粒子線治療に役立つ新たなビーム可視化法を開発

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目に見えない陽子線や重粒子線の到達位置をオンタイムで画像化

2018-02-15 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

  • 粒子線の治療ビームの到達位置をオンタイムで鮮明に画像化できることを実証。
  • 最新の粒子線がん治療に用いられる微弱な治療ビームでも利用可能

概要

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫、以下「量研」という。) 量子ビーム科学研究部門 高崎量子応用研究所 プロジェクト「RIイメージング研究」の山口充孝主幹研究員と河地有木プロジェクトリーダーらは、群馬大学(学長 平塚浩士)、名古屋大学(総長 松尾清一)と共同で、粒子線がん治療に用いられる陽子線および重粒子線治療ビームが到達する位置を、オンタイムで鮮明に画像化できることを初めて実証しました。打ち込み深さの異なるビーム飛跡を実用化レベルでの分解能で捉えることに初めて成功し、最新の粒子線がん治療で用いられている微弱なビームであっても即座に画像化できることが示されました。基礎検討から実証を経た本研究は、まさに実用化に段階に入りつつあります。
独自に考案した電子制動放射線1)の計測によって粒子線を画像化する新たな手法の検証実験を、実際の陽子線および重粒子線がん治療装置を用いて行いました。人体を模擬した標的に3段階の異なるエネルギーの治療ビームを入射し、標的から放出された制動放射線を、絞りの形状を改良した放射線イメージング装置で測定することによって、それぞれのビームの飛跡の長さ(打ち込み深さ)を鮮明に捉えた画像を照射終了と同時に取得することに成功しました。原理実証のためのこれまでの画像は不鮮明なものでしたが、今回取得した画像は、3つの飛跡の長さの違いを明瞭に識別できる鮮明さがあり、実用に耐えるものとなりました。この結果は、治療ビームの飛跡と到達位置をオンタイムで画像化できることを世界ではじめて実証したものです。さらに、この実験で明らかにした治療ビームの「強さ」と放射線イメージング装置の「感度」との関係から、高感度な放射線イメージング装置2)を使用すれば、微弱な治療ビームを用いる最新の粒子線がん治療法3)でも十分に活用できることがわかってきました。
粒子線が物質内を通り過ぎるときに発生する放射線:電子制動放射線は、エネルギーが低いため計測が容易であることに加え、瞬時にたくさん発生するため、治療ビームのオンタイムでの画像化に適しています。今回開発した方法は、医療現場の診断で用いられている高感度な放射線イメージング装置2)の耐放射線性を改善することで実施可能です。また、陽子線に加えて重粒子線での可能性を示したことで、世界にある全ての粒子線がん治療施設への導入が可能となり、広範な普及が期待できます。
本研究の最新の成果は、2018年2月15日にPhysics in Medicine and Biology 誌で発表される予定です。本研究成果の一部は、文部科学省科学研究費の支援を受けています。

補足説明

体内に入射した粒子線がん治療ビームを、治療直後にオンタイムで画像化できれば、治療計画通りに照射が行われているかどうかを常に確認出来るようになります。我々はこれまでに電子制動放射線1)の測定により粒子線がん治療ビームを画像化する研究を進めてきましたが、実用化するためには、「陽子線治療と重粒子線治療の両者への適用可能性」を示すことが必要でした。また、「異なる長さのビーム飛跡を明確に区別できること」を実証する必要もありました。さらに、今後主流となる先進的粒子線がん治療法に用いられるような「微弱な治療ビームへの適用可能性」を示すことも重要でした。

そこで、我々はまず、飛跡の長さが 98 mm, 123 mm, 149 mm となるようにエネルギーを調整した3つの重粒子線治療用の治療ビーム(ビーム径 3.5 cm、入射重粒子数4.7 × 1011個)を、治療対象を模擬した標的(水容器)に入射し、治療ビームの照射中に飛跡から放出される制動放射線を放射線イメージング装置で順にオンタイム測定しました。実験は群馬大学重粒子線医学研究センターにて施設共同利用の一環として行いました。図1が測定のセットアップ、図2が測定により得られた画像です。画像から得られる飛跡の長さは、実際の飛跡の長さとおおよそ5 mmの精度で一致しており、異なる長さのビーム飛跡を明確に区別できることを実証しました。


図1 測定のセットアップ
図2 飛跡の長さが98 mm, 123 mm, 149 mm となるようエネルギーを調整した3つの治療ビームを、放射線イメージング装置により測定し得られた画像

さらに、今回の実験で得られたデータから「治療ビームの強さ」と「放射線イメージング装置の感度」との間の関係を導き出しました。その結果、今回の測定で使用した放射線イメージング装置を、より高感度な装置2)に置き換えるだけで、最新の粒子線がん治療法3)で用いられるような非常に微弱なビーム(入射重粒子数が約106個)を、図2と同程度の画質で画像化できることを明らかにしました。

今回の成果により、陽子線に加えて重粒子線治療における微弱な治療ビームをオンタイムで画像化できることを実証し、実用化に向け研究が大きく前進しました。今後は、より高感度なイメージング装置を用いて、本手法の粒子線がん治療の現場への広範な普及を目指します。

用語解説

1)電子制動放射線
重粒子線や陽子線といった治療ビームが体内を進むとき、体を構成する原子の中にある電子を弾き飛ばします。弾き飛ばされた電子は、1 mm程度進んで止まるのですが、止まるまでの間に電磁波を放出します。この電磁波を電子制動放射線といいます。電子制動放射線は人体に対して透過力が高く、一定の割合で体の外に飛び出します。本手法ではこの電子制動放射線を測定して、治療ビームの飛跡と到達位置を画像化します(図3)。


図3 制動放射線による治療ビームの画像化
2)高感度な放射線イメージング装置
金属製(鉛、タングステン等)の板に、直径1 mm程度の筒状の穴を、筒の中心軸がお互いに平行になるように大量に開けたものを、平行穴コリメータといいます(図4)。穴の中心軸と同じ方向に進む放射線のみが、平行穴コリメータを通過できるため、通過後の放射線は進行方向が揃います。この平行穴コリメータを板状の放射線検出器に取り付けることで、放射線イメージング装置を構築できます。平行穴コリメータが多数の穴を持つため、高感度な放射線イメージング装置を容易に実現できます。

図4 平行穴コリメータの例 (S. Yamamoto et al., Ann. Nucl. Med. 28 (2014) 232-240, Fig. 1より転載)
3)最新の粒子線がん治療法
最新の治療では、細く微弱な治療ビームを精密に制御し、標的となるがんを塗りつぶすように照射します。複雑な形状をしたがん細胞でも、それに合わせて照射を行うことが出来るため、正常組織へのダメージを大幅に減らすことが可能です。

 

2004放射線利用
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