40Gbpsの光信号に対応した超小型の4波長多重光受信チップを開発

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5Gネットワーク用基地局装置の小型化に貢献

2019-07-08 新エネルギー・産業技術総合開発機構,光電子融合基盤技術研究所,沖電気工業株式会社

NEDOと技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)、沖電気工業株式会社(OKI)は、光通信ネットワークに用いられる光トランシーバー向けに世界最小のTWDM-PON用光受信チップを開発し、受信動作を実証しました。このチップは、波長が異なる4つの光信号を受信する方式(4波長多重)で合計40Gbpsの光信号を偏波状態によらず受信できるもので、シリコンフォトニクス技術の採用により、超小型化を実現しました。

このチップを用いることで、第5世代移動通信(5G)ネットワークで利用されるスモールセル基地局装置に内蔵できる超小型光トランシーバーの開発が可能となり、モバイル環境で高精細動画コンテンツを配信するなどの5Gサービスを、より広い地域で利用できるようになることが期待されます。

この成果は、福岡市で7月7日から開催されている光通信関連の国際学会「OECC(OptoElectronics and Communications Conference)2019」で、PETRAとOKIが発表します。

開発した超小型の4波長多重光受信チップの図

図1 開発した超小型の4波長多重光受信チップ

1.概要

第5世代移動通信(5G)ネットワークではミリ波※1近傍の電波を用いて超高速、同時多数接続、低遅延の通信サービスが提供されます。ミリ波は、第4世代移動通信(4G)に使用されている電波に比べて減衰しやすいほか、物陰に回り込みにくい性質があります。そのため、5Gネットワークの構築には、スモールセルと呼ばれる小さなエリアごとに基地局を設置する必要があり、設置数は4Gネットワークの基地局に比較して約100倍に上ることが想定されます。

このようなネットワークの構築には、既存の光アクセスネットワーク※2にパッシブ光ネットワーク(PON)※3の構成を用いてスモールセル基地局を追加する方法が考えられます。また、その普及のためには、設置場所を選ばない小型スモールセル基地局が必要であり、そこに内蔵できる手のひらサイズの超小型光トランシーバー※4の開発が待たれています。

PONの構成を用いたスモールセル基地局の接続の図

図2 PONの構成を用いたスモールセル基地局の接続

こうした背景から、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)、沖電気工業株式会社(OKI)は、シリコンを材料とする光素子技術(シリコンフォトニクス技術※5)を開発し、5Gネットワーク向け超小型光トランシーバーを実現するプロジェクト※6に取り組んでいます。

そして今般、5Gネットワーク向けを想定した「TWDM-PON」※7に用いる光トランシーバー向けに世界最小の光受信チップを開発し、波長が異なる4つの光信号を受信する方式(4波長多重)で、合計40Gbpsの光信号を偏波※8状態によらずに安定して受信できることを実証しました。

今後NEDOとPETRA、OKIは、今回開発した光受信チップに光送信機能も集積した超小型光トランシーバーの開発を進め、5Gネットワークのスモールセル基地局に向けた超小型光通信ユニットの実現を目指します。この開発を通じて、モバイル環境で高精細動画コンテンツを配信するなどの5Gサービスを、より広い地域で利用できるようになることが期待されます。

この成果は、福岡市で7月7日から開催されている光通信関連の国際学会「OECC(OptoElectronics and Communications Conference)2019」で、PETRAとOKIが発表します。

2.今回の成果

5Gネットワーク向けを想定したTWDM-PONに用いる光受信装置には、波長多重化された光信号を各波長成分に分離して信号を取り出す機能が必要です。加えて、光ファイバーを経由したランダムな偏波状態の光信号でも安定して受信できる「偏波無依存受信動作」が求められます。これらの機能は多くの光学部品や受光素子を個別に組み合わせて構成することが必要なため、これまではスモールセル基地局に内蔵できる小さな光受信モジュールを作ることは困難でした。

