地球が見える 2019年

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2019-07-12  JAXA

グリーンランド 初夏の大融解

気候変動観測衛星しきさいや水循環変動観測衛星しずくを統合したグリーンランド氷床の融解域モニタから、2019年6月の氷床の融解面積が直近の数年間において最も拡大していたことが確認されました。以下では特徴的な領域の事例と共に、北極域に位置するグリーンランドの初夏の大融解を紹介します。

今年6月、北極域グリーンランド北西部にあるカナック村を取り囲むフィヨルドで撮影された写真が、デンマーク気象協会の研究者によって公開され話題となりました。まるで海の上を犬橇が駆けているように見えますが、実はこの水面のすぐ下には海氷があり、氷の上を橇が走っているのです。極域や高緯度の海域に存在する海氷は夏になると表面が融解し、氷の上に水たまりを形成します。このような海氷上の水たまりをメルトポンドと呼びます。この地域では例年7月頃には海氷が融解しますが、今年は少し早い時期にフィヨルドを覆っている海氷の表面が広範囲で融解したことで、大規模なメルトポンドが形成されたようです。このようなカナック周辺のフィヨルドにおける大規模なメルトポンドの形成は、宇宙からもその姿が捉えられていました。

左:気候変動観測衛星しきさい(GCOM-C/SGLI)が撮影したグリーンランド氷床全体のトゥルーカラー画像。図中赤枠が右図の領域。右:Sentinel-2/OLIが2019年6月17日に撮影したトゥルーカラー画像

図1 左:気候変動観測衛星しきさい(GCOM-C/SGLI)が撮影したグリーンランド氷床全体のトゥルーカラー画像*1。図中赤枠が右図の領域。右:Sentinel-2/OLIが2019年6月17日に撮影したトゥルーカラー画像*2

*1赤、緑、青にSGLIのVN8(673.5 nm)、VN5(530 nm)、VN3(443 nm)を使用
*2赤、緑、青にOLIのBand 4(665 nm)、Band 3(560 nm)、Band 2(490 nm)を使用

図1右はESA(欧州宇宙機関)が打ち上げ運用しているSentinel-2が2019年6月17日にカナック周辺のフィヨルドを撮影したトゥルーカラー画像です。雲や氷床、積雪は白く見えており、フィヨルド内の海氷が白からやや暗い青色に見えています。海氷の中でもより色が暗くなっているところは表面が水に濡れている領域です。表面が積雪に覆われていれば明るい白色に見えますが、海氷の大部分が暗く見えているため、フィヨルドの中の海氷の大部分で表面融解が生じ、メルトポンドが形成されていると考えられます。

気候変動観測衛星しきさい(GCOM-C/SGLI)が撮影したトゥルーカラー画像(左から6月7日、10日、13日、17日)。下段は左図赤枠で示したカナック周辺フィヨルドの拡大図。

図2 気候変動観測衛星しきさい(GCOM-C/SGLI)が撮影したトゥルーカラー画像(左から6月7日、10日、13日、17日)。下段は左図赤枠で示したカナック周辺フィヨルドの拡大図。

図2は気候変動観測衛星しきさいによって得られた同時期のカナックフィヨルドの様子です。Sentinel-2のような高解像度衛星よりも広い範囲を観測しています。また、しきさいの持つ高頻度観測によって、短い期間の中で起きた変化が詳細に捉えられています。図2左の2019年6月7日時点では、フィヨルド内の海氷域が白色に見えており、海氷城を積雪が覆っていることが伺えます。その後、約10日間で海氷城の積雪および海氷表面が融解し、フィヨルド全体を覆うような大規模なメルトポンドが形成されたと考えられます。

このような初夏の大規模な融解は、カナック周辺のフィヨルドだけでなく、陸上のグリーンランド氷床の広い範囲で生じていることが複数の衛星を用いた解析から明らかになりました。

JASMES グリーンランド氷床モニタによる2019年6月17日の融解域分布(左)と2013年以降の融解面積の変化(右)。右図赤枠は2019年6月の短期的な融解域の拡大を示す。

図3 JASMES グリーンランド氷床モニタによる2019年6月17日の融解域分布(左)と2013年以降の融解面積の変化(右)。右図赤枠は2019年6月の短期的な融解域の拡大を示す。

図3左はJAXA/EORCが運用しているJASMESグリーンランド氷床モニタで公開しているグリーンランド氷床の融解域分布を表したものです。直近の10日間で何日間融解を経験したかが色で示されています。これによると、前述した大規模なメルトポンドに覆われたフィヨルドの位置する北西部はもちろん、北東部や南部の広い範囲で表面融解が生じていた可能性があったことが伺えます。図3右は2013年以降の氷床融解面積の変化を表しており、赤枠内、オレンジ色で示されている2019年6月の氷床の融解面積は直近の数年間において最も拡大しているという結果が得られました。氷床の融解面積は6月中旬に急激に拡大し、その後6月下旬以降はその面積が大きく減少し、他の年と同程度の融解面積を示していることから、ごく短期間で急激な表面融解が生じたと考えられます。
このグリーンランド氷床の融解検知には複数の衛星データが使用されており、雲の影響を受けにくいマイクロ波観測を行うしずく(GCOM-W/AMSR-2)や高空間分解能で太陽光の反射や地表の熱を観測可能な光学・熱赤外観測を行うしきさい(GCOM-C/SGLI)、Terra/MODIS、Aqua/MODISのデータが統合されています。「しきさい」と「しずく」は共に地球環境変動観測衛星(Global Change Observation Mission: GCOM)シリーズとして設計され、それぞれが補完しあって気候変動や環境変動の監視に重要なデータを観測します。今回は、これらGCOMシリーズの衛星によって相補的に得られた観測データによってグリーンランド氷床の大融解を捉えることができました。しきさいやしずくによる光学観測、熱赤外観測、マイクロ波観測が三位一体となり、それぞれの特徴を活かしながらグリーンランド氷床の融解域をモニタリングしています。

地球上の雪氷は白くアルベドが高いため、太陽光を効率的に反射します。また、特に海氷は海洋から大気への熱・水蒸気の輸送を遮断するなど、地球全体の気候に影響を与えています。近年北極海の海氷はその面積が大きく減少し、その変化が大きくなっていることが報告されています。グリーンランド氷床もまた、融解に伴いその質量が大きく減少しており、海水準変動へ影響を与えていることが知られています。
JAXA/EORCでは、このような海氷やグリーンランド氷床をはじめとした地球環境の変化の兆候をいち早く捉えるため、北極海の海氷密接度の分布画像および海氷面積値情報、グリーンランド氷床の融解域や裸氷域・暗色域の変化を、地球環境監視webサイト「JASMES」や「JASMESグリーンランド氷床モニタ」で公開しています。また、外部機関と連携し、国立極地研究所が開設している北極域データアーカイブシステム「ADS」の衛星データビューア「ViSHOP」にもデータを提供しています。今後も引き続き、海氷や積雪など雪氷圏や極域の環境変動をGCOMシリーズをはじめとした複数の衛星を複合的に用いて多角的な観点から監視していく予定です。

観測画像について

画像:観測画像について

図1
観測衛星 気候変動観測衛星「しきさい」
(GCOM-C)(左)
Sentinel-2(右)
観測センサ 多波長光学放射計(SGLI)(左)
Operational Land Imager(OLI)(右)
観測日時 2019年6月17日(右)
図2
観測衛星 気候変動観測衛星「しきさい」
(GCOM-C)
観測センサ 多波長光学放射計(SGLI)
観測日時 2019年6月7日、10日、13日、17日
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