標高ビッグデータで津波リスク予測ほかデータ利活用を促進
2018-02-15 京都大学,宇宙システム開発利用推進機構,株式会社MM総研,科学技術振興機構(JST)
ポイント
- 近年、衛星による観測技術が発展し、全世界レベルでさまざまな衛星ビッグデータが得られるようになってきたが、これまで世界位置情報(緯度、経度、面積区画)との標準的な紐付けがなされていなかったため、それらのデータを統合解析することや、他のデータとの間で相関解析をすることが困難であった。
- 今回、衛星ビッグデータを世界位置情報と紐付ける世界メッシュコードと呼ぶデータ形式を世界で初めて開発し、世界メッシュコードと衛星ビッグデータが紐付いた統計解析データを高速に生成する新アルゴリズムの開発に成功した。これにより衛星ビッグデータを1/337に圧縮することができ、標高ビッグデータの統計データベースを世界で初めて作成、一般利活用促進のため無償で公開する。
- 今後、標高ビッグデータの利用価値はさまざまな分野に広がる可能性があり、世界規模での津波被害リスクの予測解析などに効果が期待できる。また、世界メッシュコードと紐付けされたその他の各種統計データなどとの相関解析も可能となり、将来的には地下資源探索、水資源管理、洪水防止対策等さまざまな応用解析につながる可能性がある。
京都大学 大学院情報学研究科、一般財団法人 宇宙システム開発利用推進機構(J-spacesystems)、株式会社MM総研は共同研究により、衛星ビッグデータと世界位置情報を統合解析する手法を世界で初めて開発し、この手法を用いて作成した標高統計データベースを無償公開します。津波リスク予測など各種解析への利活用が期待されます。
近年、衛星による観測技術が発展し、全世界レベルでさまざまな衛星ビッグデータが得られるようになってきました。しかし、衛星ビッグデータはこれまで世界位置情報(緯度、経度、面積区画)との標準的な紐付けがなされていなかったため、相互運用が困難でした。相互運用によって複数のデータの統合解析や他のデータ種との相関解析を可能にすることは、衛星データの商用的普及において大きな課題となっていました。
今回、京都大学 大学院情報学研究科 佐藤 彰洋 特定准教授らは、日本工業規格(JIS)の地域メッシュコード(JIS X0410)注1)を独自に拡張して世界メッシュコード注2)と呼ぶデータ形式を世界で初めて開発しました。さらに、衛星ビッグデータを世界メッシュコードに紐付けて「統計データベース」を高速に生成する新アルゴリズムの開発に成功しました。これにより、衛星ビッグデータを1/337に圧縮することができます。
この手法を用い、衛星搭載型地球観測光学センサASTER注3)が観測したASTER GDEM(全球3次元地形データ)注4)に記録される標高ビッグデータから、標準的集計が可能な統計データベース(標高統計データベース)を世界で初めて作成し、一般利活用促進のため無償オープンデータとして2018年2月15日より公開します。
今後、標高統計データベースの利用価値はさまざまな分野に広がる可能性があり、世界規模での津波被害リスクの予測解析などへの活用が期待できます。また、世界メッシュコードと紐付けされたその他の各種統計データベースとの相関解析も可能であるため、将来的には地下資源探索、水資源管理、洪水防止対策等さまざまな応用解析につながる可能性があります。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ
研究領域 | ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化 ※文部科学省の人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト(AIPプロジェクト)の一環として運営 (研究総括:喜連川 優 国立情報学研究所 所長) |
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研究課題名 | グローバル・システムの持続可能性評価基盤に関する研究(課題番号 JPMJPR1504) |
研究代表者 | 佐藤 彰洋 京都大学 大学院情報学研究科 特定准教授 |
研究期間 | 平成27年10月~平成31年3月 |
<研究の背景>
京都大学 大学院情報学研究科 佐藤 彰洋 特定准教授らは、地域メッシュコード(JIS X0410)を独自に全世界へ拡張し、標準的集計が可能なデータ形式である世界メッシュコードを提案しました。また、一般利活用促進のため世界メッシュコード計算用オープンライブラリの開発を行ってきました。
本共同研究では、全世界を覆う巨大データ源としてASTER GDEMに記録される全球陸域標高データに着目しました。ASTER GDEMは、経済産業省が開発した衛星センサASTERをNASAの人工衛星Terraに搭載して観測された1秒角(約30m)ごとの標高データです。1度角(約111km)四方を1タイル(1タイルには3601×3601個の1秒角標高データが含まれる)とすれば、全球陸域に相当する約22,000タイルには、総計約2億8,500万個のデータ点が含まれています。
