マグマ由来の流体による微小な割れ目網が地下水の流路に

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世界初、白亜紀の花崗岩中に超臨界流体の痕跡を発見

2019-11-15 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構,国立大学法人東北大学

【発表のポイント】

  • 従来、地下水の流路は断層運動によって形成されると考えられていたが、断層運動による割れ目が発達していない岩盤でも高透水化が生じていることが分かってきた。これには火成活動由来の気体に近い性質を持つ流体(超臨界流体1))が関与していると推察されていたが、流路形成のメカニズム解明には超臨界流体の痕跡の発見が重要な鍵であった。
  • 原子力機構は、東北大学と共同で、1000m級の大深度ボーリング調査により取得された岩石試料を用いて電子顕微鏡観察と鉱物分析を行い、白亜紀の花崗岩に保存されていた超臨界流体の痕跡を世界で初めて発見した。
  • さらに、この痕跡の周りの花崗岩の岩盤中に顕微鏡スケールの微小な割れ目(マイクロフラクチャ2))ネットワークが発達して流路になっていることを明らかにした。
  • この成果は、今後、地層処分における地質環境の長期変遷解析技術の高度化のみならず、花崗岩地域の地下深部における流体の移動や微小地震の発生メカニズムに関わる科学的研究へも応用され、トンネルなどの地下構造物の湧水対策に関わる設計・施工方法の改良や、斜面災害との関係の解明などに繋がることも期待される。

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄)東濃地科学センター結晶質岩地質環境研究グループの野原壯研究主幹は、東北大学(総長 大野英男)大学院環境科学研究科の土屋範芳教授および宇野正起助教と共同で、白亜紀の花崗岩中に超臨界流体(地下深部の高温のマグマや溶岩から発生し、粘性が低く、水よりも気体に近い性質を持つ高温の流体)が流れていた痕跡を発見しました。さらに、この痕跡の周りの花崗岩には超臨界流体によるマイクロフラクチャが発達して、流路が形成されたことを明らかにしました。この研究は、地質環境の長期変遷を解析する技術の研究の一環として行ったものです。

日本の花崗岩は、しばしば割れ目が発達して地下水の流路となっていることがあります。従来、割れ目の発達は、地殻変動に伴う断層運動によって生じると考えられてきました。また、岩石の変形様式が塑性変形(元に戻らない変形)に変わる温度(350℃)を超えた岩盤には割れ目ができにくく、流路が存在しないと考えられてきました。一方で、割れ目が発達していないにもかかわらず地下水などが流れやすい岩盤があり、その原因は明らかになっていませんでした。近年、地熱分野では、450℃の岩盤中に超臨界流体の流路が存在することが報告されています。しかし、この報告では、岩盤中の流路の正体は不明で、具体的な流体の流れ易さ(透水性)の情報は得られていませんでした。このため、痕跡の発見と岩盤中の流路の詳しい調査が課題となっていました。

本研究では、1000m級の大深度ボーリング調査により得られた岩石試料を利用して、白亜紀の花崗岩中に保存されていた超臨界流体(当時の温度は約700℃)の痕跡を世界で初めて発見しました。超臨界流体の痕跡が発見された深度550m付近の花崗岩の岩盤の透水性は、原子力機構が開発した1000m対応水理試験装置を用いてボーリング孔で取得されていた水理試験データにより、比較的高い透水性が確認されました。さらに、電子顕微鏡等を用いて岩石組織の詳細な観察を行い、この痕跡の周りの岩盤中にマイクロフラクチャネットワークが発達して地下水などの流路になっていることを明らかにしました。

今後は、超臨界流体による岩盤への影響やその特徴をさらに詳しく調べ、熱水や断層の影響との違いについて識別精度を向上させることによって、地質環境の長期変遷解析技術の高度化への寄与が期待されます。そのほか、超臨界流体の痕跡に関する研究は、地下深部における流体の移動や、それに伴う微小地震などの現象の理解に繋がることが期待されます。また様々な分野への応用も期待されるため、トンネルなどの地下構造物の湧水対策に関わる設計・施工方法の改良や、岩盤中のマイクロフラクチャ沿いの変質と斜面災害との関係の解明なども視野に入れて、さらに研究を進めていきます。

