北極海の海氷面積が9月17日に年間最小値を記録 ~薄氷化が進行~

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2019-09-27   宇宙航空研究開発機構,国立極地研究所

 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(極地研)と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、水循環変動観測衛星「しずく」のデータを用いた北極海の海氷観測研究を連携して進めており、得られた海氷情報を極地研の北極域データアーカイブシステム(ADS、https://ads.nipr.ac.jp/vishop/)を通じて準リアルタイムで公開しています。

 北極海の海氷面積は毎年9月に最も小さくなります。「しずく」に搭載している高性能マイクロ波放射計(AMSR2)による観測データを分析した結果、今年は9月17日に極小値となる396万平方キロメートルを記録し、その後増加に転じました。この面積は今年の最小値と見られ、2012年に次ぐ衛星観測史上2番目の小ささとなりました(図1)。

図1:JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」の観測データによる2019年9月17日の北極の海氷分布。中心が北極点。海の色は海水温を示す。

図1:JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」の観測データによる2019年9月17日の北極の海氷分布。中心が北極点。海の色は海水温を示す。

 また、数値予報モデルで算出した海氷の体積(海氷量)は2012年よりも小さくなっていました(2012年以降では2018年に次ぎ2番目に小さい値)。このことは、北極海の海氷が2012年よりも薄くなったことを意味します。

 今年はベーリング海やアラスカ湾で平年よりも海面水温が高い状態が冬から継続しており、AMSRシリーズ(※)による海水温観測の結果、ベーリング海に繋がるチュクチ海の今年9月の水温は、過去10年間で最も高くなったことが分かりました。ベーリング海峡を通じて北極海へ供給される海洋の熱が冬季の海氷の成長を妨げ、海氷が十分に成長できない状態で夏を迎えたため、海氷量が昨年よりも小さくなったと考えられます。

 北極域は、過去35年間で夏季の海氷面積が3分の2程度に減少するなど、気候変動の影響が最も顕著に表れている地域と言われています。今後も北極域における環境変化を継続して観測してまいります。

 詳細は別紙をご覧ください。

※AMSRシリーズ:地球観測衛星に搭載されている高性能マイクロ波放射計(AMSR)

地球観測衛星「しずく」(JAXA)搭載のAMSR2

地球観測衛星Aqua(NASA)搭載のAMSR E

別紙

 宇宙航空研究開発機構の水循環変動観測衛星「しずく」搭載の高性能マイクロ波放射計AMSR2で取得した海氷密接度データによると、2019年9月17日に、北極海の海氷面積が今年の最小値を記録した見込みです(396万平方キロメートル)。この面積は衛星観測が本格的に始まった1979年以降では、2012年に次ぎ2番目に小さい値であり、昨年の年間最小面積(446万平方キロメートル)と比べて88.8%の面積です。

北極海の海氷面積の年間最小値は、2012年9月に衛星観測史上最小の面積を記録した後、

ここ数年の減少傾向は弱くなっているように見えます(図2)。

北極海の海氷面積の年間最小値は、2012年9月に衛星観測史上最小の面積を記録した後、ここ数年の減少傾向は弱くなっているように見えます(図2)。

図2:北極海の海水面積年間最小値の年変化

 しかし、海氷の面積は上から見た時の広がりを示しているにすぎません。北極海の海氷が全体的に減少しているかどうかは、面積と厚さを考慮した海氷の体積(海氷量)で把握することが重要です。日々の海氷の厚さに関しては、衛星データのみでは十分な情報を得られませんが、一方、数値予報モデルなら準リアルタイムで海氷の体積や厚さの情報が入手可能です。「北極域研究推進プロジェクト(ArCS)」https://www.arcs-pro.jp/では昨年、ノルウェーで開発され、現業利用されている海洋・海氷結合モデル「TOPAZ4(トパーズ・フォー)」による日々の海氷予測データが、厚さの見積もりにおいても高性能であることを独自に明らかにしました(注1)。図3はそのTOPAZ4を用いて算出した2012年からの北半球における海氷量の日々の変化です。これを見ると、年間最小面積が最も小さかった2012年よりも、2018年や2019年の方が海氷量としては小さいことが分かります。これはすなわち、海氷が全体として薄くなっていることを意味しています。今回、「しずく」による海氷面積の情報と、数値予報モデルによる海氷の体積や厚さの情報を複合的に分析することで、北極海における海氷の薄氷化の進行を把握することができました。

図3:TOPAZ4を用いて算出した2012年からの日々の北半球における海氷の体積(海氷量)の変化

図3:TOPAZ4を用いて算出した2012年からの日々の北半球における海氷の体積(海氷量)の変化

 一般に、海洋表層付近の水温が高いと、結氷時期や海氷の成長速度が遅くなり、薄氷化が進行します。2018年や2019年の9月に海氷量が特に小さいのは、このような海洋の影響が強く反映されているからだと考えられます。今年はベーリング海やアラスカ湾で平年よりも海面水温が高い状態が冬から継続しており、AMSRシリーズのセンサーで取得した海面水温データから、ベーリング海に繋がるチュクチ海の2019年9月上旬の水温は過去10年間では最も高く、昨年9月と比較しても0.5度程度高い状態にあります(図4)。また、2018年11月に行われた、海洋地球研究船「みらい」での北極航海でも、例年よりも高い海水温が海底付近まで観測され、海洋がよくかき混ざった状態でした。これらのことから、初冬に水温が高い状態が続いていたために結氷時期が遅れ、真冬の薄氷化が進行し、その影響が今年の9月の海氷量の少なさに現れた可能性があります。

図4:(左)チュクチ海南部の9月1日〜10日の平均海面水温 (右)チュクチ海の位置(星印)

図4:(左)チュクチ海南部の9月1日〜10日の平均海面水温 (右)チュクチ海の位置(星印)

 北極域研究推進プロジェクトでは毎シーズン、海氷分布の予測を行っていますが(注2)、今年は年間最小面積の予報が実際よりもかなり大きい値となっていました。今後は、上述の海水温の影響を考慮した予報システムに改良することによって、その精緻化が見込まれます。また今年10月、北極域研究推進プロジェクトの一環で、海洋地球研究船「みらい」がこの海氷の少ない北極海の調査航海を行います(注3)。海洋内部の混合過程や海水面の熱収支過程に関する海洋と大気の詳細観測を行うことによって、現地で何が起きているのか、そしてより精緻な海氷予測のために必要なプロセスは何なのか、その鍵となるデータを取得する予定です。

<注>

注1:

TOPAZ4は、ノルウェーのナンセン環境リモートセンシング研究センターで開発された海氷・海洋結合データ同化システムである。現場や衛星で観測された海面水温や海氷密接度などを海氷・海洋結合モデルに同化することによって、現実的な海氷・海洋の解析値と予測値が得られる。詳細は「北極海航路上の海氷厚分布を高精度に予測できる時間スケールを特定~北極低気圧の予測精度に大きく依存~」を参照のこと。

北極海航路上の海氷厚分布を高精度に予測できる時間スケールを特定 ~北極低気圧の予測精度に大きく依存~│国立極地研究所
北極海航路上の海氷厚分布を高精度に予測できる時間スケールを特定 ~北極低気圧の予測精度に大きく依存~

注2:

「北極海氷分布予報2019年第三報」を参照。

2019-3

注3:

「2019年度海洋地球研究船「みらい」北極航海」を参照。

https://www.arcs-pro.jp/mirai2019/
0303宇宙環境利用1702地球物理及び地球化学1902環境測定
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