2022-10-30 京都大学
捕食者は餌動物を捕食して減らすだけではなく、餌動物に警戒させることでも活動を抑えます。地上の至る所を歩き回って捕食するアリは、小型の害虫を抑止しているはずです。植物を食い荒らすハダニは、新しい化学農薬にすぐに耐性をつける厄介な農業害虫ですが、アリなどの捕食者がいる自然生態系では低密度に抑えられています。
矢野修一 農学研究科助教と秋野順治 京都工芸繊維大学教授らの共同研究グループは、ナミハダニとカンザワハダニが、アミメアリとクロヤマアリの足跡に残る化学物質を避けることを発見しました。アリの活動圏に残る足跡物質を避けることで、ハダニはアリとの出会いを防げる一方で、餌植物を自由に利用できないはずです。このハダニのアリ回避術を逆手に取れば、人体と環境に無害な天然物質でハダニを農作物から追い払えるかもしれません。この物質にハダニが耐性をつける心配はありません。自然の摂理に背いてアリの足跡物質を恐れないハダニは、アリに捕食されて淘汰されるからです。
本研究成果は、2022年10月27日に、国際学術誌「Experimental and Applied Acarology」にオンライン掲載されました。
本研究の概要図
研究者のコメント
「研究者の本懐とは、直面する難題や固定観念を打ち破ることです。新しい農薬開発と害虫による抵抗性進化のいたちごっこには際限がないので、このテーマで際限なく研究ができて論文が書けるかもしれませんが、問題は解決しません。突破口を拓くために分野の「常識」に挑むと、論文が受理されるまでに大変苦労します。でも私たちはへこたれません。この研究が世界を少しだけ変えるかもしれないという夢があるからです。」(矢野修一)
研究者情報
研究者名:矢野 修一
書誌情報
【DOI】
【書誌情報】
Shuichi Yano, Mayu Konishi, Toshiharu Akino (2022). Avoidance of ant chemical traces by spider mites and its interpretation. Experimental and Applied Acarology.
メディア掲載情報
日本経済新聞(10月26日夕刊 11面)、産経新聞(10月27日夕刊 6面)、毎日新聞(10月28日夕刊 1面)および読売新聞(11月9日夕刊 10面)に掲載されました。