負の屈折率温度係数を示す新しい半導体を発見

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ハロゲン化金属ペロブスカイトを用いた光学温度補償に成功

2019-07-22 京都大学

金光義彦 化学研究所教授、半田岳人 同博士課程学生、田原弘量 同助教、阿波連知子 同研究員らの研究グループは、ハロゲン化金属ペロブスカイトCH3NH3PbCl3が、温度上昇とともに屈折率が大きく減少する、新しい負の屈折率温度係数を持つ物質であることを発見しました。
本研究によって明らかになったCH3NH3PbCl3が示す負の屈折率温度係数は、実用半導体が通常示す正の屈折率温度係数と逆の傾向です。多くの半導体デバイスにおいて、温度によって光学特性が変化するという問題が生じてしまうのですが、本研究グループはCH3NH3PbCl3が示す逆の特性を利用することにより、この問題の解決に利用できることを示しました。通常の「正」の依存性を持つ半導体と今回発見した「負」の依存性を持つペロブスカイト材料を合わせることで、光学特性の温度変化を打ち消すことに成功しました。
CH3NH3PbCl3は透明かつ、溶液法で高品質な試料を作製可能であるため、幅広い光技術への応用展開が期待されます。
本研究成果は、2019年7月20日に、国際学術誌「Science Advances」のオンライン版に掲載されました。

図:溶液法で作製したCH3NH3PbCl3単結晶の写真

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1126/sciadv.aax0786

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/243168

Taketo Handa, Hirokazu Tahara, Tomoko Aharen and Yoshihiko Kanemitsu (2019). Large negative thermo-optic coefficients of a lead halide perovskite. Science Advances, 5(7):eaax0786.

詳しい研究内容について

負の屈折率温度係数を示す新しい半導体を発見
―ハロゲン化金属ペロブスカイトを用いた光学温度補償に成功―

概要
京都大学化学研究所 金光義彦 教授、半田岳人 同博士課程学生、田原弘量 同助教、阿波連知子 同研究員 の研究グループは、ハロゲン化金属ペロブスカイト CH3NH3PbCl3 が、温度上昇とともに屈折率が大きく減少 する、新しい負の屈折率温度係数を持つ物質であることを発見しました。これは、実用半導体が通常示す正の 屈折率温度係数と逆の傾向です。多くの半導体デバイスにおいて、温度によって光学特性が変化するという問 題が生じてしまうのですが、研究グループはこの物質が示す逆の特性を利用することにより、この問題の解決 に利用できることを示しました。通常の“正”の依存性を持つ半導体と今回発見した“負”の依存性を持つペロブ スカイト材料を合わせることで、光学特性の温度変化を打ち消すことに成功しました。CH3NH3PbCl3は透明か つ、溶液法で高品質な試料を作製可能であるため、幅広い光技術への応用展開が期待されます。
本研究成果は、2019 年7月 20 日(日本時間)に国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載され ました。


図1:溶液法で作製した CH3NH3PbCl3単結晶の写真。

1.背景
ハロゲン化金属ペロブスカイトは、材料費が安価かつ、溶液法で作製した際にも高品質な結晶を得ることが できるため、フレキシブルな光デバイスの材料として注目されています。ペロブスカイト材料を用いることで 非常に高効率な太陽電池や発光ダイオードが実現されています。このような光デバイスにおいて、用いる物質 の屈折率は、最適な素子構造を決定する最も重要なパラメータの一つです。しかしこれまで、ペロブスカイト 材料の屈折率が温度に対してどのように変化するかは明らかになっていませんでした。

2.研究手法・成果
今回本研究グループは、ハロゲン化金属ペロブスカイト物質の一つである CH3NH3PbCl3の単結晶を作製し、 その屈折率の温度依存性を測定しました。その結果、CH3NH3PbCl3の屈折率は温度上昇とともに大きく減少す ることを発見しました。この負の屈折率温度係数は、シリコンなどの実用半導体材料が示す正の屈折率温度係 数や正の熱膨張率と逆の符号です。研究グループは、この逆の性質を用いることで、通常の半導体材料中で温 度変化によって生じてしまう光学特性の補償が可能であることを示しました。負の屈折率温度係数を持つ CH3NH3PbCl3 を用いることで、正の屈折率温度係数を持つ半導体 ZnSe で生じる温度にともなう光路長の変 化を、完全に打ち消すことに成功しました。

図2:(A) 通常の半導体と異なり、負の屈折率温度係数を持つ CH3NH3PbCl3では、温度上昇に伴い 物質中の光路長が短くなる。 (B) 正の屈折率係数を持つ ZnSe において生じる温度による光路長の 増加を、CH3NH3PbCl3を用いて打ち消すことに成功した。

3.波及効果、今後の予定
本研究で明らかになった負の屈折率温度係数は、ペロブスカイト材料を用いた光デバイスを設計する際の重 要な情報になるとともに、温度補償材料としての新しい応用も可能にする興味深い特性です。CH3NH3PbCl3は 可視光から近赤外光の幅広い波長の光を透過し、溶液法で高品質な試料を簡単に作製可能であるため、光集積 回路など様々な光デバイスでの温度補償応用への展開が期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CRESTと日本学術振興会特別研究員制度の助成を 受けました。

<研究者のコメント>
● 「ハロゲン化金属ペロブスカイトは安価かつ高効率な太陽電池材料として注目されてきた物質ですが、今 回の研究で光学温度補償材料としての新しい光機能を持つことを発見しました。ペロブスカイト材料は加工性 の良さ・高い透明性といった特徴もあわせ持つことから、さまざまな光技術応用における温度補償材としての 利用が考えられます。今後も、ペロブスカイト材料の新しい機能の開拓を目指します。」(半田岳人)

<論文タイトルと著者>
タイトル:Large negative thermo-optic coefficients of a lead halide perovskite(ハロゲン化金属ペロブスカ イトの巨大な負屈折率温度係数の発見)
著 者:Taketo Handa, Hirokazu Tahara, Tomoko Aharen, and Yoshihiko Kanemitsu 掲 載 誌:Science Advances  DOI:10.1126/sciadv.aax0786

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