令和2年7月豪雨に関連する衛星観測

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2020-08-11  JAXA

2020年(令和2年)7月3日以降、梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、鹿児島県や熊本県では同月4日にかけて局地的に猛烈な雨となり、熊本県を流れる球磨川流域では河川が氾濫・決壊し、また6日から7日にかけては福岡県大牟田市の諏訪川では内水氾濫、大分県から福岡県を流れる筑後川でも氾濫が発生し、さらに大雨が要因と考えられる土砂災害が大分県や長崎県、佐賀県等で多発するなど、九州地方を中心に甚大な被害が発生しました。今回の豪雨にともない被害を受けられた皆様には、謹んでお見舞い申し上げます。

その後も7月下旬まで、梅雨前線の停滞にともなう局地的な豪雨が日本各地で断続的に続き、全国の広い範囲に被害が拡大しました。7月下旬から8月にかけて、日本の各地は順次梅雨明けしていますが、今年7月の日照時間は平年の3割程度のところがあるとも言われ、植物や野菜等の生育にも影響が出る可能性が懸念されます。

JAXA/EORCでは、運用中の地球観測衛星や静止気象衛星から得られたデータや、数値シミュレーションとの複合的な解析により今回の豪雨災害に関連する解析を継続しています。ここではこれらの結果の一部をご紹介します。

日本周辺の海面水温と水蒸気量の平年からの変化

雨の素となる大気中の水蒸気の供給源のひとつは、暖かい海域です。一般的に、海面水温が高いとその海域にはたくさんの水蒸気があると考えられます。

図1-1は水循環変動観測衛星「しずく」GCOM-Wに搭載されている高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)が捉えた、南シナ海から北西太平洋にかけての日本周辺領域の2020年6月と7月の一ヶ月平均の海面水温の、過去30年平均の平年値からの偏差(アノマリー)の様子です。例年と比較して、今年6月は南シナ海から日本海にかけての広い領域(図1-1上段右図中の黒丸)で海面水温が平年よりも高く、7月になると、沖縄から日本の南側の広い範囲(同、下段右図中の黒丸)でも海面水温が平年よりも高くなり、その一方で、黄海~日本海~太平洋で帯状に海面水温が低くなっている様子が分かります。これは、梅雨前線による降雨が続き日照が少なかったなどが理由として考えられます。

この時、海面水温と関係が深い水蒸気量がどうなっていたかを見てみましょう。図1-2は、同じく「しずく」によって観測された2020年6月と7月の月平均の積算水蒸気量(大気中の水蒸気量を鉛直方向に積算した値)について、平年値(ここではAMSR2による2012-2019年のデータから計算した月平均値)からの偏差を割合(観測値を平年値で割ったもの)で示しています。偏差の割合が「1」のときは平年並みで、1よりも大きい場合は平年よりも多いことを示します。6月から7月にかけて梅雨前線周辺の広い範囲、特に日本周辺で海面水温が平年よりも高かった領域(図1-2右図の黒丸)に対応して、大気中の水蒸気量が過去8年間に比べて1.1~1.2倍程度多い状況であったことが分かりました。このことから、平年よりも高い海面水温によって海上からの湿った空気が継続的に梅雨前線へ供給されたことが、線状降水帯による持続的な豪雨につながった一因である可能性が示唆されます。

このときの大気場を解析するために、気象リアルタイム解析システムNEXRAを利用し、水平格子間隔14 kmの数値気象シミュレーションを東京大学大気海洋研究所 佐藤正樹教授の研究グループと共同で行いました。NEXRAはJAXAと東京大学および理化学研究所が共同で開発し、JAXAのスーパーコンピュータの大規模計算性能を活かした気象データ同化システムです。衛星全球降水マップ(GSMaP)による雨のデータを同化したことによる気象予測精度の向上に利点があります。NEXRAでは大気の風ベクトル情報のような、衛星観測では直接取得できない気象情報を提供することも可能です。NEXRAの詳細に関しては、2020年3月の記事(地球が見える2020年 進路予測が難しかった2019年台風10号)をご参照ください。

図1-3は、2020年7月4日06時(日本時間)のシミュレーション結果の大気の鉛直積算水蒸気量(色;kg/m2)と上空1500mにおける風(矢印;m/sec)を示しています。シミュレーション結果は「しずく」で捉えられた九州南西海上の大量の水蒸気分布(2020年7月2日~7日(日本時間)の図)をよく再現しています。同時に、東シナ海・中国大陸や南方海洋上から大気の流れによって日本付近に流入している様子が示されています。このシミュレーションの結果から、大量の水蒸気の流れ込みが数日間に続いたことによって九州地方の大雨が長時間続くことにつながったことが推測できます。

NEXRAでシミュレートされた7月4日6時(日本時間)の大気水蒸気量(鉛直積算量:kg/m<sup>2</sup>)と上空1500mにおける風の場(矢印:m/sec)。7月3日15時を初期時刻として計算。(図は東京大学大気海洋研究所 Ying-Wen Chen特任研究員作成)

図1-3. NEXRAでシミュレートされた7月4日6時(日本時間)の大気水蒸気量(鉛直積算量:kg/m2)と上空1500mにおける風の場(矢印:m/sec)。7月3日15時を初期時刻として計算。

(図は東京大学大気海洋研究所 Ying-Wen Chen特任研究員作成)

梅雨前線や線状降水帯に伴う降水量の観測

それでは、この期間にどのくらいの量の降水が衛星によって観測されていたのでしょうか?

