南極の気温と二酸化炭素変動の不一致は日射量が引き起こす

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過去72万年間の南極と周辺海域の温度変動を復元

2018/03/07 琉球大学 情報・システム研究機構 国立極地研究所
名古屋大学 東京大学 北海道大学 信州大学 山形大学

・南極アイスコアの同位体分析により、過去72万年間の南極と南大洋の温度変動を復元
・二酸化炭素濃度と南極の気温変動にずれがある一因が日射量の変動であることを示した
・南極の気温の自転軸傾斜角の変化に対する同調性が40万年周期で変動することを発見

琉球大学理学部の植村立准教授ら国内外11機関19名からなる研究グループは、日本の南極地域観測隊が南極ドームふじで掘削したアイスコア*1の分析によって、過去72万年間の南極の気温と周辺海域の水温変動を復元しました。本研究のように、海水温も含めてアイスコアから復元したデータとしては、過去最長だった42万年間の記録を30万年延長するものです。地球温暖化をはじめとする気候変動を正確に予測することが社会的にも大きな課題となっています。今回の研究は、環境が大きく異なっていた過去について、二酸化炭素濃度や日射量の変動と気温変動との関係を明らかにしたもので、地球の気候変動のメカニズムの解明に役立つと期待されます。この成果は、2018年3月6日付「Nature Communications」誌にオンライン掲載されます。

研究の背景

過去72万年の間には、約10万年周期で大きな気温変動があったことが知られています。これは、氷期・間氷期サイクル*2と呼ばれ、このサイクルでは、南極の気温変動は二酸化炭素濃度と似た変動パターンを示すことが知られていました。しかし、大気中の二酸化炭素濃度を変動させる直接的なメカニズムとしては南極の気温よりも、南極周辺の海洋環境の変動が重要な役割を果たしていると予想されています。また、これまでの研究では、南極の気温の方が二酸化炭素濃度変動よりも先に変動している可能性が指摘されてきました。このような二酸化炭素濃度と気温変動の関係性を理解するためには、同じ時間軸の上で南極と周辺海域の温度変動を正確に復元することが鍵となります。

研究の成果の概要

本研究では、南極ドームふじアイスコアの氷の同位体分析*3に基づいて、過去72万年間にわたる南極の気温とその周辺海域の水温変動を正確に復元しました。特に、2種類の同位体比を組み合わせることで、南極だけではなく周辺海域の水温も復元した手法としては、これまでの最長であった42万年間のデータを大きく延長したことになります。復元した周辺海域の海水温は、大気中の二酸化炭素濃度の変動と非常に高い相関を示しました(図1A)。この結果は、南極周辺の海洋が二酸化炭素濃度の変動を支配しているという仮説を支持するものです。南極の気温も、二酸化炭素濃度と似た変動を示していますが、周期的にずれている時代があることがわかります(図1B)。詳しくみると、南極の気温と周辺海域の海水温の差には、約4万年の周期性があることがわかりました(図1C)。これは、約4万年周期で地球の自転軸傾斜角が変動することで引き起こされる年平均日射量の変動*4が原因であると考えられます。この結果は、南極の気温変動が年平均日射量の影響を強く受けていることを示しており、このことが二酸化炭素濃度と南極の気温変動の不一致の原因の一つであると考えられます。

図1: 温度と二酸化炭素濃度の比較
A) 南極周辺海域の水温(青線、本研究)と大気中の二酸化炭素濃度(赤線、複数のアイスコアのデータ) B) 南極の気温(黒線、本研究)と二酸化炭素濃度(赤線)、 C) 周辺海域と南極の温度差(緑線、本研究)と南極の年平均日射量(黄線)

