日本とカナダの国際共同観測
2018-02-06 国立大学法人金沢大学,国立大学法人名古屋大学,大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
金沢大学理工研究域電子情報学系の尾﨑光紀准教授、八木谷聡教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所の塩川和夫教授、三好由純准教授、大塚雄一准教授、国立極地研究所の片岡龍峰准教授、カナダ・アサバスカ大学、京都大学、米国・カリフォルニア大学、宇宙航空研究開発機構、情報通信研究機構、カナダ・天然資源省らの国際共同研究グループは、カナダで観測された明滅する陽子オーロラが、宇宙で発生する電磁波として知られる電磁イオンサイクロトロン波動(※)の最も速い電力変化(1秒程度)と同じ周期で高速に明滅していることを世界で初めて発見しました。
オーロラを発生させる目に見えない高エネルギー電子や陽子は、人工衛星の故障や宇宙飛行士の被ばくなどの障害を引き起こすことが知られています。このため、オーロラの時間変動は、地球周辺の宇宙における高エネルギー電子や陽子の変動を地上から知る手掛かりとなります。
今回、本研究グループは、通常のCCDカメラよりも高速・超高感度を有するEM-CCDカメラとStockwell変換と呼ばれる信号解析法を併用することで、暗い陽子オーロラの詳細を調べることに成功しました。特に、今回、発見した陽子オーロラを観測することによって、その明滅から人工衛星の電子機器を故障させる危険性の高い放射線帯電子を可視化できる可能性が示唆されています。このため、今後の安心安全な人工衛星サービスを実現する上で、地球周辺の放射線と宇宙の電磁波との関係を知る重要な手掛かりとなることが期待されます。また、2016年12月に打ち上げられ、地球周辺の放射線の様相を調べている科学衛星「あらせ」と本研究グループである科学研究費・新学術領域研究(15H05815)および特別推進研究(16H06286)によるオーロラ・電磁波観測ネットワークPWINGの共同観測により、その詳細が今後明らかになることが期待されます。
本研究成果は、2018年2月5日午前10時(米国東部時間)に米国地球物理学連合の発行する論文速報誌「Geophysical Research Letters」のオンライン版に掲載されました。
研究の背景
オーロラは、宇宙空間から地球へと運ばれてきた電荷を持った粒子が、高度100キロメートル付近の超高層大気と衝突したときに起こる発光現象です(図1)。特に、マイナスの電荷を持った電子の衝突によって発光する電子オーロラは、カーテン状や雲状などさまざまな形態があり、中には1秒以下で明滅するタイプもあることが分かってきています。一方、プラスの電荷を持った陽子の衝突によっても、陽子オーロラが光ることが知られていますが、その時間変化等についてはよく分かっていませんでした。特に、陽子オーロラは電子オーロラに比べて暗く、その時間変化を調べることは容易ではありませんでした。
研究成果の概要
今回、通常のCCDカメラよりも高速・超高感度を有するEM-CCDカメラとStockwell変換と呼ばれる信号解析法を併用することで、暗い陽子オーロラの詳細を調べることに成功しました。そして、オーロラ・電磁波観測ネットワークPWINGの国際拠点の一つであるカナダのアサバスカ観測点で観測されたオーロラの高速撮像(1秒間に110枚撮像)のデータと、同じ観測点で観測された宇宙空間からやってくる微弱な電磁波のデータから(図2)、宇宙からの電磁波の一種である電磁イオンサイクロトロン波動と同じ周期で陽子オーロラが明滅していることを世界で初めて明らかにしました(図3)。この結果は、地球周辺での宇宙空間において電子だけでなく陽子も激しく時間変化していることを示します。したがって、陽子オーロラを観測することによって、宇宙空間の通常よりも高いエネルギーの陽子の時空間変化を地上から知る手掛かりが得られ、このことは地球周辺の宇宙環境を明らかにする上で重要な知見となります。また、この電磁イオンサイクロトロン波動は、宇宙の放射線(放射線帯電子)を変調させ、大気に散乱させる効果があることが知られており、今後、宇宙の放射線の動態を解明するのにも貢献することが期待されます。
今後の展開
本研究により、商用衛星が飛び交う地球周辺の宇宙では、電子だけでなく陽子も秒単位で激しく時間変動していることが明らかになりました。今回は、一地点の地上観測結果でしたが、陽子オーロラは一地点の観測範囲を超える数千キロメートルにもわたって発生する場合もあります。このため、オーロラ・電磁波観測ネットワークPWINGや日本が中心となって地球周辺の放射線の様相を調べている科学衛星「あらせ」との共同観測が重要となります。これらの共同観測により、今後グローバルな時空間変動の理解が深まり、安心安全な人工衛星サービスへの貢献が期待されます。
研究サポート
本研究は、科学研究費15H05747、15H05815、16H06286、17K06456、二国間交流事業、金沢大学先魁プロジェクトおよびCanada Foundation for Innovationによる支援を受けて実施されました。
掲載論文
雑誌名:Geophysical Research Letters
論文名:Discovery of 1-Hz range modulation of isolated proton aurora at subauroral latitudes (サブオーロラ帯における孤立陽子オーロラの1 Hz変動の発見)
著者名:Mitsunori Ozaki, Kazuo Shiokawa, Yoshizumi Miyoshi, Ryuho Kataoka, Martin Connors, Tomohiro Inoue, Satoshi Yagitani, Yusuke Ebihara, Chae-Woo Jun, Reiko Nomura, Kaori Sakaguchi, Yuichi Otsuka, Herbert Akihito Uchida, Ian Schofield, Donald Danskin (尾﨑光紀、塩川和夫、三好由純、片岡龍峰、Martin Connors、井上智寛、八木谷聡、海老原祐輔、Chae-Woo Jun、野村麗子、坂口歌織、大塚雄一、内田ヘルベルト陽仁、Ian Schofield、Donald Danskin)
掲載日時:2018年2月5日午前10時(米国東部時間)にオンライン版掲載
DOI:10.1002/2017GL076486
図1:カナダで観測された電子オーロラと陽子オーロラ(オーロラを強調するためにカラースケールを調整しています)
図2:陽子オーロラと電磁イオンサイクロトロン波動の観測イメージ。宇宙で発生した電磁イオンサイクロトロン波動は磁力線に沿って伝搬する性質を持っており、地上からも電磁波センサによって観測することが可能です。しかし、電磁イオンサイクロトロン波動は地磁気の数万分の一程度の微弱なものであり、地上観測は容易ではありません。同じく陽子オーロラも通常の電子オーロラに比べて暗く、観測は容易ではありませんでした。今回、EM-CCDカメラによる画像データと、通常の信号解析よりも時間変化をより詳しく調べることができるStockwell変換を電磁波とオーロラデータに用いることにより、陽子オーロラが電磁イオンサイクロトロン波動と同じ周期で高速に明滅していることの発見に成功しました。
図3: 2016年1月2日観測されたオーロラ光の明滅変動(上)と宇宙の電磁イオンサイクロトロン波動に相当する地上の地磁気脈動の電力変動(下)。この図より、電磁波の電力変化が強くなる6:09~6:17の期間に、オーロラ光も電磁波と同じ周波数帯で明滅していることが分かります。観測された周波数帯は約1ヘルツ(Hz)で、これは約1秒のオーロラ明滅を意味します。
用語説明
※電磁イオンサイクロトロン波動:イオンが磁力線の周りを巻き付いて運動すること(サイクロトロン運動)により発生する電磁場の波動。