赤外線放射の「鼓動」で探る銀河中心ブラックホールを隠すダストの分布

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2022-09-16 東京大学

水越 翔一郎(天文学専攻 博士課程)
峰崎 岳夫(天文学教育研究センター 准教授)

発表のポイント

  • 銀河中心ブラックホールを取り巻くダスト層による光の減衰量を463個の活動銀河核について測定し、可視光ならば本来の明るさの約1杼分の1にもなる減衰量を示す活動銀河核が存在すること、さらにダストを含まないガス雲がブラックホール周辺に多数存在することを示した。
  • ダスト層を透過しやすい赤外線での活動銀河核の変光現象を解析することで、深くダスト層に隠された活動銀河核でも光の減衰量を簡便かつ大量に測定できる新手法を確立した。
  • 約10万個の活動銀河核について本手法を適用できる見込みであり、将来、活動銀河核現象と銀河中心ブラックホールの成長の理解の有力な手がかりとなると期待される。

発表概要

東京大学大学院理学系研究科の水越翔一郎大学院生、同附属天文学教育研究センターの峰崎岳夫准教授、鮫島寛明特任助教、プリンストン大学の小久保充日本学術振興会海外特別研究員、大阪大学大学院理学研究科の野田博文助教らの研究グループは、活動銀河核(注1)の赤外線放射強度の時間変動現象を解析することで、銀河中心ブラックホールを取り巻くダスト層(ダストトーラス)(注2)による活動銀河核中心部からの光の減衰量(ダスト減光量)を測定する新しい手法を開発しました。ダストトーラスを透過しやすい赤外線を使うことでそれに深く隠された活動銀河核でも測定でき、また公開観測データベースをもとに簡便かつ大量に解析できるところが本手法の長所です。活動銀河核463個についてダスト減光量の測定を行った結果、可視光ならば中心放射が約1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)に暗くなるほどにダストトーラスに深く隠された活動銀河核も存在しました。本研究で測定したダスト減光量に対して、先行研究で測定されたブラックホールから我々までの間に存在するガスの量は、銀河系の星間空間における標準的な両者の比から想定される量よりも多く、さらに活動銀河核ごとにまちまちの値を示しました。これはダストトーラスの内側にダストを含まないガス雲が多数存在することを示唆します。今後、約10万個の活動銀河核について本手法を適用できる見込みで、活動銀河核現象と銀河中心ブラックホールの成長の理解のための有力な手がかりとなると期待されます。

発表内容

研究の背景

銀河中心ブラックホールを取り巻くダストトーラスは、いわば「ダム」のように活動銀河核の莫大な放射エネルギーの燃料源となる大量のガスを貯めています。ダストトーラス中のガスの一部は重力によりブラックホールに引き込まれ、莫大な放射の「燃料」となりつつブラックホールの質量を増やします。一方でガスに混じっているダストは活動銀河核中心からの強力な放射による圧力を受け、このダストとともにかなりのガスが外へ吹き飛ばされてしまうと考えられています。このようにダストトーラスの構造や状態を明らかにすることは活動銀河核の研究においてとても重要です。

ダストは光を吸収・散乱する性質があるため、活動銀河核中心部から我々までの間に存在するダストの量を中心部からの放射の減衰量(ダスト減光量)で評価できます。そこでたくさんの活動銀河核についてダスト減光量を測定することでダストトーラスの構造を調べることができます。これまでに可視光で多数の観測が行われてきましたが、可視光は少量のダストでも効率的に減光してしまうため、ダストトーラスに深く隠された活動銀河核についてはダスト減光量が測定できません。そのような活動銀河核を対象に、よりダストに減光されにくい近赤外線(波長約2 μm)での観測も進みつつありますが、ダスト減光量が測定された活動銀河核の数はいまだ多くはありません。

研究内容

そこで本研究では、活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)現象の解析によりダストトーラスによる減光量を測定する新しい手法を開発しました。ダストトーラス内縁部では、活動銀河核中心からの強力な紫外線・可視光によってダストは昇華寸前にまで温められ、近赤外線(波長約1~5 μm)を放射しており、これは活動銀河核中心からの放射と同様に我々までの間に存在するダストにより減光します。可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいため、そのスペクトルはより「赤く」(相対的に短波長側がより暗く)なります(図1)。従って、この「赤化」量を測定することでダスト減光量を見積もることができます。本研究では近赤外線の異なる2つの波長における放射強度の変光量の比を使うことで赤化量を測定しました(図2)。


