励起子生成効率100%以上を実現するOLEDの原理実証に成功

高強度近赤外OLEDの実現に道

2018/07/05 九州大学 科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • OLEDにおいて、一重項励起子開裂を経て生成された三重項励起子を、エレクトロルミネッセンス(EL)として利用可能であることを初めて実証しました。本手法により、100%が理論限界とされてきた励起子生成効率をさらに高めることが可能となります。
  • 本研究での実証により、近赤外有機EL素子からの高強度エレクトロルミネッセンスが実現でき、センサー用や通信用光源などにおける新しいアプリケーション用途を開拓できると期待されます。

九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センターの中野谷 一 准教授、永田 亮 工学府博士課程学生、安達 千波矢 センター長らの研究グループは、励起子生成効率注1)100%以上を示す有機EL素子(OLED:Organic Light Emitting Diode)の開発に成功しました。

本研究では、1つの一重項励起子から2つの三重項励起子を生成する「一重項励起子開裂(singlet fission)」という遷移過程に着目し、一重項励起子開裂を示す有機分子をOLEDのホスト材料、近赤外発光を示す有機金属錯体を発光色素とすることで、一重項励起子開裂過程を経て生成された三重項励起子を、発光ドーパントからのエレクトロルミネッセンス(EL)として利用可能であることを実証したものです。本手法により、従来、100%が理論限界とされてきた励起子生成効率をさらに高めることが可能となります。これにより、OLEDの高輝度・高強度化が実現でき、センサー用の光源や通信用光源などにおける新しいアプリケーション用途を開拓できると期待されます。

本研究成果は、2018年7月5日(日本時間)に、ドイツの科学雑誌「Advanced Materials」誌のオンライン速報版で公開される予定です。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST) ERATO「安達分子エキシトン工学プロジェクト」の一環で得られました。

<背景>

OLEDは、電子と正孔が有機分子上で電荷再結合することにより生成する「励起子」のエネルギーを発光として利用するものであり、1980年代後半から研究開発が開始され、広範な材料開発により、現在ではディスプレーや照明用途としての魅力的な発光デバイスとして、実用化が進んでいます。電荷再結合により生成する励起子には、「一重項励起子」と「三重項励起子」という、スピン多重度の異なる励起子が存在し、OLEDではこれらが、スピン統計則により1:3の割合で生成することが知られています。すなわち、「電流励起により生成するスピン多重度の異なる励起子をいかにして発光として利用するか?」が、OLEDの発光量子効率を向上させる鍵です。これまでの精力的な材料開発および物性研究により、ほぼ100%に達する励起子生成効率が実現され、これが理論限界値であるとされてきました。

<内容・効果>

本研究では、「OLEDにおける励起子生成効率の理論限界を突破する」ことを研究目的とし、一重項励起子開裂(singlet fission)過程に着目しました。一重項励起子開裂とは、「1つ」の一重項励起子が基底状態にある分子と相互作用することで、「2つ」の三重項励起子が生成される電子遷移過程です。一光子から2つの励起子を生成できることから、近年、有機光電変換素子の研究分野で精力的な研究がなされ、100%を超える光電変換量子効率が実現されるなど(参考文献1)、大きな注目を集めています。光電変換素子と同様に、一重項励起子開裂を利用することで、OLEDにおいても理論限界を超える励起子生成・利用効率が得られると期待されますが、一重項励起子開裂を利用したOLEDに関する研究例は皆無でした。本研究では、効率的な一重項励起子開裂を発生することがすでに判明しているルブレン分子をOLEDのホスト材料、近赤外発光を示すエルビウム錯体を発光ドーパントとしたOLEDにおいて、一重項励起子開裂を経由して生成された三重項励起子を、エルビウム錯体からの近赤外EL発光として利用できることを世界で初めて実証しました(図1)。また、一重項励起子開裂が発生しない有機分子を用いた試料と比較し、近赤外発光強度がより増強されること、および近赤外強度の磁場応答性などの解析(図2)から、ルブレン分子を用いた試料での励起子生成効率が、光励起の場合108.5%、電流励起の場合においても100.8%に達していることを明らかにしました。

<今後の展開>

このように本研究は、OLEDの発光量子効率を飛躍的に向上させるための新たな発光メカニズムを提案・実証したものです。本研究成果により、特に近赤外OLEDの高輝度・高強度化の実現が可能となり、センサー用の光源や通信用光源などにおける新しいアプリケーション用途を開拓できると期待されます。現時点では、近赤外発光色素自身の発光効率が極めて低く、十分な発光強度を得られていませんが、今後アカデミックな視点より、詳細な物性解析および新たな分子開発を進め、励起子生成効率と内部EL量子効率が200%を示す究極のOLEDの実現を目指していきます。また、本研究の提案に基づく近赤外OLEDの実用化を指向して、有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i-OPERA)などとの連携により、材料開発・デバイス開発・プロセス開発を統合し、高効率で耐久性のある近赤外OLEDを実現していきます。

<参考図>

図1 一重項励起子開裂を示す分子をホスト材料に用いた新発光メカニズム

図1 一重項励起子開裂を示す分子をホスト材料に用いた新発光メカニズム
  • ①1つの一重項励起子から一重項励起子開裂により2つの三重項励起子が生成する。
  • ②ルブレン分子からエルビウム錯体へ三重項励起エネルギーが移動する。
  • ③エルビウム錯体の発光準位から近赤外発光が生じる。

図2 本提案によるOLED特性とELスペクトル、およびEL強度の磁場依存性

図2 本提案によるOLED特性とELスペクトル、およびEL強度の磁場依存性

図3 一重項励起子開裂を発生する分子をホスト材料に用いた新発光メカニズム

図3 一重項励起子開裂を発生する分子をホスト材料に用いた新発光メカニズム
  • ①1つの一重項励起子から一重項励起子開裂により2つの三重項励起子が生成する。
  • ②ルブレン分子からエルビウム錯体へ三重項励起エネルギーが移動する。
  • ③エルビウム錯体の発光準位から近赤外発光が生じる。
<用語解説>
注1)励起子生成効率
有機分子の励起状態には、一重項励起状態(S)と三重項励起状態(T)の2つのスピン多重度の異なる状態が存在しますが、電子と正孔の再結合による励起子生成過程では、スピン統計則に従って、一重項励起子が25%の確率で生成され、三重項励起子が75%の確率で生成されます。生成された励起子のうち、EL発光として利用することが可能な励起子割合を、励起子生成効率と定義します。そのため、蛍光発光のみを示す蛍光色素をOLEDの発光材料とした場合、その励起子生成効率は25%となります。一方で、燐光材料や熱活性化遅延蛍光分子など、三重項励起子を発光として利用できる分子での励起子生成効率は、100%となります。また、素子に注入された電子と正孔の再結合によってデバイス内部で生じる光子(フォトン)の割合を内部EL量子効率といい、薄膜デバイス内部で発生した光をデバイスの外部に取り出す効率を外部EL量子効率といいます。光取り出し効率(η)とηint(内部EL効率)の積からなります。
<論文情報>

タイトル:“Exploiting singlet fission in organic light-emitting diodes”

著者名:Ryo Nagata, Hajime Nakanotani, William J. Potscavage Jr., and Chihaya Adachi

DOI:10.1002/adma.201801484

<参考文献>
1)D. N. Congreve, et al., Science. 340, 331 (2013).
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

安達 千波矢(アダチ チハヤ)
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長

中野谷 一(ナカノタニ ハジメ)
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター 准教授

<JST事業に関すること>

古川 雅士(フルカワ マサシ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

<報道担当>

九州大学 広報室

科学技術振興機構 広報課