全球陸域標高データも他の衛星ビッグデータと同様、これまで世界位置情報(緯度、経度、面積区画)との標準的な紐付けがなされていなかったため、複数のデータの統合解析や他のデータ種との相関解析が困難でした。衛星データの商用的普及において、データの相互運用性は大きな課題となっていました。
<研究の内容>
本共同研究では、世界メッシュコードと呼ぶ標準的なデータ形式を提案しました。そして、衛星リモートセンシング注5)により得られた標高ビッグデータを世界メッシュコードに従い統計化する(統計代表値に変換する)ことで、データ量を大幅に圧縮、他のデータと統合/相関解析することを可能にしました。また、世界メッシュ統計を作成するための高速アルゴリズムの開発に成功し、これまでスパコンレベルの計算機が必要であった全球規模の世界メッシュ標高統計作成処理が、一般的なパソコンレベルの計算機でできるようになりました。
今回作成した標高統計データベースでは、ASTER GDEMの全球陸域総計約2億8,500万データ点について、1メッシュあたり30×45データ点のデータを4つの統計代表値に変換したことで、データ量の圧縮率約1/377を達成しました。
この世界メッシュコード体系に従い作成した標高統計データベースは、世界150以上の国と地域に対応しています。これを「世界メッシュ標高統計データ」として世界メッシュ研究所注6)が2018年2月15日より無償公開します。図1は、6ヵ国の標高統計データの地図上可視化の例です。
また、世界メッシュコードの技術を用いることにより、これまで統合解析することが困難であった各種衛星ビッグデータを、世界位置情報を基に変換することが可能になりました。全世界規模の同一位置空間について、異なる分野・フォーマットで収集された、複数のビッグデータを比較、合成、可視化することができます。例えば標高データと津波リスクデータを統合的に解析することも可能です。
図2はスリランカにおける世界メッシュごとでの最低標高と夜間光強度(人工構造物密度を示す指標であり人間活動の指標)、および過去の津波上陸カタログデータから推計される津波ハザード(最低標高地点津波到達ハザード)の比較解析事例を示します。津波ハザードとは津波上陸イベントが発生する平均周期の逆数(1/year)を表し、例えば津波ハザードが0.002の地点では500年に1度の発生頻度となります。
標高統計データベースでは、世界メッシュコードに対して4つの標高統計代表値(最小値、平均値、中央値、最大値)が紐付けされて含まれています。スリランカの比較解析事例では、そのうち最低標高地域において津波が到達するハザードと人工構造物密度との関係を示しています。
このように3つの世界メッシュデータ(標高・津波ハザード・人工構造物密度)を用いることにより、2つの推定が可能になります。1つには、人工構造物密度が高く、かつ津波ハザードが大きな地域を絞り込むことで、津波対策を行うべき場所を予測することができます。もう1つには、標高が低いため利便性が高く、人工構造物密度が低いため未利用で、かつ津波ハザードが小さな地点を絞り込み、津波に対して安全である新たな開発地域を推定することも可能です。
このように、世界メッシュ統計によってデータを相互運用可能にすれば、統合分析、相関分析といった連結分析ができます。同一位置空間における網羅的観点からの特徴量評価を、大量のメッシュで同時に行えることになります。
<今後の展開>
本共同研究では今後、世界規模での他の衛星ビッグデータ、政府統計、インターネット上から収集される位置座標を含むポイントデータ、ポリゴンデータ注7)からさまざまな世界メッシュ統計を作成することで、連結統合分析を行うアプリケーションの開発につなげる予定です。
応用例として、①津波被害リスク予測、②地下資源探索、③水資源管理、④洪水防止対策等につながる可能性があります。さらに、⑤各地域の人口との相関性、⑥各地域の健康状態との相関性(病気発生状況)、⑦各地域の経済活動状況との相関性、⑧農業、畜産業などとの相関性、⑨野生動物生息地域との相関性(保護観点)など、さまざまな統計解析への応用、貢献が考えられます。
このように、各種データを相互運用することで、多様な統計解析指標を世界規模で計算できる新たなアプリケーションが実現できるようになります。世界規模での地形データ(DEMデータ注8))の利活用促進や商用的なサンプルデータの販売促進などが可能となります。
<参考図>
図1 公開予定の世界メッシュ標高統計データの地図上可視化の例
左上から右下まで順にアンドラ公国(AND)(スケール拡大)、フィンランド(FIN)、イタリア(ITA)、日本(JPN)、ドイツ(DEU)、フィリピン(PHL)の平均標高を示す。各図右下は標高スケール。
図2 スリランカにおける標高統計データと他のデータとの連結分析の事例
(左上)世界メッシュ最低標高値
(右上)世界メッシュ夜間光強度(NASA National Geophysical Data Centerが提供する夜間光画像から作成)
(左下)最低標高地点津波到達ハザード
