安定的な再生可能エネルギーの電力供給を実現~新たな最適蓄発電運用計画法を開発~

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2019-02-07 東京工業大学,科学技術振興機構(JST)

ポイント

  • 発電機や蓄電池利用を担保に再生可能エネルギーを電力網に組み込む新手法。
  • 再生可能エネルギーの区間予測に注目し、予測値と実運用値を統合する。
  • 次世代電力系統の信頼度評価や最適電源構成の定量解析に役立つ技術。

東京工業大学 工学院システム制御系のチョ ヨンチェ 大学院生(博士後期課程1年)、石崎 孝幸 助教および井村 順一 教授らは、再生可能エネルギー(再エネ)発電量の変動幅の予測(区間予測)を利用して、当日運用において再エネや需要のリアルタイム変動に合わせて発電機や蓄電池を運用するだけで、安定的な電力供給を実現する新たな前日計画法を開発しました。

現在の主要な電源である火力発電における大型の火力発電機の起動と停止には数時間程度の準備運転や事後運転が必須です。時々刻々と変化する電力需要を賄うためには、電力需要を適切に予測した上で、前日段階で発電機群の起動停止時刻を計画しておく必要があります。特に近年では、発電量が不確かな再エネの導入が世界的に加速しており、正味電力需要注1)の予測はこれまで以上に難しくなることが予想されます。そのため、不確かな再エネを有効活用し、安定した電力供給を実現するのに、発電機や蓄電池を用いたロバストな運用計画手法が求められています。

研究グループでは、前日に発電機の起動停止時刻を計画するために、正味電力需要の区間予測を利用して、運用当日の各時刻で調整可能な蓄発電量の範囲を求めるロバスト最適化問題注2)を定式化し、その効率的な解法を構築しました。ある時刻の蓄発電量の調整許容範囲は、その時刻だけでなく、他の全ての時刻における正味電力需要の変動幅や発電機と蓄電池の物理制約注3)などを考慮して算出されます。従って、当日の運用では、各時刻における正味電力需要の実測値とバランスをとるように、調整許容範囲内でリアルタイムに蓄発電量を調整するだけで、その時刻以降の不確かな正味電力需要に対しても安定供給を実現する蓄発電運用が可能であることが保証されます。本成果は、再エネを基盤電源とする次世代電力系統に対して、安定供給に関する信頼度評価や最適電源構成の定量解析に向けた基盤技術として発展が期待されます。

本研究成果は、2019年2月6日(現地時間)に米国電気電子学会誌「IEEE Transactions on Power Systems」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
(研究総括:藤田 政之(東京工業大学 工学院 教授))
研究課題名 太陽光発電予測に基づく調和型電力系統制御のためのシステム理論構築
代表研究者 井村 順一(東京工業大学 工学院 教授)
研究開発期間 平成27年4月~平成32年3月

<研究の背景>

現在の主たる電力供給方式である火力発電は、発電機の起動と停止に数時間程度の準備運転や事後運転が必要で、瞬時に電力供給を開始・中断することができません。従って、時々刻々と変化する電力需要に合わせて需給バランスを維持するためには、電力需要を適切に予測した上で、需要変動などに応じてリアルタイムに調整可能な発電機群の起動停止時刻を前日までに計画しておく必要があります。

近年、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量の削減に向けて、再エネの導入が世界的に加速しています。しかし、再エネは環境に優しいエネルギー源である一方で、天候の変化などにより発電量が大きく変動するため、前日に発電量を予測することが難しく、従来型の火力発電機のように発電量を電力需要に合わせてリアルタイムに調整することができないことが大きな課題となっています。このような背景から、再エネを電力網に組み込んでも安定した電力供給を実現するために、発電機や蓄電池を用いたロバストな運用計画手法の開発が望まれていました。

正味電力需要の不確かさを考慮した発電機の前日起動停止計画法は、「ロバスト起動停止計画法」と呼ばれています。ロバスト起動停止計画法では、翌日24時間に対して、1時間ごとの各時刻における正味電力需要の変動範囲のみが予測されていること(正味電力需要の区間予測)を前提とします。その範囲内で変動するどのような正味電力需要の時系列シナリオに対しても需給バランスを維持できる発電機の起動停止計画を前日段階で算出します。このような正味電力需要の区間予測を利用したロバスト起動停止計画法は、電力工学分野でも最先端技術の1つであり、現在は実応用に向けて研究が進められています。しかし、これまでに開発された手法では、当日に運用が開始される時刻(例えば深夜0時)において、その時刻の正味電力需要だけでなく、先の24時間にわたる正味電力需要の時系列シナリオも同時に確定すること、すなわち、深夜0時において先の24時間の正味電力需要の実測値が全て分かることを前提としており、この点で現実的ではありませんでした。

<研究成果>

1)当日運用の実行可能性を保証するロバスト最適化問題の定式化と解法の構築

本研究では、従来手法の問題点を解決する新たなロバスト起動停止計画法を世界に先駆けて開発しました。具体的には、前日の段階で発電機の起動停止計画に対して、運用当日の各時刻でリアルタイムに調整ができる蓄発電量の範囲も同時に求める新たなロバスト最適化問題を定式化し、その効率的な解法を構築しました。例えば、ある時刻の蓄発電量の調整許容範囲は、その時刻だけでなく、他の全ての時刻における正味電力需要の変動幅や発電機と蓄電池の物理制約などを考慮して算出されます(図2)。従って、当日の運用では、当該時刻における正味電力需要の実測値とバランスをとるように、調整許容範囲内でリアルタイムに蓄発電量を調整するだけで、その時刻以降の不確かな正味電力需要に対しても安定供給を実現する蓄発電運用が可能であることが保証されます(図3)。

