機械学習により世界最高クラスの熱放射多層膜を設計し、その実証に成功

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約80億の候補から最適構造を探索 省エネルギー社会への貢献に期待

2019-01-23  物質・材料研究機構,東京大学,新潟大学,理化学研究所,科学技術振興機構

NIMSは、東京大学、新潟大学、理化学研究所と共同で、機械学習(ベイズ最適化注1))と熱放射物性計算(電磁波計算)を組み合わせて、世界最高クラスの狭帯域熱放射注2)を実現する多層膜(メタマテリアル注3))を最適設計し、実験にて実証することに成功しました。これによって高効率な省エネルギーデバイスの実現が期待されます。

物体が熱を電磁波として放出する熱放射現象は、波長制御ヒーターや赤外線センサー、熱光起電力発電などのさまざまなエネルギーデバイスへの応用が期待されています。熱放射エネルギーを無駄なく利用するためには、有用かつ狭い波長帯での熱放射スペクトルを持つ材料が必要となります。電磁波を自在に操ることができるメタマテリアルによって、これらの要求の実現を目指した研究が盛んに行われていますが、これまでは経験的に構造を選択して、その性能を評価するアプローチが多くとられており、膨大な候補物質の中から最適な構造を得ることが困難でした。

本研究グループは、機械学習と熱放射物性計算を組み合わせることによって、熱放射性能を最適にするメタマテリアル構造の設計手法を確立しました。今回は作製が比較的容易なメタマテリアルである多層膜構造を対象とし、3種類の物質を18層重ねて配置する組み合わせの中から最適なものを探索しました。膜厚を変化させたことで、約80億通りにも上る候補構造の中から、熱放射性能を大幅に向上できる最適構造を探索したところ、半導体材料と誘電体が非周期的に並ぶような非直感的なナノ構造が得られました。さらに、この最適メタマテリアル構造を実際に作製してその熱放射スペクトルを計測し、極めて狭帯域な熱放射が実現できていることを実証しました。従来の材料では、熱放射スペクトルの狭帯域化を示すパラメーターであるQ値注4)が100を超えることは難しいとされてきましたが、今回、見いだされたナノ構造はQ値200に迫るものであり、大幅な狭帯域化に成功しています。

今回の成果は、新しい熱放射メタマテリアルの開発において、機械学習が有用であることを示しています。無駄な熱エネルギーロスをなくし、所望の熱放射スペクトルを持つメタマテリアルが実現できることによって、高効率なエネルギー利用が可能となり、省エネルギー社会の実現へ貢献することが期待されます。さらにこの手法は対象を選ばず、さまざまなナノ構造設計に適用できるため、今後の材料開発における新たな手法として、その性能向上に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2019年1月22日(米国東部時間)に米国科学誌「ACS Central Science」のオンライン速報版で公開されます。

本研究は、東京大学 大学院工学系研究科の塩見 淳一郎 教授、新潟大学 工学部の櫻井 篤 准教授、東京大学 新領域創成科学研究科の津田 宏治 教授らの研究グループによって、物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点における科学技術振興機構(JST)事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I:“Materials research by Information Integration”Initiative)」並びに理化学研究所 革新知能統合研究(AIP)センターにおける文部科学省AIPプロジェクトによる研究課題のもとで行われました。

<研究の背景>

波長制御ヒーターや赤外線センサー、熱光起電力発電などのさまざまなエネルギーデバイスへの応用において、有用な波長帯での熱放射スペクトルを狭帯域化させることができれば、無駄な熱エネルギーロスをなくし、高効率なエネルギー利用が可能となります。これまで、電磁波を自在に操ることができるメタマテリアルによって、これらの要求の実現を目指した研究が盛んに行われていますが、これまでの研究には経験的に構造を選択して、それを評価するアプローチが多くとられており、経験に頼らずに最適なメタマテリアルを設計することは困難でした。

