「デジタルアニーラ」を活用し、磁気デバイスの磁束密度を最大化
2019-07-19 株式会社富士通研究所
株式会社富士通研究所(注1)は、エネルギーハーベスティング(環境発電)などで使われる磁気デバイスにおいて、平面状(2次元)に複数配列した磁石に対し、磁束密度を最大化するための最適配置を求める計算を、組合せ最適化問題を高速に解く次世代アーキテクチャー「デジタルアニーラ」で可能にする技術を開発しました。
環境発電に使われる磁気デバイスの多くは多数の小さな磁石を配列して磁束を発生させますが、より高い発電効率を実現するための平面状(2次元)配置は、磁石の配列の組み合わせが膨大となり現在計算が困難な状況です。今回、1つ1つの磁石をどのように配置すれば磁束密度を最大化できるかを「デジタルアニーラ」で計算できる技術を開発し、これまで難しかった計算を数秒で解くことができるほか、発電効率も16%向上させることが可能になりました。
これにより、従来以上に発電効率が高い磁気デバイスの設計を迅速に計算でき、エネルギーハーベスティングデバイスなど自然エネルギーを利用可能とする発電装置のさらなる普及が期待できます。
なお、本技術は、北海道大学情報科学研究院の五十嵐一教授との共同研究で開発しました。
本技術の概要は、7月15日(月曜日)からフランス・パリで開催される国際会議「COMPUMAG 2019 (the 22nd International Conference on the Computation of Electromagnetic Fields)」にて発表しました。
開発の背景
モーターやエンジン、橋や建物などの振動を電力に変えるエネルギーハーベスティングデバイスは、車載機器やウェアラブル機器の自家発電、屋内外の様々な場所に配置されるIoTデバイスへの電力供給手段として、送電ケーブルやバッテリー交換・充電作業を不要にする技術として注目されています。また、環境・エネルギー問題の解決に向けても、さらなるエネルギーハーベスティングデバイスの効率化が求められています。
課題
振動を電力に変えるエネルギーハーベスティングデバイスは、永久磁石とコイルによって生じる電磁誘導という物理現象を利用して、動力と電力の間でのエネルギー変換を行っています。エネルギーハーベスティングデバイスの発電効率を最大にするためには、デバイスの内部に多数配置された磁石から発せられる磁束密度の大きさを、コイルの位置に対して最大化する必要があります。
現在、一列(1次元)に複数並べた磁石の片面に磁束を集中させる配列は知られていますが、今後さらなる高発電効率の磁気デバイスを実現するには、磁石を平面状(2次元)に並べて発電量を増やすことが有効です。しかし、平面状(2次元)に並べられた磁石の配列は複雑なため、例えば3次元の座標軸に沿って磁石を正方形状に10個×10個並べる場合の磁石配向の組み合わせの数は10の77乗以上にのぼり、所望する部分(コイルのある部分)に対して磁束密度を最大にする最適な配列を見出すことが困難でした。
開発した技術
今回、北海道大学情報科学研究院の五十嵐一教授と共同で、組合せ最適化問題を高速に解く次世代アーキテクチャー「デジタルアニーラ」を活用し、平面状に配置された磁石の最適な配列を計算する技術を開発しました。
「デジタルアニーラ」では、問題の事象をすべて0と1の変数として表現する必要があります。今回、X、Y、Zの3軸に沿って配向可能な磁石の方向をそれぞれ3 bitの変数で表現し、その変数と電磁気学の法則の一つであるビオ・サバールの法則を用いて、発生する磁束密度の解が出るように定式化しました。そして、その式を用いて、ある特定の部分に対して磁束密度が最大化するように目的関数(値を最大化すべき関数)を導入しました。さらに、組合せ最適化問題に必要となるQUBO形式(注2)で解けるように、新たな変数を目的関数に追加することで、「デジタルアニーラ」で平面状の磁石配列の最適な設計構造を計算できるようになりました。
図. 磁石の最適配置によりコイルに向けた磁束密度が最大化しているイメージ
効果
本技術により、平面状(2次元)の磁石配列の最適設計が「デジタルアニーラ」で計算可能となりました。今回、シミュレーションを行ったところ、10個×10個の2次元磁石配列の設計最適化問題が数秒で解けることを確認しました。得られた配列を用いることで、従来の一列(1次元)配列のやり方で2次元配列にした場合と比較して、磁束密度の大きさが17%、エネルギーハーベスティングデバイスの発電効率としては16%向上させることができました。
なお、本技術は、磁束密度を部分的に最大化するための計算以外に、たとえばリニアモーターなど磁束密度の分布状態を制御する必要がある磁石配列の最適化などへの応用も可能です。
今後
富士通研究所は、本技術を富士通株式会社の「デジタルアニーラ」のテクニカルサービスの1つとして、2020年度の実用化に向けた実装を進め、エネルギーハーベスティングなどで使われる磁気デバイスのさらなる発展に貢献します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 古田英範。
- 注2 QUBO形式:
- Quadratic Unconstraint Binary Optimization(制限なし二次形式二値変数最適化)形式の略。0または1などの二つの値のみを取り得る変数に対して、最大化あるいは最小化すべき目的関数がその2次の項までで表現でき、かつ変数空間の範囲に明示的な制限がない最適化の形式のこと。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
デジタルアニーラ・ユニット
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