電力使用の削減未達量を検出する技術を世界で初めて開発

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スパース再構成を利用し、少ないデータで高速かつ正確に

2019-06-14 科学技術振興機構,名古屋大学,北海道大学,東京理科大学

ポイント
  • スマートグリッドの主要技術の1つであるデマンドレスポンスにおいて、需要家(参加者)が契約した所定の電力削減量(ネガワット)を供給できないことが想定される。
  • ブラックホールの撮影でも用いられたスパース再構成という手法を利用し、削減量を達成しなかった参加者を少ない情報量で高速かつ正確に検出する技術を開発した。
  • 本技術はデマンドレスポンスを長期的に安定運用するための保守技術として期待される。

JST 戦略的創造研究推進事業において、名古屋大学の東 俊一 教授、北海道大学の小林 孝一 准教授、東京理科大学の山口 順之 准教授らの研究グループは、スマートグリッド注1)の主要技術であるデマンドレスポンス注2)の参加者の削減未達状況を、少ない情報量で高速かつ正確に検出する技術を開発しました。

スマートグリッドにおける電力需要の安価な調整法として、デマンドレスポンスへの期待が高まっています。デマンドレスポンスとは、アグリゲーターが多数の参加者を束ねて、まとまった量のネガワット注3)を得るものです。これを実現するには、個々の参加者が契約した所定のネガワットを確実に供給することが重要になります。しかし、機器故障など予期せぬ障害の発生により、所定のネガワットを供給できない参加者が現れる可能性があります。デマンドレスポンスの安定的な運用のためには、いち早く削減未達を是正する必要がありますが、そのような参加者を探し出すには、例えば、膨大な数となる全参加者のスマートメーターを検針するような、大量の通信を前提にせざるを得ませんでした。

本研究グループは、先頃のブラックホールの撮影でも用いられた「スパース注4)再構成注5)」と呼ばれるデータサイエンスの手法を利用し、アグリゲーターが有する少ない情報量で削減未達の参加者を検出する技術を開発しました。本成果は、デマンドレスポンスの保守技術の1つとして、今後、実用化が期待されます。

本研究成果は、近日中に米国電気電子学会誌「IEEE Transactions on Smart Grid」のオンライン版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」(研究総括:藤田 政之 東京工業大学 教授)

研究課題名:「太陽光発電予測に基づく調和型電力系統制御のためのシステム理論構築」

研究代表者:井村 順一(東京工業大学 教授)

研究期間:平成27年4月~令和2年3月

JSTは本領域で、分散協調型エネルギー管理システムを実現するための研究を電力、制御、経済などの多角的な観点から進めています。本研究課題では、再生可能エネルギーなど可制御性の低い電源の大量導入を想定し、系統全体の安定的な運用を行うための次世代の電力系統制御技術の構築を目指しています。

<研究の背景と経緯>

再生可能エネルギーの大量導入により、発電予測の失敗など予期せぬ事態へ対応するための調整力の確保が重要になっています。そのため、さまざまな観点から調整法の可能性が検討されていますが、中でもスマートグリッドの安価な調整法として期待されているのがデマンドレスポンスです(図1)。

デマンドレスポンスは、アグリゲーターと呼ばれる事業者が多数の参加者を束ね、まとまった電力削減量(ネガワット)を得ることを目的としていますが、それを実現するためには、個々の参加者が所定のネガワットを供給する必要があります。

しかし現実には、機器故障や蓄電池の充電不足など障害の発生により、所定のネガワットを供給できない参加者がいます。デマンドレスポンスを安定的に運用するためにはいち早く削減未達を是正する必要がありますが、そのような参加者を探し出すのは容易ではありません。例えば、参加者全員のスマートメーターを同時に検針すればそのような検出はできますが、デマンドレスポンスにおいては参加者の数が膨大であるため、通信量の観点から現実的ではありません。また、それが技術的に可能だとしても、参加者がアグリゲーターから常時監視されているような感覚を持つデマンドレスポンスは、社会的受容性の観点から望まれるものではありません。

そこで、アグリゲーターが限られた情報しか得られないことを前提に、削減未達の参加者を高速かつ正確に検出する技術が必要となります。しかし、これまでにそのような研究の報告はなく、本研究グループが世界で初めて実施しました。

