波がプラズマの熱を運ぶプロセスを世界で初めて観測~核融合プラズマの自己加熱の研究が大幅に進展~

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2022-09-29 核融合科学研究所,東北大学

概要

核融合発電では、高温のプラズマ※1中の核融合反応で発生した高エネルギー粒子がプラズマを加熱して、更なる核融合反応を促進させることが不可欠です。このプラズマの自己加熱のためには、高エネルギー粒子が作り出した波でプラズマを加熱できるかがポイントとなっています。核融合科学研究所の居田克巳教授、小林達哉助教、吉沼幹朗助教、東北大学の加藤雄人教授らの研究グループは、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)※2において、プラズマの速度分布の時間変化を詳細に計測し、高エネルギー粒子が作り出した波が、ランダウ減衰※3と呼ばれるプロセスによって熱を運び、プラズマを加熱していることを世界で初めて観測しました。今後、本研究成果が基盤となって、核融合発電実現に向けたプラズマの自己加熱の研究が大きく加速するのみならず、地球磁気圏におけるプラズマ加熱の研究も進展すると期待されます。

この研究成果をまとめた論文が英国の科学雑誌「コミュニケーションズ・フィジックス」に9月28日に掲載されました。

研究の背景

核融合発電は、持続可能な社会において炭酸ガスを発生しない有望なエネルギー源として期待されています。核融合発電の実現を目指して、高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究が世界中で行われています。

核融合発電では、プラズマ中の核融合反応で発生した高エネルギー粒子がプラズマを加熱することで核融合反応を維持します。このプラズマの自己加熱を効率良く行うためには、高エネルギー粒子が作り出した電磁波でプラズマを加熱するプロセスが必要だとされています。ところが、これまで、プラズマ内部で発生した電磁波による加熱プロセスを直接的に計測する手法がなかったために、この加熱プロセスが実際に存在するかどうかは分かっていませんでした。大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で、この加熱プロセスの存在を明らかにすることができれば、核融合発電実現に向けた大きな一歩となります。

研究成果

居田克巳教授らの研究グループは、電磁波によるプラズマの加熱プロセスを捉えるために、新たな計測システムの開発に取り組みました。加熱プロセスを直接計測するためには、どの速度の粒子がどれくらいの割合で存在するのかを示す速度分布の時間変化を計測しなければなりません。そこで、高速の原子をプラズマに入射して、プラズマから発せられる光の波長分布からプラズマ粒子の速度分布を高速で計測する方法(高速荷電交換分光法※4)を用いました。居田教授らは、これまで困難とされていた超高速計測に挑戦し、10キロヘルツ(1秒間に1万回)という超高速でプラズマ粒子の速度分布の時間変化を計測することに成功しました。

LHDでは、核融合反応による高エネルギー粒子を模擬した高速粒子ビームを用いて、プラズマの自己加熱を調べる実験を行っています。今回、この自己加熱の模擬実験において、新たに開発した計測システムを用い、プラズマ粒子の速度分布の時間変化を詳細に計測しました。その結果、プラズマ内部での電磁波の発生に伴って、高速粒子ビームが減速するとともに、プラズマ粒子の速度分布の形状が歪んでプラズマが加熱されていることを世界で初めて発見しました(下図)。また、この速度分布の歪みの理由は、ランダウ減衰と呼ばれるプロセスによって、高速粒子ビームのエネルギーが電磁波に移り、その電磁波のエネルギーがプラズマ粒子に移ったからだと分かりました。つまり、電磁波が、高速粒子ビームからプラズマ粒子へと熱を運んで、プラズマを加熱したことを観測したのです。また、電磁波の発生の1万分の1秒後には、速度分布の歪みが始まることも分かりました。


図 熱が電磁波によって運ばれ、高速の粒子ビーム(赤線)の減速とプラズマ粒子(緑線)の加熱が同時に起こる様子。電磁波の発生に伴い、粒子が加速されたことによって速度分布の歪みが観測された。

研究成果の意義と今後の展開

核融合発電におけるプラズマの自己加熱のためには、高エネルギー粒子がプラズマ粒子と衝突して加熱するだけでは不十分であり、他のプロセスによる加熱が必要です。プラズマ内部で発生した電磁波が、そのプラズマを加熱できることを実証した本研究成果は、核融合研究に重要な知見を与えています。さらに、同様のプロセスで粒子加速が起こっている地球磁気圏の研究にも貢献し、今後の学際的な研究の進展を促すと考えられます。

研究サポート

科学研究費特別推進研究「核融合プラズマの位相空間揺らぎがもたらす新しい輸送パラダイムの探求」(課題番号21H04973)のサポートで研究が行なわれました。(ホームペー ジ:https://tokusui.nifs.ac.jp/)

【用語解説】

※1  プラズマ
固体、液体、気体に次ぐ物質の第4の状態。高温のため原子が電子とイオンに分離し、電子とイオンが自由に運動できるようになった状態。

※2  大型ヘリカル装置(LHD)
核融合科学研究所の主実験装置で、我が国独自のアイデアに基づくヘリオトロン磁場を用いた世界最大の超伝導ヘリカル型のプラズマ生成装置。LHDとはLarge Helical Device の略。1998年3月から実験が開始された。トカマク型のプラズマ生成装置と磁場構造が異なっており、特徴を生かしたユニークな研究を行うことができる。

※3  ランダウ減衰
プラズマ振動が荷電粒子にエネルギーを与えて減衰すること。1946年ソ連の理論物理学者 L. D.ランダウによって、荷電粒子の速度分布がマクスウェル・ボルツマン分布ならば、プラズマ中の縦波は必ず減衰することが指摘された。

※4  高速荷電交換分光法
プラズマに入射した高速の中性粒子(原子)とプラズマ中のイオンが衝突して出す光を利用して、プラズマ内部のイオンの速度分布を計測する計測手法。プラズマから発せられる光の波長分布(スペクトル)を分析するが、その波長はプラズマのイオンの速度によって変化する。計測装置はレンズ分光器、イメージインテンシファイア、高速カメラからなり、10kHzの高時間分解でイオンの速度空間の計測が可能。

【論文情報】

雑誌名:Communications Physics
題名:Direct observation of mass-dependent collisionless energy transfer via Landau and transit-time damping (ランダウ減衰と走行時間減衰による質量依存無衝突エネ ルギー移動の直接的証拠)
著者名:居田克巳1,2、小林達哉1,2、吉沼幹朗1,2、永岡賢一1,3、小川国大1,2、徳沢季彦1,2、奴賀秀男1,2、加藤雄人4

1 自然科学研究機構 核融合科学研究所
2 総合研究大学院大学
3 名古屋大学 大学院理学研究科
4 東北大学 大学院理学研究科

DOI:10.1038/s42005-022-01008-9

【本件のお問い合わせ先】

研究内容について
大学共同利用機関法人
自然科学研究機構 核融合科学研究所 ヘリカル研究部長
大型ヘリカル装置計画研究総主幹、高温プラズマ物理研究系研究主幹
教授 居田 克巳(いだ かつみ)

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