するとともに、アルケニルホウ素化合物(R-CH=CHB)が得られます(図2左)。銅ヒドリド種[Cu-H]は、CO2とリチウムアルコキシド(LiOR”)により触媒活性種である銅アルコキシド種[Cu-OR”]に変換され、アルケニルホウ素化合物のカルボキシル化反応が進行します(図2)。

タンデム型銅触媒によるアルケニルC-H結合のカルボキシル化の反応機構の図

図2 タンデム型銅触媒によるアルケニルC-H結合のカルボキシル化の反応機構

アルケン類のホウ素化反応(左)とカルボキシル化反応(右)がタンデム的に進行する。中央の触媒活性種である銅アルコキシド種[Cu-OR”]は二つの反応を進行させることができるが、ホウ素化反応後に生成する銅ヒドリド種[Cu-H]をCO2とリチウムアルコキシド(LiOR”)により、銅アルコキシド種[Cu-OR”]に変換することが、タンデム反応の重要なポイントである(左)。


一般的に、アルキル金属種を活性種とする触媒反応では、ヒドリド種を生成するβ水素脱離は触媒を失活させる副反応としてよく知られています。今回の触媒反応では、生成した銅ヒドリド種[Cu-H]がすぐに活性種である銅アルコキシド種[Cu-OR”]に変換されるため、二つの異なる反応がタンデム的に進行する点に大きな特徴があります。また、この反応においてCO2はカルボキシル化反応の炭素源として機能するだけでなく、銅ヒドリド種[Cu-H]から銅アルコキシド種[Cu-OR”]へ変換するための反応試剤として働いており、二つの重要な役割を担っています。このような反応系中に生成した金属種を触媒活性種に変換し、タンデム触媒系を構築するコンセプトは、さまざまな反応系に適用できる可能性が高く、触媒設計の観点から非常に重要な成果だと考えられます。

今後の期待

研究チームは、アルケン類のホウ素化反応とカルボキシル化反応を進行させることができるタンデム型銅触媒を開発し、CO2によるアルケニルC-H結合のカルボキシル化反応に成功しました。さらに、この反応ではさまざまな官能基を持つアルケン類を用いることが可能であり、基質適用範囲が広いという利点があります。本研究成果は、今後の金属触媒の設計・開発にとって重要な指針を与えるものです。

また、今回開発した合成手法は、CO2を炭素源とするアルケン類のC-H結合変換反応であることから、CO2の新たな有効利用法の開発にもつながると考えます。

さらに今回の研究は、国際連合が2016年に定めた17項目の「持続可能な開発目標(SDGs)[12]」のうち「12.つくる責任つかう責任」に大きく貢献する成果です。

補足説明

1.アルケン類、アルケニルC-H結合、スチレン類
アルケン類は、分子内に炭素-炭素間の二重結合を1個持つ鎖式炭化水素群。アルケニルC-H結合は、アルケンの二重結合の炭素とそれにつながる水素との結合を指す。スチレン類は芳香族炭化水素で、ベンゼンの水素原子の一つがビニル基(-CH=CH2)に置換された構造を持つ。

2.カルボキシル化反応
有機化合物にカルボキシル基(-COOH)を導入する反応。

3.タンデム型銅触媒
タンデム触媒とは、一つの素反応が別の部分に活性な官能基を生成し、それをさらに反応させることができる触媒の総称。ドミノ触媒とも呼ばれる。1工程で多数の結合を生成するため、反応ルートの効率化・短工程化に寄与する。本研究では、銅を用いたタンデム触媒(タンデム型銅触媒)を開発した。

4.エステル類、カルボン酸
エステル類はR’-COO-Rのエステル結合を持つ化合物の総称。アルコール類(ROH)とカルボン酸(R’COOH)との脱水反応によって合成できる。

5.リチウムアルコキシド
アルコキシドは、アルコール類(ROH)の水酸基(-OH)のHを金属で置換した化合物の総称。その金属がリチウムのものが、リチウムアルコキシド(LiOR)である。

6.C1炭素資源
原料として利用できる炭素数が1の化合物群。一酸化炭素やメタンなどもC1炭素資源である。

7.配向基
金属触媒と結合することで、特定のC-H結合が反応するように舵取りをする基のこと。金属と結合しやすい酸素や窒素を含む官能基が、配向基として利用されることが多い。

8.ボラカルボキシル化反応
アルケン類の二重結合の一つの炭素にホウ素を導入し、別の炭素にカルボキシル基(-COOH)を導入する反応。一度の反応で二つの官能基を導入できる効率的な反応である。

9.配位子
金属に結合する化合物の総称。金属と結合しやすい窒素やリンを含む場合が多い。配位子の形や数を変えることにより、金属触媒の反応性を制御できる。

10.β水素脱離
金属中心にアルキル基が結合している基質から水素の脱離が起こり、アルケンと金属ヒドリドに分かれる反応を指す。アルキル基の中で金属と直接結合している炭素をα炭素と呼び、その隣の2番目のものはβ炭素と呼ぶ。β水素脱離が起こるためには、β炭素上に水素原子を持っている必要がある。

11.ヒドリド
水素の陰イオンのことであり、水素化物イオンとも呼ぶ。化学記号では、Hとも表記される。

12.持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。

研究チーム

理化学研究所
環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民(コウ・ショウミン)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 主任研究員)
特別研究員 ハリクリシュナ・サフー(Harekrishna Sahoo)
特別研究員(研究当時)ジェンファ・チェン(Jianhua Cheng)
専任研究員 張 亮(チャン・リャン)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)
専任研究員 西浦 正芳(ニシウラ・マサヨシ)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)

研究支援

本研究は、理研環境資源科学研究センター(CSRS)次世代飛躍研究プログラム(研究代表者:張 亮)と理研奨励課題(研究代表者:張 亮)による支援を受けて行われました。

原論文情報

Harekrishna Sahoo, Liang Zhang, Jianhua Cheng, Masayoshi Nishiura, Zhaomin Hou, “Auto-Tandem Copper-Catalyzed Carboxylation of Undirected Alkenyl C-H Bonds with CO2 by Harnessing -Hydride Elimination”, Journal of the American Chemical Society, 10.1021/jacs.2c10754

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民(コウ・ショウミン)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 主任研究員)
特別研究員 ハリクリシュナ・サフー(Harekrishna Sahoo)
専任研究員 張 亮(チャン・リャン)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)
専任研究員 西浦 正芳(ニシウラ・マサヨシ)
(開拓研究本部 侯有機金属化学研究室 専任研究員)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

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