宇宙への大気流出がより起こりやすい磁気嵐のタイプを大型レーダーで発見

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2019-07-23  国立極地研究所,東京大学 ,京都大学

太陽から放出された大量のプラズマが地球に到達すると、極域(南極域と北極域)でオーロラが爆発的に光る「オーロラ爆発」や、地球の磁場が乱れる「磁気嵐」といった現象が起こることがあります。オーロラ爆発の際、極域の上空では、大量の地球大気が上昇して宇宙空間へ流出することが知られていましたが、その流出の時間変化や量、磁気嵐との関係などは分かっていませんでした。

国立極地研究所の小川泰信准教授、東京大学大学院理学系研究科の関華奈子教授および桂華邦裕助教、京都大学生存圏研究所の海老原祐輔准教授の研究グループは、ノルウェーにある欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダーのデータを用い、極域の上空にあるイオン化した大気が宇宙空間へ向かう上昇流量や速度を解析しました。その結果、CME(コロナ質量放出)と呼ばれるタイプの磁気嵐の時に、地球大気の上昇流量が特に多くなることが明らかになりました。

図1:本研究に用いたEISCATスバールバルレーダー(撮影:小川泰信2009年8月)

研究の背景

太陽が放出するプラズマは太陽風と呼ばれ、オーロラの発生要因のひとつです。また、太陽風が地球に到達すると、その影響で極域の遥か上空では大気中のイオン化した酸素原子などが宇宙空間に流出することがあります。特に、オーロラ爆発が起こる時には、同時に大量のイオンが超高層大気中から上昇することが、これまでの研究で分かっています。

太陽から大量かつ高速のプラズマがやってくると、しばしば地球の磁場が乱れる「磁気嵐」が発生しますが、磁気嵐が起きるときにはオーロラ爆発が頻繁に発生するため、極域でのイオンの上昇流も頻繁に起こっていると考えられます。しかし、その時間変化や上昇流量についての観測は十分ではなく、磁気嵐との関係も不明のままでした。そこで研究グループは、ノルウェーのスカンジナビア半島北部とスバールバル諸島の2か所に設置され、日本を含む6ヶ国で共同運用している「EISCAT(欧州非干渉散乱)レーダー」の超高層大気観測データを用いて解析しました。

研究の内容

EISCATレーダーのうち、ノルウェーのトロムソ(北緯69度)と、同国スバールバル諸島ロングイヤービン(北緯78度)の2か所の観測データから、過去20年間(1996-2015年)に磁気嵐が起きていたときの高さ400-500 kmでの観測データを取り出して、磁気嵐時の上昇流の特徴(大気イオンの上昇流量や上昇速度)を調査しました。その際、磁気嵐を引き起こす要因が、高速の太陽風が先行する低速太陽風に追いつく現象(共回転相互作用領域:CIR)であった時と、太陽フレアに伴う突発的な太陽の爆発現象(コロナ質量放出:CME)であった時の2種類を区別して調べました(図2)。

図2:ノルウェーのトロムソ(北緯69度、磁気緯度66度)とスバールバル(北緯78度、磁気緯度75度)で観測されたイオン上昇流量の日変化。時間帯によって4つに色分けしている。さらに、共回転相互作用領域(CIR)とコロナ質量放出(CME)に起因する磁気嵐をそれぞれ区別して作成している。緯度の低いトロムソではCME発生時に夜側で、緯度の高いスバールバルではCME又はCIR発生時に昼側でイオンの上昇する流量が顕著に増えていることが分かる。

その結果、トロムソではCME起源の磁気嵐の場合に特にイオン上昇流量が増加していることが分かりました。そのほかにも、以下のことが判明しました。

CME起源の磁気嵐の場合
  • トロムソ(北緯69度):

    発生初日に夜間のイオン上昇速度が激しく増加。イオン上昇流量はCIR時の4倍。

  • スバールバル(北緯78度):

    昼にイオン上昇速度が増加。イオン上昇流量はCIR時と変わらない。

    イオン上昇流は初日のみ発生。

CIR起源の磁気嵐の場合
  • トロムソ:

    発生初日に夜間のイオン上昇速度が増加。ただ、イオン上昇流量はCME時に比べて少ない。

  • スバールバル:

    昼にイオン上昇速度が増加。イオン上昇流量はCME時と変わらない。

    イオン上昇流が数日間にわたり継続する。

また、夜間のイオン速度増加が起きているときには、超高層大気中の電子とイオンの温度が共に上昇することも分かりました。このことは、極域の遥か上空で、エネルギーの低い電子(数百電子ボルト)の降下と、電場の増大の両方が夜間に起きていることを示唆します。また、CME発生時にトロムソで見られたイオンの上昇流量の増大は、多量の降下粒子に伴って超高層大気中のイオンの量(密度)が増えることに起因することが分かりました。

このようなイオン上昇流の特徴と、関係する加熱や電流などとの関係(シミュレーション研究結果を組み合わせた内容)をまとめたものが、図3です。

図3:CMEとCIR起源の磁気嵐の発生初日における極域イオン上昇流の特徴のまとめ図。

赤点線と青点線は観測所の位置(一自転中の通り道)を示している。

発表論文

掲載誌:Journal of Geophysical Research:Space Physics

タイトル:Characteristics of CME‐ and CIR‐Driven Ion Upflows in the Polar Ionosphere

著者:

 小川 泰信(国立極地研究所 宙空圏研究グループ 准教授/総合研究大学院大学 複合科学研究科 准教授)

 関 華奈子(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授)

 桂華 邦裕(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 助教)

 海老原祐輔(京都大学生存圏研究所 准教授)

URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2018JA025870

DOI:10.1029/2018JA025870

論文公開日:2019年6月14日

研究サポート

本研究はJSPS科研費(JP16H02229、JP17K14400)の助成を受けて実施されました。

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室

京都大学総務部広報課 国際広報室

 

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