ナノ多孔構造の導入により実現 高容量化による電気自動車の航続距離大幅延伸へ期待
2018/05/14 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
NIMSは、安全で高い信頼性を有する全固体リチウム電池の高容量化に貢献する技術として、ナノ多孔構造を導入したアモルファス・シリコン負極膜が安定かつ高容量で動作することを見出しました。
概要
- 物質・材料研究機構は、安全で高い信頼性を有する全固体リチウム電池の高容量化に貢献する技術として、ナノ多孔構造を導入したアモルファス・シリコン負極膜が安定かつ高容量で動作することを見出しました。
- シリコンは負極材としての理論容量密度が4200 mAh/g (体積容量密度で2370 mAh/cm3) であり、これらの値は現行の黒鉛負極と比較すると重量容量密度で約11倍、体積容量密度で約3倍と非常に大きなものであるため、電気自動車用電池の負極材として実現されれば、航続距離の大幅な延伸が可能になると期待されています。しかしながらシリコンは、充放電時のリチウムの出入りにともなって体積が大きく変化することから、充放電の繰り返しにより壊れやすく、容量が低下していってしまう問題がありました。さらに、液体の電解質は充電の度にシリコン表面で分解されてしまうため、容量低下の問題がさらに顕著なものとなっていました。そのため、充放電で壊れにくいシリコンの開発と、シリコン表面で分解されない電解質内での安定動作の実証が強く望まれていました。
- 本研究では、結晶シリコンより体積変化に強いアモルファス・シリコンを母材とし、そこへナノ多孔構造を導入したシリコン負極膜を採用しました。さらに、液体の電解質に替えてシリコン表面で分解の起こらない固体電解質と組み合わせることで、100回充放電を繰り返しても容量の低下がほとんど起こらないことを突き止めました。
- 本研究により、高容量なシリコン負極が全固体電池内で安定に動作することが明らかになったことで、安全で高い信頼性を有する全固体電池の高容量化がますます現実味を帯びることとなりました。電気自動車用電池のみならず再生可能エネルギー発電施設用蓄電池システムや家庭用蓄電池に大幅な性能向上をもたらすことが期待されます。
- 本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 「リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業 (P12003) 」の支援を受けて行われました。
- 本研究成果は、英国時間2018年5月3日にCommunications Chemistry誌にオンライン掲載されました。
プレスリリース中の図1 : ヘリウムガス雰囲気でスパッタ製膜を行うことで得られたナノ多孔アモルファス・シリコン負極膜の断面透過電子顕微鏡像。
掲載論文
題目 : ”Porous amorphous silicon film anodes for high-capacity and stable all-solid-state lithium batteries”
著者 : 坂部淳一、太田鳴海、大西剛、三石和貴、高田和典
雑誌 : Communications Chemistry
掲載日時 : 2018年5月3日
DOI : 10.1038/s42004-018-0026-y