自然エネルギー自給率95%により地域社会の経済循環率が7.7倍向上することを実証

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宮崎県高原町での実験に基づき地域持続性の効果を検証

2019-04-05  京都大学

概要

広井良典 こころの未来研究センター教授は、日立京大ラボ(日立未来課題探索共同研究部門)と、都市一極集中よりも地方分散が日本の持続可能性にとって望ましいことを踏まえ、地域での自然エネルギー自給や地産地消サプライチェーンによる経済循環とコミュニティの活性化を目指す自立的地域社会の研究を進めています。

その手始めとして、宮崎県西諸県郡高原町における実測データに基づいて、地域社会の持続可能性にとって重要な域内自然エネルギー自給率と地域経済循環率を評価しました。その結果、既成の電力供給に比べ、自然エネルギーによる電力自給率が95%の場合、地域社会の経済循環率が7.7倍向上することが明らかになりました。

本研究成果は、2019年4月20日に応用哲学会第11回年次大会で発表されます。

自然エネルギー自給率95%により地域社会の経済循環率が7.7倍向上することを実証

図:域内経済循環率の向上

詳しい研究内容について

自然エネルギー自給率 95%により 地域社会の経済循環率が 7.7 倍向上することを実証 ―宮崎県高原町での実験に基づき地域持続性の効果を検証―

概要
京都大学こころの未来研究センター 広井良典 教授は、京都大学と日立製作所が設立した日立京大ラボ( 日立未来課題探索共同研究部門)*1と、都市一極集中よりも地方分散が日本の持続可能性にとって望ましいこと を踏まえ*2、地域での自然エネルギー自給や地産地消サプライチェーンによる経済循環とコミュニティの活性 化を目指す自立的地域社会 (図1参照)*3の研究を進めています。その手始めとして、宮崎県西諸県郡高原町 における実測データに基づいて、地域社会の持続可能性にとって重要な域内自然エネルギー自給率と地域経済 循環率を評価いたしました。結果、既成の電力供給に比べ、自然エネルギーによる電力自給率が 95%の場合、 地域社会の経済循環率が 7.7 倍向上することが明らかになりました。
本研究成果は、2019 年 4 月 20 日に応用哲学会第 11 回年次大会で発表されます。


図 1 自然エネルギーコ ミュニティ 域内自然 エネルギーを利用した 分散型自立した地域社会

図 2 域内経済循環率の 向上

1.背景
人口減少や少子高齢化という課題に向き合い、持続可能な日本社会を目指すためには、地域内のエネルギー自給率、雇用率、税収などについて経済循環を高める政策を継続的に実行しなければなりません*2。著名な漏れバケツ理論によると、地域経済の大きな漏れ穴(資金の域外への流出)はエネルギーによるとされており、まず域外に流出する資本を食い止め、域内に還流させることが必要になります。それによって、地域財政を健全化させ、域内に再投資を促し、人モノ・モネネの流れ、すなわち経済資本と人的資本の持続的な再生産が可能になります。

2.研究手法・成果
そこで、自然エネルギーによる地域経済循環の効果を検証するため、宮崎県高原町における域内自然エネル ギーによる電力供給量と住民の電力需要量の実測データに基づいて、域内自然エネルギー自給率(既成電力利用率)に対するエネルギーコストと地域経済循環率のシミュレーションを行いました。
具体的に、高原町における実験では、電力需要側として、特性が異なる 10 世帯に消費電力センサを取り付 け、年間を通じた 1 時間毎の需要量の推移を求めました。また、電力供給側としては、町内の 10 個所へ日射 センサと水位 モ水流センサを置くことにより、太陽光発電と小水力発電の年間を通じた 1 時間毎の供給ポテン シャルの推移を求めました。そして、1008 通りの発電機の組み合わせ( 太陽光発電機、小水力発電機の電力 供給能力および蓄電池容量の組み合わせ)のそれそれで、年間を通じた 1 時間毎の電力需要量の推移を(1)全 て既成電力で賄う場合、(2)各世帯の電力料金が最小になるように既成電力と自然エネルギーを使い分ける場 合、(3)自然エネルギーを最大限利用して不足分を既成電力で賄う場合、(4) 全て自然エネルギーで賄う場合、 4 つのケースについて域内自然エネルギーによる電力自給率(S)、エネルギーコスト(EC)、地域経済循環率 R) *4 と地域経済循環量 CA)を比較しました。その結果、S1=0%、S2=60%、S3=95%、S4=100%、EC1=1、 EC2=0.9、ECA3=0.94、EC4=1.3、R1=1.8%、R2=5.4%、R3=14.0%、R4=16%、CA1=1、CA2=2.7、CA3=7.3、 CA4=11.4 となることが分かりました( 図 2 参照)。
これらの結果から分かった新たな知見を以下に示します。