では、南極の気温は日射量の影響を直接受けているのでしょうか?本研究の結果を4万年周期の変動に注目して解析すると、年平均日射量の変化に対して、南極気温、二酸化炭素、海水温の順番で遅れて変動していることがわかりました。この結果は、日射量だけで南極の気温変動が直接的に決まるという説を否定するものです。さらに、この日射量に対する遅れは40万年の周期で最小の値をとる現象を発見しました。つまり、40万年ごとに年平均日射量、南極気温、海水温等が密接に同調して変動する時期があるといえます。40万年の周期は、地球の軌道の離心率(地球の軌道が正円から離れている度合い)に対応していると考えられます。地球規模の炭素循環と海洋循環にも40万年周期があることから、この現象の原因には海洋環境の長期的な変動が関連していると考えられます。なお、現在は約40万年ぶりに離心率が小さくなる周期が始まった時代にあたるため、新しい同調期に入っている可能性があります。

図2: 地球の日射量変動と気候要素の関係
左部分:自転軸傾斜(地軸の傾き)の変動が4万年周期の年平均日射量変動を引き起こす。軌道が円から離れる度合い(離心率)は40万年の周期をもつ。
右部分:地球の気候要素は日射量の影響を受けながら、それぞれのメカニズムで変動する。

今回の研究は、地球の気候システムを理解するために、環境が大きく異なっていた過去について、気候要素がどのように変動していたかを明らかにしたものです。現在、人為起源の排出により、大気中の二酸化炭素濃度は過去80万年間で最高の値を記録しています。その結果、本来は数千年から数万年の時間スケールで変動する海洋循環や氷床量にも影響を与える可能性があります。今後、他の地域の気候復元データや気候モデルによる数値実験によって、メカニズムをさらに検証する研究が重要になると考えられます。

用語

*1 アイスコア:南極や北極の氷床を掘削して得られた円柱状の氷試料のこと。本研究で使用したドームふじアイスコアは、南極地域観測事業「第2期ドームふじ観測計画」により2003~2007年に掘削された。

*2 氷期・間氷期サイクル:過去約100万年間にわたって、地球が長い寒冷な気候(氷期)と相対的に短い温暖期(間氷期)を約10万年周期で繰り返していた現象のこと。

*3 氷の同位体分析:氷の酸素と水素の安定同位体比(18O/16Oと2H/1H)を測定することで、過去の気温変動を推定することができる。本研究では2種類の同位体比を組み合わせることで、雪として凝結した南極の気温に加えて、降雪をもたらした水分子が蒸発した海域の温度も推定した。本文中の「周辺海域」というのは、「雪をもたらした水分子が蒸発した海域」のこと。

*4 自転軸傾斜角(地軸の傾き)が変動することによる年平均日射量の変動は緯度によって異なる。極域と赤道で最も大きく変動し、中緯度ではほとんど変動しない。

研究サポート

本研究は日本学術振興会及び文部科学省の科学研究費補助金(21221002、26550013、17H06104、17H06320)の支援を受けて行われました。また、国立極地研究所の共同研究費、研究プロジェクト(KP305)の支援を受けました。

論文情報

論文名: Asynchrony between Antarctic temperature and CO2 associated with obliquity over the past 720,000 years
著者: 植村立1*,本山秀明2,3, Valérie Masson-Delmotte4, Jean Jouzel4, 川村賢二2,3, 東久美子2,3, 藤田秀二2,3, 倉元隆之2#, 平林幹啓2,3, 三宅隆之2, 大野 浩2##, 藤田耕史5, 阿部彩子6,7, 飯塚芳徳8, 堀川信一郎, 五十嵐誠, 鈴木啓助10, 鈴木利孝11, 藤井理行2

1 琉球大学 理学部, 2 情報・システム研究機構 国立極地研究所, 3 総合研究大学院大学 極域科学専攻, 4 Laboratoire des Sciences du Climat et de l’Environnement (LSCE), CEA-CNRS-UVSQ, France, 5 名古屋大学大学院 環境学研究科, 6 東京大学 大気海洋研究所, 7 国立研究開発法人 海洋研究開発機構, 8 北海道大学 低温科学研究所, 9 国立研究開発法人 理化学研究所, 10 信州大学理学部, 11山形大学 学術研究院

#現在 福島県環境創造センター, ##現在 北見工業大学 地球環境工学科, §現在 名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター, ¶現在 丸善株式会社
雑誌名:Nature Communications

DOI:10.1038/s41467-018-03328-3 公表日:2018年3月6日

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