図1:ダストトーラスによる減光量の異なる活動銀河核における、活動銀河核中心部からの放射の見えかたの違いを示した想像図。活動銀河核の一般的な性質として中心部からの放射の明るさは時間変化(変光)する。可視光・赤外線に対するダストによる吸収・散乱の影響は波長が長いほど小さいため、ダストトーラスによる減光が大きい場合には中心部からの放射は暗くなりつつ、そのスペクトルは「赤く」(相対的に短波長で暗く長波長で明るい)なる。そこで、中心放射の変光する成分のスペクトルがどれだけ「赤く」なっているかを測定することで、ダストトーラスの減光量を測定する。


図2:活動銀河核の近赤外線放射強度の時間変動(変光)からダストトーラスによる減光量を評価する方法の概要。一般的に活動銀河核からの近赤外線放射は10数年の観測期間のあいだで明るさが変化する(図中左側のグラフ)。近赤外線の異なる2つの波長(ここでは波長3.4 µm、4.6 µm)での放射強度を縦軸横軸にして各観測日のデータをプロットし、直線フィットする(図中右側のグラフ)。このフィッティング直線の傾きは両波長における変光量の比を示し、変光している近赤外線放射のスペクトルの色の指標となる。ダスト減光が大きい場合、長波長の放射よりも短波長の放射のほうがより暗くなるためその変光幅もより小さくなり、フィッティング直線の傾きが変化する。そこで中心部の可視光放射がダストに隠されていない活動銀河核におけるフィッティング直線の傾きの平均的な値を求め、ある活動銀河核についてのフィッティング直線の傾きがそれからどれくらい異なるか測定することで、その活動銀河核におけるダストトーラスによる減光量を評価する。この波長の近赤外線はダストによる吸収・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さいため、ダストトーラスに深く隠された活動銀河核でも幾分なりとも透過してきた放射を測定して、ダスト減光量を評価することができる。


活動銀河核を中心にもつ銀河(母銀河)中の星などからの放射はたかだか数十年の観測期間内では明るさが変化しないので、本手法では母銀河の放射の影響を受けずに活動銀河核の放射の赤化量を測定することができます。近年、赤外線天文衛星WISE(注3)によって波長3~5 μm の近赤外線での全天長期モニター観測が行われています。この波長の近赤外線はダストによる吸収・散乱の影響が可視光に比べてはるかに小さく、そのおかげで本手法を用いて一般公開されているWISEのデータを解析することによりダストトーラスに深く隠された活動銀河核についても容易にダスト減光量の測定を行うことが可能になりました。

本研究ではthe BAT AGN Spectroscopic Survey(BASS; Koss et al. 2017)カタログにある活動銀河核に本手法を適用し、463個の活動銀河核に対してダスト減光量の測定に成功しました。これらの活動銀河核は中心部の可視光放射がダストに隠されていないものとほとんど隠されたもの(それぞれ1型、2型と呼ばれる)に大別されますが、2型活動銀河核のダスト減光量は1型活動銀河核に比べて大きいだけでなく、それより少し大きいだけのものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほど非常に大きなものまで、幅広い値をもつことがわかりました(図3)。


図3:本研究で測定された活動銀河核のダスト減光量と、それらの活動銀河核におけるブラックホールから我々までの間に存在するガスの量との比較。青丸は中心部の可視光放射がダストに隠されていない1型活動銀河核、赤丸はそれがほとんど隠された2型活動銀河核を表す。また灰色の帯は、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比の場合における図上の位置を示す。2型活動銀河核は1型活動銀河核より少しだけダスト減光量が大きい(それでも可視光放射はほぼ隠されてしまっている)ものから、可視光ならば明るさが1杼分の1(1兆分の1の1兆分の1)になるほどダスト減光量の大きいものまで広い範囲に分布してる。また2型活動銀河核の多くが灰色の帯上のものから、それよりもガス量がおよそ100倍大きいものまで、幅広く分布している。