(右下)最低標高・津波ハザードと夜間光強度との比較解析例。
各図上部はスケール。
<用語解説>
- 注1) 地域メッシュコード(JIS X0410)
- 位置情報(緯度と経度)を基として定義される網の目形の区画(地域メッシュ)を表現するために一意に割り当てられた整数列。日本工業規格(JIS)によって規格されている。我が国の公的統計が準拠する空間統計標準として、40年以上の実績を有する。
地域メッシュは階層的に定義されており、全てで6階層(標準地域メッシュ3階層、分割地域メッシュ3階層)から構成されている。1次メッシュは約80km四方の領域を定義し、4桁の整数列で表される。2次メッシュは約10km四方の領域を定義し、6桁の整数列で表される。3次メッシュは約1km四方の領域を定義し、8桁の整数列で表される。同様に4次メッシュは9桁、5次メッシュは10桁、6次メッシュは11桁で表される。
- 注2) 世界メッシュコード
- 地域メッシュコード(JIS X0410)の上位に2桁のコードを付与することにより全世界を覆うことができる自然な拡張を行った独自コード体系。既存の地域メッシュコードの上位に20を付与することによりこれまで利用してきた地域メッシュコードを改編することなくそのまま世界メッシュコード体系に取り入れることを可能にする。
- 注3) 衛星搭載型地球観測光学センサASTER
- ASTER(Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer)は、経済産業省(METI)が開発した可視から熱赤外にわたる14バンドの観測波長帯をもつ衛星搭載型の地球観測光学センサである。米国NASAの地球観測衛星Terraに搭載され、現在も運用されている。1999年の打ち上げ以来、18年以上の運用実績を有する。
- 注4) ASTER GDEM(全球3次元地形データ)
- ASTER GDEM(ASTER Global Digital Elevation Model)は、経済産業省が米国航空宇宙局(NASA)と共同運用している衛星搭載型地球観測光学センサASTERにより取得した衛星画像データから作成した全球数値標高データ。
- 注5) 衛星リモートセンシング
- 人工衛星により対象を遠隔から測定する手段。陸域・海域・大気中におけるさまざまな現象を迅速かつ広範囲にわたり効率的に観測する手段として利用される。地球表面から放射される電磁波の波長ごとでの強度を場所ごとに観測したデータを得る。
- 注6) 世界メッシュ研究所
- 佐藤 彰洋 特定准教授らが運営する共同研究組織。共同研究の成果を発信している。
URL: http://www.fttsus.jp/worldgrids/ja/homepage/
- 注7) ポリゴンデータ
- 統合データ。ポリゴンとは「多角形」の意味であるが、コンピューター上で取り扱うことができる複数の位置座標の連結として表現される多角形領域を表現するデータ。
- 注8) DEMデータ
- 世界規模での地形データ。DEMデータは、地表面を等間隔の正方形に区切り、それぞれの正方形に中心点の標高値を持たせたデータである。地上の5mが2万5千分の1地形図では0.2mmになる。5mのDEMの場合、2万5千分の1地形図の1cm四方には2,500個のDEMデータが含まれる。
<データ公開URL>
- 日本語版: http://www.fttsus.jp/worldgrids/ja/aster-gdem-ja/
- 英語版: http://www.fttsus.jp/worldgrids/en/aster-gdem-en/
- 統計情報可視化システムMESHSTATS: https://www.meshstats.xyz/meshstats/
<論文情報>
タイトル | “World Grid Square Codes: Definition and an example of world grid square data” |
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著者名 | Aki-Hiro Sato, Shoki Nishimura, Hiroe Tsubaki |
掲載誌 | 2017 IEEE International Conference on Big Data (Big Data), 10-14 Dec. 2017, pp. 4156-4165 |
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
佐藤 彰洋(サトウ アキヒロ)
京都大学 大学院情報学研究科 数理工学専攻 特定准教授
毛利 浩一郎(モウリ コウイチロウ)
宇宙システム開発利用推進機構 研究開発本部 副本部長
<JST事業に関すること>
松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
<報道担当>
京都大学 広報課
宇宙システム開発利用推進機構 事務管理本部 総務部 広報担当
株式会社MM総研
科学技術振興機構 広報課