衛星全球降水マップ(GSMaP)による宇宙からの降水観測データを用いて解析を実施しました。図2-1は衛星全球降水マップ(GSMaP)による2020年7月2日~7日(日本時間)の降水量の時間変化(図2-1上)と、積算降水量(同、下図)の分布を示しています。降水量の時間変化をみると、梅雨前線に伴う降水帯が、日本周辺のみならず、海上も含め東西に長くのびており、九州周辺では、雨雲が次々と発生・発達して西から東へ流れ、九州周辺で断続的な強い雨をもたらしています。積算降水量をみると、7月2日以降の降り始めから5日間の積算で500 mmを超える雨が、九州の広い範囲で観測されていることが分かります。

 

図2-1. 2020年7月2日~7日(日本時間)の衛星全球降水マップ(GSMaP)による1時間降水量 [mm/h](上)と積算降水量[mm](下)の時間変化

GSMaPによる広域の雨分布に加え、全球降水観測計画GPM主衛星に搭載されている二周波降水レーダによって、宇宙から降水の立体構造を詳細に観測することができます。図2-2は、2020年7月24日に雨雲スキャンレーダが観測した九州周辺に分布する線状降水帯に伴う強い降水の立体構造を示しています。7月上旬の豪雨による被災地も含めた九州周辺で、再び大雨が観測されていることがわかります。

図2-2. 2020年7月24日7時頃に九州地方で発生した線状降水帯の立体構造

図2-3は、衛星全球降水マップ(GSMaP)を統計的に解析して求めた豪雨指標です。ピンクの領域は2020年の7月1日~7月7日(世界標準時)が過去20年分の7月1日~7月7日(世界標準時)の平均降水量と比較して、どの程度極端に雨が多い事例であったか示しており、九州周辺の強い豪雨傾向が捉えられています。

2020年7月1日~7日(世界標準時)における持続的な豪雨の指標(90, 95, 99パーセンタイル値)。濃いピンクは、過去20年の7月1日~7日(世界標準時)の平均降水量のうち上位1%の降水強度(99パーセンタイル値)以上に相当する降水があった領域を示しています。

図2-3. 2020年7月1日~7日(世界標準時)における持続的な豪雨の指標(90, 95, 99パーセンタイル値)。

濃いピンクは、過去20年の7月1日~7日(世界標準時)の平均降水量のうち上位1%の降水強度(99パーセンタイル値)以上に相当する降水があった領域を示しています。

梅雨前線は、日本付近で南北に移動しつつ停滞を続けて各地で断続的に大雨を降らせたため、一ヶ月間の降水量でも、例年との違いが確認できています。図2-4に示した2020年7月の降水量(図2-4中央)と過去20年分の7月の平均降水量(同、左)の比較によると、例年と比較して今年の7月は特に九州周辺を中心に非常に多くの雨がもたらされたことがわかります。また、図2-1や図2-3に示した7月上旬以降も、7月中~下旬にかけて中部地方や山形県含む各地で断続的に大雨が降った影響もあり、2020年7月は、過去20年間の7月の平均の2倍以上の雨が日本の広範囲で降っていました。特に東北地方については、過去20年の平均降水量が九州などと比較して多くないこともあり、今年はその5倍以上の雨がもたらされた地域もあったことが分かりました。

陸面シミュレーションシステム「Today’s Earth」による河川氾濫の危険度推定

衛星全球降水マップ(GSMaP)からは、どこにどれくらいの雨が降っているかが分かりますが、身近な防災の観点からは、降る雨の量や場所のみならず、その雨水がいつどこにどれほどの水量が集まり、実際に河川氾濫を発生する危険性があるか否かの情報提供が重要となります。このためには、陸上の水循環を計算・推定するシミュレーションを行う必要があります。

JAXAは東京大学と共同で、陸上の水循環シミュレーションシステム「Today’s Earth – Japan(TE-Japan)」を開発しています。TE-Japanでは、日本全国の河川の流量やその氾濫面積割合などを推定することが可能です。図3-1は2020年7月3日から6日にかけて、TE-Japanが推定した全国河川の氾濫面積割合をアニメーションにしたものです。この推定結果では、全国の河川の氾濫危険度を時間毎に色分けして表示しており、九州、四国、近畿、東海、信州、関東などで氾濫の危険性が高くなっていく様子が確認できます。特に、実際に大きな被害が出た熊本県球磨川やその下流にあたる八代市において7月3日から4日にかけて高い危険度が算出されており、今回の豪雨に関する洪水氾濫リスクを定性的には推定できていることが分かりました。

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