<研究内容>

今回、東京大学 大学院工学系研究科の塩見 淳一郎 教授、新潟大学 工学部の櫻井 篤 准教授、東京大学 新領域創成科学研究科の津田 宏治 教授らの研究グループは、機械学習と熱放射物性計算を組み合わせることによって、熱放射の大幅な狭帯域化に成功し、熱放射性能を最大にするメタマテリアル構造の設計手法を確立しました。本手法では、電磁波解析を用いた熱放射物性計算とベイズ最適化を用いて機械学習を交互に実施し、膨大な候補構造から熱放射性能が最大になるメタマテリアル構造を高い最適化効率で決定します。機械学習の記述子注5)として、メタマテリアル構造の最小単位(例えば膜厚や材料の種類)を採用して、全体の構造をその組み合わせとして考えることで、膨大ではあるが有限の数の候補構造を取り扱いました。始めに、数百個の候補構造をランダムに選択してそれらの放射率を計算し、その結果を基にベイズ最適化により熱放射性能指数注6)が見込める次の数百個の候補構造を決定し、またそれらの熱放射物性を計算します。この「候補選択⇔熱放射物性計算」を繰り返してデータを数百個ずつ増やしていき、最良の熱放射性能指数を持つ構造を同定します。具体例として、多層膜構造にこの手法を適用したところ、専門家が直感的に思い浮かぶナノ構造は周期的な構造ですが、80億通りの候補構造の中から得られた最適構造は、半導体材料(Ge)と誘電体(SiO)の厚さ0.2~1.0μm程度の薄膜が、非周期的に6~8層並ぶような非直感的なナノ構造が得られました。今回、ターゲット波長を5、6、7μmの3つに設定し、機械学習による最適化を行った結果、熱放射性能を大幅に向上できる可能性を示しました。

さらに、この最適メタマテリアル構造を実際に作製し、その熱放射スペクトルを計測したところ、極めて狭帯域な熱放射が実現できていることを実証しました。これにより、新しい熱放射メタマテリアルの開発において、機械学習が有用であることを示すことに成功しました。

<今後の展開>

本手法は対象を選ばず、さまざまな熱放射メタマテリアルの構造設計に適用できるため、今後の材料開発における新たな手法として、その性能向上に貢献することが期待されます。また、材料の選択肢やナノ構造の候補数は膨大に存在しており、その中から要求される物性を見いだす手法は、熱放射メタマテリアルに限らずさまざまな応用分野で存在しています。本手法は計算による評価さえできれば、どのような物性に対しても原理的に適用できることから、他分野におけるナノ構造の最適化にも幅広く貢献することが期待されます。

<参考図>

図1

図1 機械学習と熱放射物性計算を組み合わせたマテリアルズ・インフォマティクス手法と実証実験の概要
<用語解説>
注1)ベイズ最適化
ベイズ確率の考え方を用いた推論に基づき、形状の分からない関数を最適化する手法。
注2)熱放射
熱放射とは、物質の温度に応じて放射される電磁波(光)、または電磁波によって熱が伝わる様。
注3)メタマテリアル
ナノ構造を制御するなどして人工的に作られた、自然界の物質にはない性質を持つ物質。本研究におけるメタマテリアルは、多層膜構造を持ち、電磁波を自在に操ることができる人工物質であり、熱放射スペクトルを制御するためにデザインされた材料。
注4)Q値
共鳴波長を熱放射スペクトルの半値幅で割った値。これが大きいほど、スペクトルが狭帯域化していることになる。
注5)記述子
予測モデルにおける説明変数。
注6)熱放射性能指数
ターゲットとする波長帯における熱放射エネルギーを正とし、不要な熱放射エネルギーを負としたとき、その和となる値であり、それが大きいと熱放射性能が高くなる。
<論文情報>

タイトル:“Ultranarrow-band wavelength-selective thermal emission with aperiodic multilayered metamaterials designed by Bayesian optimization”

著者名:Atsushi Sakurai, Kyohei Yada, Tetsushi Simomura, Shenghong Ju, Makoto Kashiwagi, Hideyuki Okada, Tadaaki Nagao, Koji Tsuda, Junichiro Shiomi*

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

塩見 淳一郎(シオミ ジュンイチロウ)
東京大学 大学院工学系研究科 機械工学専攻 教授
(兼)物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点 NIMS特別研究員
(兼)理化学研究所 革新知能統合研究センター 客員研究員

櫻井 篤(サクライ アツシ)
新潟大学 工学部工学科 機械システムプログラム 准教授
(兼)物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点 NIMS特別研究員

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 イノベーション拠点推進部 COIグループ

<報道担当>

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室

新潟大学 広報室

理化学研究所 広報室 報道担当

科学技術振興機構 広報課

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