なお、本研究成果は2019年8月に国際論文誌「Geofluids、2019、2019巻」に掲載されました。

【研究開発の背景と目的】

高レベル放射性廃棄物の地層処分(以下、地層処分という。)は、金属材料などからなる人工バリアと天然の地層を適切に組み合わせた多重バリアシステムによって、数万年以上に及ぶ極めて長い時間のスケールで、廃棄物を地下深く人間の生活環境から遠ざけることにより安全を確保しようとするものです。日本列島は変動帯に位置しており、諸外国に比べて地殻変動や火成活動などが活発であるため、地層処分においては、過去の自然現象によって生じた地質環境の特徴と変遷を解読し、将来の変化を推定することが重要となります。

花崗岩は日本列島において最も広範囲に分布する岩石です。これまで、花崗岩における地下水などの流路の形成は、350℃以下の岩盤で生じる断層運動に伴う割れ目の発達が主たる要因と考えられてきました[1]。一方、火成活動に伴いより高温の岩盤で生じる割れ目は、貫入岩や、岩盤の塑性変形によって塞がれるため、地下水などの流路にはならないと考えられていたため、ほとんど注目されていませんでした。ところが、最近の地熱分野の研究では、450℃の下部地殻で高透水化(地下水などの流体が流れやすくなること)が生じていることがわかってきており、そのメカニズムの解明のための室内試験が行われています[2]。ただし、高温の地下の岩盤を直接調べることができないため、超臨界流体により、岩盤に対してどのような影響が表れるかについてはわかっていませんでした。温度が低下した古い岩盤に超臨界流体の痕跡をみつけられれば、これらを詳しく調査できる可能性がありました。そこで共同研究チームは、深度1000m級のボーリング孔から採取された岩石試料を用いて、花崗岩中の超臨界流体の痕跡の発見と、流路の形成原因の解明を主な目的とした研究に取り組んできました。

図1  岩石薄片試料に認められた超臨界流体の痕跡の光学顕微鏡写真
左:開口割れ目中の自形ホルンブレンド(緑色の鉱物)、右:石英結晶中の流体包有物

【研究の成果】

本研究では、以下の三つの課題に取り組みました。

一つ目の課題は、超臨界流体の痕跡の発見です。共同研究チームは、火成活動に伴い地下深部で形成された超臨界流体の痕跡は、消失せずにどこかに残っているはずだと考えました。また、古い花崗岩中の痕跡は、隆起侵食によって地表付近まで上昇していれば、直接調べられる可能性があると考えました。超臨界流体の痕跡としては、開口割れ目中の自形(鉱物固有の結晶の形)のホルンブレンド(高温で生成される鉱物の一種)や石英結晶中の流体包有物(鉱物中に取り込まれた流体)が知られていました[3]。しかし、これらの古い痕跡は、断層活動や風化による変質を受けやすく、地表での発見は困難です。そこで、共同研究チームは、日本原子力研究開発機構が地層処分技術に関する研究開発の一環として岐阜県東濃地域に分布する白亜紀の花崗岩(土岐花崗岩)を対象に実施した深度1000m級のボーリング調査に着目し、ボーリング調査によって採取された岩石試料を用いて、超臨界流体の流路の痕跡を探しました。延べ約3000mの長さの岩石試料について、割れ目中の鉱物の肉眼観察と岩石薄片試料の顕微鏡観察(図1)を行った結果、深度550m付近で採取された岩石試料に、超臨界流体の痕跡と考えられるホルンブレンドを伴う割れ目を発見しました(図2左)。

図2  左:超臨界流体の流路の痕跡(白矢印)、右:鉱物の化学組成を用いた温度圧力解析の結果
(超臨界流体の痕跡である鉱物(ホルンブレンドと斜長石)は、開口幅約3mmの割れ目中に認められた(左)。超臨界流体の温度は、ホルンブレンドと斜長石の化学組成から約700℃(黒矢印)と見積もられた(右)。

二つ目の課題は、超臨界流体の温度の見積です。

超臨界流体の痕跡かどうかを判断するには超臨界流体によって形成された鉱物を特定し、温度を見積る必要がありました。本研究では、光学顕微鏡観察により超臨界流体によって形成された鉱物(ホルンブレンドと斜長石)を特定し、その化学組成を電子プローブ微小分析装置で分析するとともに、地質温度計(鉱物の化学成分濃度などから鉱物の生成温度を求める方法)を用いた解析を行いました。超臨界流体の温度は約700℃、超臨界流体の起源と考えらえる貫入岩の温度と圧力はそれぞれ約700℃と4kb(深度10〜15kmの地温と地圧に相当)と見積もられ、超臨界流体の痕跡であることが確認されました。これらの結果から、超臨界流体は、地下10~15kmの花崗岩中を流れたと考えられます。

