2022-06-03 物質・材料研究機構,早稲田大学
NIMSや学校法人早稲田大学を中心とした国際共同研究チームは、これまで細孔をあけることが難しかった炭素ナノシートに無数の孔をあける手法を開発し、多孔性炭素ナノシートの合成に成功しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) や学校法人早稲田大学 (早大) を中心とした国際共同研究チームは、これまで細孔をあけることが難しかった炭素ナノシートに無数の孔をあける手法を開発し、多孔性炭素ナノシートの合成に成功しました。無孔質の二次元ナノシートでは、積層すると比表面積を大幅に失うため、電気化学的な特性を生かしきれません。今回、有機金属構造体 (MOF) と呼ばれる物質がナノシート状に剥離できる事に着目し、剥離後のMOF由来ナノシートの炭化によって新材料の合成に成功しました。本研究成果で合成された多孔性炭素ナノシートは、再積層して3次元材料にしても多くの触媒活性部位を保持することが確認されており、燃料電池や二次電池への応用が期待されます。
- 有機種を基本ユニットとする空間物質、又は有機配位子と金属イオンの「配位結合」からなるMOFは、ガス吸着、分離、分子認識などとしての応用には最適です。しかし、電極触媒、キャパシタ、二次電池、燃料電池などの幅広い電気化学的な応用を考えると不向きであり、そのためには導電性のある化学的に安定な物質で骨格を形成した多孔性物質を創製する必要がありました。
- 今回、国際共同研究チームが開発した多孔性炭素ナノシートは、厚さ1.5nmの極薄二次元シートになっており、その表面には無数の細孔が存在し、それらはシート中を貫通しています。そのため、他の分子でシート内の細孔表面を修飾し、新たな機能を付加することも容易です。例えば、MOFに含まれている窒素(N)原子を残して、窒素ドープされた多孔性炭素ナノシートを合成したのちに、細孔内を鉄 (Fe) 原子で適切に修飾すれば、多くのFe-N4活性サイトを凝集することなく、均一かつ高密度で形成できます。これは、燃料電池において、酸性下での酸素還元反応 (ORR) 活性を高める重要技術となります。このように、本炭素物質は、将来的に、エネルギー変換・貯蔵などの幅広い電気化学的用途へ応用されると期待されます。
- 本研究は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) メソスケール物質化学グループの山内悠輔グループリーダー (豪州クイーンズランド大学・教授/早大・客員上席研究員/JST-ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクト・研究総括) 、及び早稲田大学、クイーンズランド大学、華東師範大学、南京航空航天大学などの国際共同研究チームで行われ、JST – ERATO山内物質空間テクトニクスの支援を受けて実施されました。
- 本研究成果は、日本時間2022年5月23日に、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。
プレスリリース中の図 : 多孔性炭素ナノシートの合成プロセス
掲載論文
題目 : Metal–Organic Framework-Derived Graphene Mesh: a Robust Scaffold for Highly Exposed Fe–N4 Active Sites toward an Excellent Oxygen Reduction Catalyst in Acid Media
著者 : Jingjing Li, Wei Xia, Jing Tang, Yong Gao, Cheng Jiang, Yining Jia, Tao Chen, Zhufeng Hou, Ruijuan Qi, Dong Jiang, Toru Asahi, Xingtao Xu, Tao Wang, Jianping He and Yusuke Yamauchi
雑誌 : Journal of the American Chemical Society
掲載日時 : 日本時間2022年5月23日
DOI : 10.1021/jacs.2c00719