2)IEEE118バスシステム注4)による適用可能性の検証

提案した最適蓄発電計画法の適用可能性を検証するために、発電機54基から構成されるモデルであるIEEE118バスシステムに対して、系統運用に貢献する容量の蓄電池を6台追加して計算性能の評価を行いました。具体的には、正味電力需要の区間予測が複数パターン与えられた場合に、それぞれの区間予測に対して最適な発電機の起動停止計画と蓄発電量の調整許容範囲を計算するのに要した時間を計測しました。その結果、標準的なスペックの計算機でも、平均43秒程度で効率よく最適解を求められることが分かりました。これは、発電機が数十基程度の規模の電力系統に対して、十分短時間に最適な蓄発電計画が求められることを示しています。

<今後の展開>

本手法は、最先端の予測手法である再生可能エネルギーの区間予測を応用した新たな蓄発電運用計画法として新規性があるだけでなく、再生可能エネルギーを基盤電源とする次世代電力系統に対して、安定供給に関する信頼度評価や最適電源構成の定量解析に向けた基盤技術として発展が期待されます。具体的には、政府により提唱されている導入シナリオに沿って再生可能エネルギーが普及することを想定した場合に、その導入量に応じて発電量の不確かさを補うために必要となる火力発電機や蓄電池の最適容量を解析する基盤技術として活用することができます。今後は、このような再生可能エネルギー導入シナリオに基づいた系統信頼度の変化を解析し、安定供給や環境性、経済性の観点から必要となる蓄発電設備の種類や規模などについて、より具体的な指針を与えていくことを目指します。

<参考図>

図1 研究成果の概念図

図1 研究成果の概念図

図2 調整許容範囲の求め方の例:2時刻、発電機1基の場合

図2 調整許容範囲の求め方の例:2時刻、発電機1基の場合

各時刻における蓄発電量の調整許容範囲は、数学的に、蓄発電計画量の許容集合注5)の中に存在するボックス注6)として表される。例えば、2つの時刻(時刻1、時刻2)における発電機1基の発電スケジュールの場合を考えると、(A)発電スケジュールの許容集合(灰色の領域)では、一般に、時刻2における発電可能範囲は時刻1における発電量に依存する(青の矢印と赤の矢印)。一方で、(B)許容集合内に収まるボックス(緑の領域)では、時刻2の発電可能範囲は時刻1の発電量に依存しない。提案手法では、予測された範囲内で変動するどのような正味電力需要に対しても需給バランスを達成する発電量が、各辺の区間(緑の矢印)に存在するようなボックスを前日段階で求める。これにより、運用当日の各時刻において、対応するボックスの辺として示される区間内で発電量をリアルタイムに調整しさえすれば、以降の時刻においても需給バランスが達成可能であることが保証される。

図3 提案手法による発電機2基と蓄電池の運用例

図3 提案手法による発電機2基と蓄電池の運用例

(A)前日の計画:翌日の各時刻における正味電力需要の予測区間(赤の矢印)が与えられ、
提案手法により発電機の起動停止状態および蓄発電量の調整許容範囲(緑字)が計算さ
れる。各時刻において、得られた調整許容範囲内では蓄発電が行えること、かつ、その
範囲内での蓄発電により需給バランスが達成できることが保証される。

(B)当日の運用:蓄発電開始時刻(0:00)より順に、各時刻における正味電力需要が実
測され、前日に求められた調整許容範囲内で実際の蓄発電量が決定される。

<用語解説>

注1)正味電力需要
電力需要から再生可能エネルギー発電量を差し引いた正味の電力需要。
注2)ロバスト最適化問題
最適化問題を定式化する際のデータなどが不確定な場合にも信頼できる解を求めるような最適化問題の総称。ここでは正味電力需要の時系列シナリオ1つが最適化問題を定式化する1つのデータに対応する。
注3)発電機と蓄電池の物理制約
発電機の出力限度やランプレート、蓄電池の蓄電容量やインバーター容量などの物理的な制約を総合したもの。最適化では個々の機器の性能だけでなく送電線の容量なども考慮される。
注4)IEEE118バスシステム
電力工学分野で標準的に用いられる実データに基づく電力系統のテストシステム。他のテストシステムと比較して大規模であり、最適化アルゴリズムのスケーラビリティ評価などにしばしば用いられる。
注5)蓄発電計画量の許容集合
発電機と蓄電池の物理制約を満たす実現可能な蓄発電スケジュール(24時刻)の集合。
注6)ボックス
多次元空間における箱型の領域。1次元空間では区間、2次元空間では長方形、3次元空間では立方体に相当する。

<論文情報>

タイトル“Box-based Temporal Decomposition of Multi-period Economic Dispatch for Two-stage Robust Unit Commitment”著者名Youngchae Cho, Takayuki Ishizaki, Nacim Ramdani, Jun-ichi ImuraDOI10.1109/TPWRS.2019.2896349

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

石崎 孝幸(イシザキ タカユキ)
東京工業大学 工学院 システム制御系 助教

<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ

<報道担当>

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

科学技術振興機構 広報課

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