銀河団の「向かい風」が作る超淡銀河

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2021-12-05 国立天文台

数百から数千もの銀河からなる銀河団は高温ガスに満ちており、その中を移動するメンバー銀河は高温ガスを「向かい風」のように受けています。この「向かい風」が、銀河団に数多く存在する淡く広がった矮小銀河 (超淡銀河) の形成に大きな役割を果たしている様子が、すばる望遠鏡の広視野画像などを用いた研究から明らかになりました。

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銀河団の「向かい風」が作る超淡銀河 図

図1:渦巻銀河から超淡銀河への進化を表す概念図。(a) 星生成をしている軽量の渦巻銀河が銀河団の重力に捕らえられると、(b) 銀河団の中心部へ落ちていく間に、銀河団ガスの圧力で星生成が活発化しつつ、銀河からガスがはぎ取られます。はぎ取られたガスの「尾」の部分でも星形成が起こることがあります。(c) ガスのはぎ取りや星形成で銀河のガスが消費された結果、星形成は停止、銀河円盤は広がって、本研究で観測された天体のようになります。(d) 星形成のないまま数十億年が経過すると、元の銀河の質量やガスの量によって、超淡銀河や矮小楕円銀河になります。(クレジット:Kirill Grishin, Legacy Surveys / D. Lang (Perimeter Institute), NAOJ, CFHT, ESO)


超淡銀河は、非常に薄く広がった銀河で、天の川銀河の 100 分の1以下程度の数の星しか含まず、星形成も見られません。大きさや形はさまざまで、矮小楕円銀河のように丸くて滑らかな形もあれば (注1)、他の銀河との相互作用で歪んだ形をしているものもあります。かみのけ座銀河団では約 1000 個の超淡銀河が発見されており、銀河団のメンバーの約8割を、超淡銀河と矮小楕円銀河が占めていると考えられています。
これほどありふれた存在でありながら、超淡銀河の起源と進化はよく分かっていません。矮小楕円銀河と同様に、超淡銀河も初期の宇宙で形成された後、他の銀河との合体による成長がなかった銀河なのかもしれません。また、初期の星形成で発生した超新星爆発によって銀河が膨張し、その後の星形成が阻害された可能性も考えられます (超淡銀河を「失敗した銀河」と考える天文学者もいます)。銀河団の高温ガスによる向かい風や、他の銀河との遭遇による潮汐力も同様の役割を果たした可能性がありますし、あるいは、最初から超淡銀河になるような特異な性質があったのかもしれません。
ロシア、アメリカ、日本、フランス、アラブ首長国連邦の研究者からなる国際研究チームは、超淡銀河の前段階と考えられる薄く広がった銀河に着目しました。まず、かみのけ座銀河団と Abell 2147 銀河団の銀河カタログから、現在の星形成はないものの、平均年齢が 15 億年以下の比較的若い星から構成されている、薄く広がった銀河を 11 天体選び出しました。これらの天体は爆発的な星形成が終わったあとの銀河だと考えられます。そして、すばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) と Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム) のアーカイブ画像と、口径 6.5 メートルの MMT 望遠鏡を用いた分光観測で、銀河の形状や周辺の様子と銀河内の星の性質を詳しく調べました (注2)。
すばる望遠鏡による画像を調べた結果、銀河団ガスの向かい風によって銀河ガスがはぎ取られたことを示す「尾」のような構造が、どの天体にも付随していることが明らかになりました (注3)。MMT 望遠鏡による分光観測からは、それぞれの銀河の星形成の歴史が推定できます。以上の結果を合わせ、研究チームは、図1のようなシナリオを提案しました - これらの銀河は約 120 億年前に形成され(図1 (a))、約2億年前から 10 億年前にかけて、銀河団の中心領域に向かって移動する際、銀河団ガスの「向かい風」によって、爆発的な星形成が誘発されるとともに銀河ガスのはぎ取りが起こりました (図1( b))。ガスのはぎ取りや星形成が進んで銀河内のガスが消費されると、星形成は停止します (図1 (c))。11 個の銀河はどれも、このようにして形成されたと研究チームは推測しています。これから先、新たな星形成がないまま数十億年がたつ間に、星が死んでいくことで銀河は暗くなり、また星の数の減少や他の銀河との相互作用などによって薄く広がり、最終的には、超淡銀河や矮小楕円銀河になると考えられます (図1 (d))。統計的な推定から、研究チームは、かみのけ座銀河団にある超淡銀河の約半数が、上記のような銀河団ガスの「向かい風」による星形成の誘発とガスのはぎ取りという過程を経てできたのではないかと結論しています。
本研究成果は、英国の天文学専門誌『ネイチャー・アストロノミー』に2021年11月1日付で掲載されました (Grishin et al. “Transforming gas-rich low-mass disky galaxies into ultra-diffuse galaxies by ram pressure“)。

(注1) 矮小楕円銀河は暗く小さな楕円銀河ですが、超淡銀河よりは星が密集している分、サイズは小さく、明るく見えます。

(注2) 分光観測で銀河内の星の運動を調べることにより、銀河に含まれるダークマターの質量も調べられます。観測の結果、これらの銀河の質量の 70-95 パーセントをダークマターが占めていることが分かりました。超淡銀河がバラバラにならないためには大量のダークマターが必要なはずだという考えを支持する結果です。

(注3) 「銀河の尾」の中には、若い星とともに最近の星形成を表す輝線 (Hα) で光っているものもありました。一方、銀河本体が Hα 輝線で光っている天体はなく、星形成を終えた銀河であることが撮像データからも確認されました。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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