蛍光色素付き発光基質による多色発光基盤技術の開発

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人工発光による医療・環境診断への利用に期待

2018/05/17 産業技術総合研究所 慶應義塾大学

ポイント

  • 前例の少ない蛍光色素付き発光基質を多種合成し、選択的な発光反応により多彩な発光色を実現
  • 新たな発光基質の合成中間体により、世界最高水準の輝度を示す緑色発光を実現
  • 高感度診断薬の開発、癌の早期診断、各種バイオアッセイ、生体イメージングなどへの利用を期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)環境管理研究部門【研究部門長 田中 幹也】環境微生物研究グループ 金 誠培 主任研究員と慶應義塾大学【塾長 長谷山 彰】理工学部応用化学科 鈴木 孝治 名誉教授、チッテリオ ダニエル 教授、大学院理工学研究科博士課程 西原 諒(2017年9月修了)は、共同で蛍光色素付き発光基質類を開発し、生物発光の多色化を実現した。天然の生物発光基質(セレンテラジン、nCZT)にさまざまな蛍光色素を導入して一連の蛍光色素付き発光基質をシステム的に開発した。これらを産総研独自の人工生物発光酵素群(ALuc®;産総研商標)やウミシイタケ生物発光酵素(RLuc)と反応させて、青色から赤色まで多彩な発光色を得た。この色の変化は、発光基質のエネルギーが蛍光色素に移動する現象(化学発光/生物発光共鳴エネルギー移動現象(CRET/BRET))によるものである。開発した発光基質の一部は、発光酵素と選択的に発光するので、複雑な化学物質が共存する系でも特定の発光酵素だけを発光させることができる。また、蛍光色素導入の合成中間体であるアジド基付き発光基質は、極めて高輝度の緑色発光を酵素選択的に放つことも見出した。これらの成果は、高感度診断試薬の開発、癌の早期診断、各種バイオアッセイ、生体イメージングなどに広く利用できると期待される。

この研究成果は、アメリカ化学会の学術誌Bioconjugate Chemistryに2018年5月16日版(米国東部夏時間)でオンライン掲載される。

概要図

蛍光色素付きの発光基質を用いた酵素選択性・多色発光性を示す生物発光システム

開発の社会的背景

生物発光とは、ホタルやウミシイタケ(海洋性生物)などの生体内の生物発光酵素(光を放つ化学反応を触媒する生物由来の酵素)が、生物発光基質と特異的な触媒反応をし、基質が貯めている化学エネルギーを光として放つ現象である。生物発光は、一般に生体に無害であり、複雑な検出器が必要でないので、さまざまなバイオアッセイでの発光標識として用いられている。

生物発光は蛍光に比べてバックグランド信号が低く、高感度な発光標識であるが、発光そのものは弱く、発光色も限られている。これらを克服した発光技術ができれば、より高性能なバイオアッセイ系の開発にも繋がり、基礎医学から産業応用まで波及効果が大きい。

研究の経緯

慶應義塾大学は、多様な化学構造の発光基質を世界に先駆けて開発してきた。また、産総研は人工生物発光酵素(ALuc®)群に関する独自の研究分野を開拓してきた。生物発光は、「発光基質」と「発光酵素」間の触媒反応により生じるので、慶應義塾大学の発光基質技術と産総研の発光酵素技術を組み合わせて、新たな生物発光技術を開発することとした

なお、この開発は、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究A(平成29年度~32年度)、基盤研究B(平成28年度~29年度)、挑戦的萌芽研究(平成28年度~29年度)による支援を受けて行った。

研究の内容

今回、結晶構造が既知のウミシイタケ発光酵素(RLuc)と産総研独自の人工生物発光酵素(ALuc®)の酵素活性部位に結合できる天然の発光基質であるセレンテラジン(CTZ)の構造の計算科学シミュレーションを行った(図1)。その結果、発光酵素ALuc®に対しては発光基質のC-2位、発光酵素RLucに対してはC-6位を化学修飾すると、基質と酵素との結合に大きく影響する、との予想が得られた。

図1

図1 生物発光酵素の典型的な基質―発光酵素結合モデル

そこで、発光基質のC-6位やC-2位にアジド基(N3)を導入し、さらにアジド基の反応性を利用してフルオレセイン(FITC)、ナイルレッド(Nile-R)、フルオレセインスクシンイミジルエステル(SFX)、2,6-ジメトキシ-1,3,5トリアジン(DMT)、クロリン(Chlorin)などの小さな蛍光色素分子を導入し、一連の新たな蛍光色素付き発光基質を合成した(図2、図3、図4、図中、nCZTは天然のセレンテラジンを示し、略称の数字は蛍光色素やアジド基を導入した炭素位置を示す)。なお、蛍光色素を発光基質に導入した事例は、今までに1つの基質のみを作った1例だけであった(Chem. Asian J. 2011, 6, 1800)。

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