次に、測定されたダスト減光量を、ブラックホールから我々までの間に存在するガスの量(BASS カタログに記載されている、X線放射の減光によって測定された値)と比較しました(図3)。すると多くの2型活動銀河核において、銀河系の星間物質の標準的なガスとダストの混合比を仮定したときにダスト減光量から予想されるよりもガスの量が多いことがわかりました。しかもこのガスの量は、銀河系の星間物質からの予想値にほぼ等しいものからその100倍近く大きいものまで活動銀河核ごとに様々な値を示しました。

このような傾向は先行研究でも示唆されていましたが、これほどたくさんの活動銀河核について系統的に調べられたのは初めてのことです。この結果は、ダストトーラスの内側にダストを含まないガス雲が多数存在し、それらがこのガスの超過をもたらしているとする描像で説明できます(図4)。


図4:本研究が示唆するダストトーラスの構造の概念図。中心の巨大ブラックホールと降着円盤を取り囲むようにダストトーラスが存在し、両者のあいだにダストを含まないガス雲が存在する。近赤外線はダストトーラス内縁部に存在する高温ダスト領域から放射され、それがダストトーラスを通過するときに減光を受ける。X線は巨大ブラックホール近傍の高温ガスから放射され、それがダストを含まないガス雲やダストトーラス中のガスを通過するときに減光を受ける。図中の①〜③は異なる方向から活動銀河核を観測したときに近赤外線放射とX線放射が通過する経路と受ける減光の様子の違い、およびそれぞれの図2中でのデータの位置を示している。①では近赤外線放射はダストトーラスで減光を受け、X線放射はダストトーラスとその内側にあるダストを含まないガス雲の両方で減光を受ける。②では近赤外線放射、X線放射はともに減光を受けない。③では近赤外線放射、X線放射はダストトーラスでのみ減光を受ける。

今後の展開

たくさんの活動銀河核がWISE衛星によって観測されており、このうち本手法を適用できるものは約10万個にもなる見込みです。こうして得られた大量のダスト減光量データに基づきダストトーラスの構造や状態を推定し、活動銀河核と銀河中心ブラックホールの成長、それが母銀河に与える影響を理解するための手がかりを得たいと考えています。

本研究は、科学研究費助成事業(課題番号: 19K21884, 20H01941, 20H01947. 19K03917)からの支援を受けています。

発表雑誌
雑誌名
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
論文タイトル
Measurement of AGN dust extinction based on the near-infrared flux variability of WISE data

著者
Shoichiro Mizukoshi, Takeo Minezaki, Shoichi Tsunetsugu, Atsuhiro Yoshida, Hiroaki Sameshima, Mitsuru Kokubo, Hirofumi Noda

DOI番号
10.1093/mnras/stac2307

用語解説

注1  活動銀河核
銀河の中心部の非常に狭い領域から銀河全体の明るさに匹敵するかそれを超えるほど莫大な電磁波が放射している天体現象。銀河中心に存在する巨大ブラックホールに物質が落下することによって解放される重力エネルギーが巨大な放射のエネルギー源とされている。巨大ブラックホール近傍の高温ガスからはX線が、その周囲に形成されるガス円盤(降着円盤)からは紫外線や可視光が、さらにそれらを取り巻くように分布するダストトーラス(注2)からは赤外線が放射される。

注2  ダストトーラス
巨大ブラックホールと降着円盤をドーナツ状に取り巻くようにガスが分布していると考えられており、そのガスにはダスト(数nmから数 μm程度の大きさの固体の微粒子)が含まれていると考えられている。このドーナツ状の構造はダストトーラスと呼ばれている。

注3  赤外線天文衛星WISE
NASAにより2009年に打ち上げられた天文観測衛星で、正式名称はWide-field Infrared Survey Explorer。天球上の全ての領域について半年に一度の間隔で赤外線での観測が行われる。初期に4つの波長(3.4 µm、4.6 µm、12 µm、22 µm)にて掃天観測が行われたのち、しばらくの休眠期を経て2014年から波長3.4 µm、4.6 µmにて観測を再開し、現在も継続中である。観測結果のデータは一般に公開されている。

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