安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策④放射性物質の規制基準はどうなっているの?

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2019-01-18 資源エネルギー庁

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【ポイント】
・ 日本における放射性物質の規制基準は、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告をもとにしています。
・ 日本の規制基準は、公衆の追加的な被ばくを「年間1ミリシーベルト未満」に保つようさだめられています。
・ 原発などから放射性物質が水中や大気中に放出される場合は、この基準をもとに厳しく管理されます。

東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)で進められている“汚染水”対策をよく知るため、最新の情報や、理解に役立つ基礎知識をご紹介しているシリーズ。第4回では、放射性物質を適切に管理するための「規制基準」について、日本ではどのようにさだめられているのか、おさらいしてみましょう。

放射性物質を適切に管理するルールはどうやって決められているの?

放射性物質から出る放射線にさらされて、自然界で受ける被ばく量を超える大きな「被ばく」をすると、その受けた量(線量)によっては、健康に影響が出る「放射線障害」が起こる恐れがあります(健康影響については「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策③トリチウムと『被ばく』を考える」参照)。そこで、世界各国では、放射性物質を適切に管理し、人が受ける被ばく線量をおさえるためのルール、規制基準を設けています。

日本における放射性物質の規制は、「国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection、ICRP)」の勧告にもとづいてさだめられています。ICRPとは、放射線障害から人を守る「放射線防護」について、1928年以来、専門家の立場から勧告をおこなっている国際組織です。その勧告は、世界各国の法令や規制の基礎とされています。

ICRPが1990年に出した勧告では、通常時における「公衆被ばく」の被ばく線量は、「“1年あたり1ミリシーベルト(mSv)未満”という基準を満たすべき」とされています(ミリシーベルトについては、「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策③トリチウムと『被ばく』を考える」参照)。

※公衆被ばく…放射線を取り扱う仕事を通じて被ばくする「職業被ばく」、医療検査などを通じて被ばくする「医療被ばく」をのぞいた被ばくのこと

この勧告の資料は公開されており、誰でも読むことができます。

“自然放射線源からの年実効線量は約1ミリシーベルトであり、海抜の高い場所およびある地域では少なくともこの2倍である。これらすべてを考慮して、委員会は、年実効線量限度1ミリシーベルトを勧告する。”
(出典)社団法人日本アイソトープ協会による日本語訳「国際放射線防護委員会の1990年勧告」P55)

なお、ここで述べる「被ばく」とは、大地や宇宙線など自然環境に含まれる放射性物質からの被ばくを除いた、「追加的被ばく」のことを指しています。

日本の規制基準はどうなっているの?

ICRPの勧告をもとにさだめられた日本の原子力発電所の規制基準では、環境中に放出する場合における液体・気体廃棄物に含まれる放射性物質の「濃度限度」が、放射性物質の種類に応じて決められています。「濃度限度」とは、水中・空気中に特定の物質が含まれる場合、どのくらいの濃さ(濃度)まで許容することができるか(限度)という数値です。

濃度限度は、関係法令(告示)で具体的な数値がさだめられているため、「告示濃度限度」とも呼ばれます。告示濃度限度を知ることは、放射線防護を理解するために重要です。詳しくご説明しましょう。

日本の規制基準における、水中に放射性物質が含まれる場合の告示濃度限度は、以下のようにさだめられています。

水中における告示濃度限度
放出口における濃度の水を、生まれてから70歳になるまで毎日約2リットル飲み続けた場合に、平均の線量率が1年あたり1ミリシーベルトに達する濃度

「放出口における濃度の水」とはどういう意味でしょうか?理科の授業で習ったように、水の中に何かの物質を混ぜた場合、水の量を増やせば増やすほど、希釈され、その濃度は低くなります。ということは、たとえば、水の「放出口」から物質Aを含む水が放出され、そのあと川や海などの大量の水と混ざれば、水の中に含まれる物質Aの濃度は低くなります。ここで言う「放出口における濃度の水」とは、そのような大量の水と混じる前の、「希釈前の水」を意味しているわけです。

希釈の概念を示した図です。

つまり、このような希釈前の水を、「約2リットル」、さらには「生まれてから70歳になるまで毎日」飲み続けるというような、ひじょうに極端なケースを仮定したとしても、平均線量率を「1年間で1ミリシーベルト」に抑えられるようにしましょう、というのが、日本における水中の規制基準となっているのです。

気体についての告示濃度限度も、同じように、ひじょうに厳しい基準がさだめられています。

大気中における告示濃度限度
敷地境界における濃度の大気を、生まれてから70歳になるまで毎日吸い続けた場合に、平均の線量率が1年あたり1ミリシーベルトに達する濃度

ここで言う「敷地境界」とは、原子力発電所などの原子力関連施設の敷地と、その敷地外の境界という意味です。敷地境界の大気に含まれている放射性物質の濃度は、原子力関連施設から遠く離れた地域の大気よりも高くなる傾向があります。そのため、敷地境界を基準として評価をおこないます。なお、敷地外でほかに濃度が高いところがあれば、その地点を評価対象とします。

