星屑を再利用して成長を続ける太古の巨大銀河

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2023-05-31 国立天文台

銀河で生まれた星の一部は超新星爆発を起こし、その残骸を膨大なエネルギーとともに銀河の外へ放出しますが、この残骸は再び銀河へと舞い戻り、次世代の星の新たな糧となります。今回すばる望遠鏡とケック望遠鏡が、この星の輪廻転生を通して成長する巨大銀河の様子を捉えることに初めて成功しました。

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星屑を再利用して成長を続ける太古の巨大銀河 図

図1:星屑を再利用しながら成長し続ける巨大銀河のイメージ図。超新星爆発やブラックホールの活動によって銀河の外へ放出された星の残骸がふたたび銀河内部へ送り返されることで、爆発的な星形成が絶えず維持され、より大きな銀河へ成長することを手助けします。背景は、マウナケア山頂域に並ぶ、すばる望遠鏡とケック望遠鏡。(クレジット:精華大学/NAOJ)


宇宙の大規模構造に沿って淡く分布するガスは、銀河が新しい星を形成するための材料となります。星が超新星爆発で死ぬと、ガスが銀河の外に排出されることがあります。一方で、星を作り続けるには、銀河に降り注ぐガスの供給が絶えず必要です。これまで成長途上の銀河が太古の宇宙でたくさん発見されてきましたが、持続成長の原動力が宇宙誕生時の原始的なガスの供給によるものなのか、それとも死んだ星の残骸を多く再利用しているのか、明らかではありませんでした。
この疑問に答えるため、清華大学、早稲田大学、マックス・プランク宇宙物理学研究所を中心とする国際研究チームは、110 億年前の宇宙にある巨大銀河を観測しました。宇宙誕生時の原始的なガスは、ほとんどが水素で構成され、わずかにヘリウムが含まれています。一方、再利用されるガスは、星の核融合によって生成された重い元素を含んでいます。研究チームは、ケック望遠鏡とすばる望遠鏡の観測データを解析し、この銀河の周辺の 30 万光年にも及ぶ広い範囲で、水素、ヘリウムと、炭素を検出しました。さらにこれらの元素の比率は、太陽で見られるものと同等であることがわかりました。太陽系から 110 億光年も離れた太古の銀河を囲むガスがこれほど重元素に富んでいることは、驚くべき事実です。
銀河をとりまくガスの動きをシミュレーションと比較することによって、研究チームは、一年間に太陽 700 個分に相当するガスが銀河に還流していることを明らかにしました。これは、この銀河で観測された星形成の速度(1年間に太陽 80 個分ほどの星が生まれる)をはるかに上回るもので、ガスの再利用だけで銀河の成長を促すことができることを示しています。
研究チームを率いるツァイ・ジェン(蔡峥)准教授(清華大学)は、「水素と重い元素の比率を測定するために、すばる望遠鏡の赤外線観測装置 MOIRCS(Multi-Object Infrared Camera and Spectrograph、モアックス)で撮られた水素ガスのデータが非常に重要な役割を果たしました」と語ります。また共同研究者である嶋川里澄准教授(早稲田大学)は、「我々の身の回りにある、バリオンと呼ばれる通常の物質は、実は大半が銀河の外にありますが、希薄な銀河間ガスを直接観測することは極めて困難です。今回この希薄なガス中の重元素を特定しただけでなく、運動状態をも捉えることに成功しました。その意味で銀河の形成理解に向けて大きく前進したと言えるでしょう」と本研究の意義を語ります。
本研究成果は2023年5月5日付のサイエンス誌に掲載されました(Shiwu Zhang et al. “Inspiraling streams of enriched gas observed around a massive galaxy 11 billion years ago“)。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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