今回開発した光受信チップは、新たに開発した偏波分離回転素子※9や光波長フィルター※10としてのアレイ導波路型回折格子(AWG)※11、ゲルマニウムフォトダイオード※12アレイなどの光素子で構成されています。シリコンフォトニクスの技術を用いて、これらの光素子をチップ上に集積し、さらに光導波路※13で接続することによって、5mm角以下という超小型化に成功しました。

また、偏波無依存受信動作を実現するために、波長多重化された光信号を2つの偏波成分に分離したのち4つの波長成分に分離し、波長ごとに偏波成分を合波する光回路を開発しました。

このチップを光ファイバーコネクター付きプロトタイプモジュールに実装して、ランダムな偏波状態の10Gbpsの光信号を、1本の光ファイバーを経由して4つの異なる波長に切り替えて入力することにより、合計40Gbpsの偏波無依存受信が可能であることを実証しました。

同じ機能を持つ光受信モジュールを従来のように個別部品を組み合わせて構成すると数cm角のサイズになりますが、このチップを用いることにより、光受信モジュールの体積を従来比1/100以下に縮小することが可能になります。

3.今後の予定

今後は、今回開発した光受信チップをさらに高感度化※14するとともに、光送信機能も集積することにより、5Gネットワークのスモールセル基地局装置に内蔵できる超小型で超低消費電力の光トランシーバーの開発に取り組みます。

また、波長多重光受信チップが小型である特長を活かし、光学分析などの微小センサーへの応用展開も進めていきます。

【注釈】
※1 ミリ波
波長1mm~10mmの電波で、周波数で表すと30~300GHzに相当。5Gでは超高速通信を行うために、4Gで使用されている電波より周波数が高いミリ波近傍の28GHz帯などの電波が使用されます。
※2 光アクセスネットワーク
光通信ネットワークにおいて、加入者と通信事業者の収容局を結ぶネットワーク。
※3 パッシブ光ネットワーク(PON)
光アクセスネットワークにおいて、収容局と加入者を結ぶ光ファイバーを分岐して、時間多重により収容局と加入者を1対多数で結ぶネットワーク構成。収容局側設備と光ファイバー線路を複数の加入者で共用するため、ネットワークの設備コストを低く抑えることができます。
※4 光トランシーバー
電気信号と光信号を相互に変換する装置。
※5 シリコンフォトニクス技術
従来の光素子は、ヒ化ガリウム、リン化インジウムなどの化合物半導体、または石英などの誘電体を材料とすることが一般的でしたが、シリコンを材料とすることにより、光素子の小型化、光素子とシリコンLSIの集積化、生産性の向上などが期待されています。
※6 プロジェクト
事業名:超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発
事業期間:2013年度~2021年度
※7 TWDM-PON
次世代の光アクセスネットワークに導入が期待されるPON方式の一種。4波長を多重して、1波長あたり10Gbpsで、トータル40Gbpsの通信を行います。
※8 偏波
電磁波における電磁界の振動状態を表します。光は電磁波であり、電磁界の振動方向が互いに直交する2つの偏波成分に分けて考えることができます。
※9 偏波分離回転素子
任意の偏波状態の光から、互いに直交する偏波成分を分離してさらに偏波方向を回転させる素子。ここで用いている偏波分離回転素子は、分離した2つの偏波成分の一方の偏波を90°回転させる機能を持ちます。
※10 光波長フィルター
波長多重された光信号から特定の波長帯の光信号を取り出す機能を備える光素子。
※11 アレイ導波路型回折格子(AWG)
光波長フィルターの一種。光の干渉現象により動作します。
※12 フォトダイオード
光の検出器として動作する半導体素子。光信号を電気信号に変換できます。
※13 光導波路
所望の経路に沿って光を伝搬させるための光の通り道。
※14 高感度化
2019年3月4日のニュースリリース「 小型に集積可能なフォトダイオードで受光感度21.8A/Wを達成 」参照。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO IoT推進部 担当:栗原、豊田

PETRA 光エレクトロ二クス実装研究推進部 担当:中田

OKI 経営企画本部 広報部 岡

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:佐藤、坂本、中里

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