そのような濃度の大気を「生まれてから70歳になるまで毎日」吸い続けた場合であっても、平均の線量率を「1年間で1ミリシーベルト」に抑えられるようにしましょう、という規制基準になっているのです。

たとえば、これらの基準にもとづいて、トリチウム(「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策②『トリチウム』とはいったい何?」参照)の濃度限度がどの程度になるかを計算してみると、水中では1リットルあたり60,000ベクレル、大気中では1リットルあたり5ベクレルが上限となります。

複数の放射性物質が含まれる場合はどうするの?

ご説明したように、「告示濃度限度」とは、水中や大気中などに1種類の放射性物質が含まれる場合について、放射性物質ごとに、その濃度の限度をさだめたものです。では、もし水中や大気中などに複数の放射性物質が含まれる場合、規制基準はどのようになるのでしょうか。

そういったケースでは、「告示濃度比総和」という考え方が用いられます。これは、次のような手順で求められるものです。

告示濃度比総和
 ①水中や大気中などに含まれる複数の放射性物質について、それぞれの濃度を調べる
 ②それぞれの放射性物質の告示濃度限度を調べる
 ③それぞれの放射性物質の濃度①が、それぞれの告示濃度限度②に占める割合を調べる
 ④③で求めた割合をすべて足し算する(「和」を求める)

たとえば、放出口からAとBという2つの異なる放射性物質を含む水を放出するとします。まず、放射性物質Aの濃度が300ベクレル/リットル(①)で、その告示濃度限度が1,000ベクレル/リットル(②)の時、その割合は0.3(③)になります。

一方、別の放射性物質Bの濃度が1,200ベクレル/リットル(①)で、その告示濃度限度が2,000ベクレル/リットル(②)の時、その割合は0.6(③)となります。AとBの割合を足し算すると、0.9(④)となり、告示濃度比総和が1を下回っていると考えることができます。

このようにすれば、複数の異なる放射性物質の影響を考慮しながら、管理をすることが可能となります。2011年の東日本大震災にともなって原発事故が起こった福島第一原発では、固体の放射性廃棄物が発する放射線によって起こる「外部被ばく」も含めたうえで告示濃度比総和が「1」未満、1年間の被ばく線量が1ミリシーベルト未満になるよう、規制がおこなわれています。

このように、日本では、放射性物質に関するひじょうに厳しい規制基準がもうけられています。原発などの放射性物質を取り扱う施設は、このような規制基準に従い、被ばく線量を低く保つために努めています。こうした基準はもちろん福島第一原発にも適用されており、放射性廃棄物や汚染水の対策や放出も、「被ばく線量を年間1ミリシーベルトより低く保つ」という濃度限度を守って進められているのです。

放射性物質の規制規準について、もっと詳しく知りたい

最後に、より詳しく知りたいという方のために、「放出量」に対する規制の考え方や、食品・飲料水の基準についてご紹介しておきましょう。

Q.放射性物質の総放出量についてはどのような規制があるの?

内閣府の原子力安全委員会がさだめた指針(発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について)において、1年あたりの放射性物質の放出量の努力目標として「放出管理目標値」という数値がさだめられています。

たとえば、震災前の福島第一原発では、トリチウムの水中への放出管理目標値は1~6号機合計で22兆ベクレル/年でしたが、1~4号機については、震災後は状況が大きく異なるためこの指針の適用外となっており、現在は放出管理目標値がさだめられていません。

Q.食品・飲料水の基準はどうなっているの?

「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策②『トリチウム』とはいったい何?」でご紹介したように、そもそも、トリチウム以外の放射性物質を基準値以上に含む水は厳しく管理され、飲料水や食品に混じることはありません。

ではトリチウムについてはどうかというと、海外における飲料水に対する基準は下表のとおりとなっています。各国で基準値が大きく異なりますが、これは、基準値を決める際の考え方が異なるためです。たとえば、EUの基準値は、追加調査の必要性を判断するスクリーニング値として定められていますが、WHOの基準値は、放射線防護のための措置が必要かどうか判断する値として定められています。日本では食品・飲料水のトリチウムに関する規制基準はありませんが、トリチウムの放出時における濃度に規制基準を設けて管理しています。

 
飲料水のトリチウム濃度限度(Bq/L)
EU 100
アメリカ 740
カナダ 7,000
ロシア 7,700
スイス 10,000
WHO 10,000
フィンランド 30,000
オーストラリア 76,103

(出典)柿内秀樹「トリチウムの環境動態及び測定技術」日本原子力学会誌 Vol.60 No.9(2018)P31-35

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電力・ガス事業部 原子力発電所事故収束対応室

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