土岐花崗岩は中部地方に広く分布する白亜紀後期の花崗岩のひとつであり、約7千万年前の火成活動3)により熱水の影響を受けています[4]。白亜紀後期の日本列島は旧ユーラシア大陸の縁にあり、カルデラの形成を伴う活発な火山活動が生じていたと考えられています[5]。超臨界流体の痕跡は、白亜紀後期に形成されたカルデラから数km程度離れた地点で発見されたことになります。

三つ目の課題は、地下深部の岩盤の透水性の把握と高透水化の原因の解明です。

まず、上記のボーリング孔において、原子力機構が開発した1000m対応水理試験装置4)により取得されていた水理試験データ[6]を利用して、地下深部の岩盤の透水性の分布を整理しました。超臨界流体の痕跡が発見された深度550m付近の花崗岩は、顕著な割れ目が観察されないにもかかわらず比較的高い透水性を示していました(透水係数:10-7(m/s))。当該部分の花崗岩組織の顕微鏡観察の結果、石英や長石の鉱物の結晶粒界に、開口したマイクロフラクチャが観察されました。さらに、電子顕微鏡によりマイクロフラクチャがネットワーク状に発達していることを確認しました。マイクロフラクチャの一部には、超臨界流体の痕跡と考えられるホルンブレンドの自形結晶や石英結晶中の流体包有物(図1)が認められました。これらのことから、超臨界流体によって花崗岩中にマイクロフラクチャネットワークが発達し、それらが現在まで保存されて、岩盤の高い透水性の原因になったと考えられます。

【今後の期待】

今後は、超臨界流体による岩盤への影響やその特徴をさらに詳しく調べ、熱水や断層の影響との違いについて識別精度を向上させることによって、地質環境の長期変遷解析技術の高度化への寄与が期待されます。そのほか、超臨界流体の痕跡に関する研究は、地下深部における流体の移動や、それに伴う微小地震などの現象の理解に繋がることが期待されます。超臨界流体による流路の形成に関する成果は様々な分野への応用も期待されるため、トンネルなどの地下構造物の湧水対策に関わる設計・施工方法の改良や、岩盤中のマイクロフラクチャ沿いの変質と斜面災害との関係の解明なども視野に入れて、さらに研究を進めていきます。

【論文掲載情報】

雑誌名:Geofluids, vol. 2019, Article ID 6053815, (2019)

論文タイトル:Enhancement of Permeability Activated by Supercritical Fluid Flow through Granite

著者:野原壯a、宇野正起b、土屋芳範b
a 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター 地層科学研究部
b 東北大学大学院 環境科学研究科

【用語解説】

1) 超臨界流体:

地下深部の高温のマグマや溶岩から発生し、粘性が低く、水よりも気体に近い性質を持つ高温の流体。水を主成分としており、塩素、硫黄、フッ素などを含むと岩石を溶かす能力が高くなる。低密度のため上昇し、温度低下(374℃未満)に伴い熱水に変わる。

2) マイクロフラクチャ:

顕微鏡観察により認められる微小な割れ目。

3) 白亜紀後期の火成活動:

白亜紀後期の大規模な火成活動の痕跡は、岐阜県東部から富山県にかけて認められる。

4) 1000m対応水理試験装置:

ボーリング孔を利用して地下1000mまでの岩盤の透水性を高精度で調べることができる装置。最大70℃までの耐温度性能を有している。

【引用文献】

[1] Faulkner et al., A review of recent developments concerning the structure, mechanics and fluid flow properties of fault zones. Journal of Structural Geology, 2010. 32: p. 1557-1575.

[2] Watanabe, N., et.al, Potentially exploitable supercritical geothermal resources in the ductile crust. Nature Geoscience, 2017. 10: p.140-144.

[3] Tsuchiya, N., et al., Supercritical geothermal reservoir revealed by a granite–porphyry system. Geothermics, 2016. 63: p. 182-194.

[4] Nishimoto, S., et al., Episyenite formation in the Toki granite, central Japan. Contributions to Mineralogy and Petrology, 2014. 167(1): p. 960.

[5] Sonehara, T. and S. Harayama, Petrology of the Nohi Rhyolite and its related granitoids: a Late Cretaceous large silicic igneous field in central Japan. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 2007. 167(1-4): p. 57-80.

[6] 尾上博則,竹内竜史,超深地層研究所計画における単孔式水理試験結果,2016.JAEA-Data/Code 2016-012:46p.

参考部門・拠点:東濃地科学センター

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