(a)エネルギーコストを最小化すると 図 2 の(2))、域外の既成電力の利用が多くなるため
地域経済循環 率があまり上がらず、持続可能性が保たれない。
(b)自然エネルギー自給率 100%では 図 2 の(4))、現在と比較してエネルギーコストが
1.3 倍高価とな るため家計への負担が大きく、住民に受容されない可能性がある。
(c)自然エネルギー自給率 95%(図 2 の(3))では、自然エネルギーを最大限利用しつつも
エネルギーコス トを現在並みに抑え、地域経済循環率を 7.7 倍 14%)に向上でき
る。これが地域への新たな再投資 を生むため、持続可能性の大きな向上が見込める。

3.波及効果、今後の予定
これらの実験を通じて、地域経済循環率を高めるには、自然エネルギーの利用割合を高める必要があり、そ のためには各世帯への電力供給を自律的に最適化する協調システム技術*5と、各世帯の協力的な節電行動の促 進が重要であることも分かってきました。前者は、集中管理的なシステムではなく、各世帯の自由な参加と退 出を可能にする自律分散システムです。後者は、節電を強制するのではなく、各世帯の多様性を認識しつつ節 電を促す社会心理学的インターフェース技術であり、これを世帯間に介在させることで地域の社会関係資本を 向上させる補足効果も期待できます。
今後、自立的地域社会に向けて、高原町において実際の発電実験を取り入れた実証を進めるとともに、他の 地域も含めて自然エネルギー、地産地消、域内交通などの組み合わせによる地域特性に応じたビジネスノデル と社会実装の検討を進めていきます。

<注>
*1 ニュースリリース「 京都大学と日立が 日立京大ラボ」を開設し、 「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学 理の探究」を推進」、 2016 年 6 月 23 日 http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2016/06/0623.html

*2 ニュースリリース「 AI の活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言」、2017 年 9 月 5 日 http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/1709hiroi_hitachi/ 20170905 京大_日立ニュースリリース.pdf http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/09/0905.html

*3 鎮守の森 モ自然エネルギーコミュニティ構想: 伝統文化に関わるものを自然エネルギーと結びつけ、地方 創生や地域再生などに役立てる構想。

*4 世帯の全エネルギーコスト (EC)は、電気料金( EL)、ガス料金(LG)、ガソリン料金(OG)の総和、 EC=EL+LG+OG、となる。地域経済循環量(CA)は、EC の地域内への循環量で、地域経済循環率 (R)は、R= C/EC となる。地域経済循環量( CA)は、世帯での電気料金、ガス料金およびガソリン料金のそれぞれで、域 内へ循環する量の総和( CA=ELlocal+LGlocal+OGlocal)となる。また、自然エネルギーによる電力自給 率(S)が増加すると、電気料金の域内への循環量 (ELlocal)のみが増加し、地域経済循環率 R)と地域経済循 環量 CA)が増加する。

*5 ニュースリリース 「システム同士をリアルタイムに協調させることで全体最適を実現する自律分散制御技 術を開発」、2017 年 3 月 7 日 http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/03/0307.html

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