<研究の内容>

研究グループは、所定のネガワットを供給していない参加者を、アグリゲーターが有する限られた情報で、高速かつ正確に検出する技術を開発しました。

開発にあたっては、所定のネガワットを供給しない参加者はごく少数、つまりスパース(まばら)となる点に着目しました。この性質は、現実のデマンドレスポンスにおいて所定のネガワットを供給しない場合はペナルティーが発生する、という制度設計がされたときには妥当な設定となります。

このスパース性に着目すると、先頃のブラックホールの撮影でも用いられた「スパース再構成」と呼ばれるデータサイエンスの手法を応用することが可能になります。スパース再構成とは、方程式の解が複数存在するときに、スパースな解を導出する方法です。本技術では、ネガワット供給量に関する方程式を設定し、スパース再構成で解を得ることで検出することを考えました。しかし、参加者の数と比較して、検出のために使える観測データが極めて少ない、というデマンドレスポンス特有の問題によって、既存のスパース再構成を直接的に適用しても、正確な結果を得ることはできません(図2)。

そこで、スパース再構成と、ごく少数の参加者の電力使用量の検針を組み合わせることを発案し、それによって、実際に想定される条件のもとでは高速かつ100パーセントの確度で、削減未達の参加者を検出するアルゴリズムの開発に成功しました(図3)。

<今後の展開>

デマンドレスポンスを長期的に安定運用するためには、個々の参加者のネガワット供給能力の信頼性を維持することが重要になります。本成果は、そのようなデマンドレスポンスの保守技術の1つとして期待されます。近い将来の実用化に向けて、今後、実証実験などでの評価が望まれます。

<参考図>

図1 デマンドレスポンスの概念図
図1 デマンドレスポンスの概念図

アグリゲーターが多数の参加者を束ね、まとまった量のネガワットを得る。この際、アグリゲーターと参加者は、ネガワット供給量について事前に契約をする。

図2 既存のスパース再構成を直接的に適用した場合の推定結果
図2 既存のスパース再構成を直接的に適用した場合の推定結果

1000件の参加者の違反率(所定のネガワットからの偏差率)の真値と推定結果を示している。この例では、需要家100,200,…,1000が削減未達となっている。アグリゲーターは異常の発生は検知しているものの、具体的にどの参加者が未達であるかは知らない。そこで、アグリゲーターは限られた情報からそれを推定したいわけだが、既存のスパース再構成を直接的に適用した場合、この図のように推定値は真値と異なってしまい、所定のネガワットを供給していない参加者を正しく推定できるとは限らない。

図3 開発した検出技術を適用した場合の推定結果
図3 開発した検出技術を適用した場合の推定結果

開発した検出技術を図2と同じ状況(需要家100,200,…,1000が削減未達となっているが、アグリゲーターはそれを知らない)に用いると、41回(参加者の4.1パーセント)の検針で違反率を正しく推定できる。

<用語解説>
注1)スマートグリッド
ICT技術を活用することで、効率、信頼性、利便性、環境性能を従来のものより飛躍的に高めた電力システムのこと。
注2)デマンドレスポンス
系統運用者や、アグリゲーターと呼ばれる系統運用者と需要家の仲介者が、需要家に節電(場合によっては電力使用も)を要請することで、電力消費量を制御すること。
注3)ネガワット
需要家の電力消費量の削減により、新たに得られた余剰電力量のこと。
注4)スパース
データの集まり(例えば、ベクトルや行列)において、ほとんどの要素が0であるとき、その集まりをスパースという。
注5)スパース再構成
方程式のスパースな解を求めること。問題の解がスパースであることが事前に分かっている場合に用いられる。スパースモデリングや圧縮センシングとも呼ばれる。
<論文タイトル>

“Detection of defaulting participants of demand response based on sparse reconstruction”
(スパース再構成を用いたデマンドレスポンスの不履行参加者の検出)

DOI:10.1109/TSG.2019.2922435

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

東 俊一(アズマ シュンイチ)

名古屋大学 大学院工学研究科 教授

<JST事業に関すること>

舘澤 博子(タテサワ ヒロコ)

科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課

名古屋大学 総務部 総務課 広報室

北海道大学 総務企画部 広報課

東京理科大学 広報部 広報課

 

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