機械学習を用いて熱電材料の大幅な出力向上に成功

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従来の実験では探索範囲外の組成で実現 汎用元素による熱電材料の実用化加速に期待

2019-03-19 物質・材料研究機構,東京大学 大学院新領域創製科学研究科,科学技術振興機構

NIMSと東京大学の共同研究グループは、機械学習を用いて、アルミニウム、鉄、シリコンという汎用元素のみでできた熱電材料注1)の発電特性を大幅に向上させることに成功しました。従来の実験では探索範囲外であった最適な組成(元素の混合比)注2)を機械学習で発見し、その組成に従って合成したところ、同じ元素でできた従来材料に比べ40%もの出力性能の向上に至りました。今後、機械学習を用いることによって、汎用元素を使った熱電材料の実用化に向けた研究開発が飛躍的に加速することが期待されます。

モノ同士がインターネットでつながる社会(IoT社会)を支える膨大なセンサーやウエアラブルデバイス用の小型自立電源として、熱を電気に直接変換できる熱電材料が注目されています。わずかな温度差でも発電できること、小型化が可能であること、メンテナンスフリーであることなどの優れた特徴を有しています。一方で、資源量の少ない元素や毒性のある元素が使われていたり、使用できる温度域が狭く環境ごとに材料を変えなければいけなかったりなどの課題がありました。NIMSでは、熱電材料の本格的な普及を目指し、無害かつ資源的制約の少ない元素を用いた材料研究開発に注力しており、室温から200℃までの温度域で使用できるアルミニウム、鉄、シリコンのみからなる新材料開発に近年成功していました(特許出願済)。

今回さらに、機械学習(ベイズ最適化)注3)と実験を組み合わせることにより、NIMSが開発したアルミニウム-鉄-シリコン系新規熱電材料注4)において、400℃までのより広い温度域での利用を可能とする新たな組成を発見しました。数限られた実験データ(組成、出力性能、温度)を学習させた結果、これまでの実験では探索範囲外であった組成が中温域(200℃~400℃)での出力特性を向上させるという結果が導かれました。実際に、予測された組成で材料を合成したところ、従来と比較して40%も出力性能を向上させることに成功しました。また、その前後の組成では出力性能が減少したことから、最適な組成を発見したことになります。

本成果により、熱電材料の開発における機械学習の有用性が明らかになったことで、今後は実験のみでは探索が困難な、より複雑な組成を有する新規材料の発見にも期待がもたれます。これにより、さまざまなセンサーの自立電源としての応用が有力視されている熱電発電が、IoT社会を支える技術としてさらに発展すると期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会が刊行する「ACS Applied Materials & Interfaces」誌オンライン版にて、2019年3月18日午前11時(米国東部時間)に掲載されます。

本研究は、物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 伝熱制御・熱電材料グループの高際 良樹 主任研究員、同拠点 データプラットフォームのZhufeng Hou 特別研究員、同拠点・グループおよびエネルギー・環境材料研究拠点 熱電材料グループの篠原 嘉一 グループリーダー、同拠点 データプラットフォームの徐 一斌 プラットフォーム長、東京大学 大学院新領域創成科学研究科の津田 宏治 教授の研究グループによって、物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点における科学技術振興機構(JST)のイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MII)」の一環として行なわれたものです。

<研究の背景>

近年、モノ同士がインターネットでつながる社会(IoT社会)を支える分散型自立電源として、わずかな温度差でも発電が可能な熱電材料を用いた発電デバイスの研究開発が活発化しています。熱電材料のエネルギー変換効率はほかの発電技術と比較して決して高い水準ではありませんが、ありとあらゆる温度差環境を積極的に活用することにより、無駄の少ないエネルギーの利用方法を確立することにつながります。個々のデバイスによる省エネルギー効果や二酸化炭素削減効果はわずかではあるものの、本格的な普及に至ることができれば、それらの削減効果は大きくなります。これまでは、材料の抱える課題としてコストが高いこと、材料自身の持つ使用温度域の制約、化学的・熱的安定性の向上、機械的特性の向上などが挙げられ、従来型の材料研究だけでは大規模な社会実装に至っていなかったのが現状です。

<研究内容と成果>

ターゲットとなる汎用元素(アルミニウム、鉄、シリコン)のみから構成される新規材料は、NIMSにて現在精力的に研究開発が進められており、組成制御のみでp型とn型特性を作り分けることができる革新性を有しています。また、高い化学的安定性・耐酸化性や優れた機械特性を両立しており、これまで課題であった材料の問題を解決する材料であるといえます。今回新たに、機械学習(ベイズ最適化)を用いて、本格的な普及に資する環境調和性に優れるアルミニウム-鉄-シリコン系新規熱電材料の出力性能を大幅に向上させることに世界で初めて成功しました。最適組成を機械学習で発見し、40%もの出力性能の向上に至りました(図1)。

特筆すべきは、本来、実験では探索外であった組成を機械学習が予測したことで、性能向上化への新たな道筋を見いだした点にあります。アルミニウム-鉄-シリコン系新規熱電材料は、広い組成領域を有しており、特に、アルミニウムとシリコンが20原子%程度も置き換わることが可能です。この特徴により、p型とn型の制御が容易になりますが、今回見いだされた組成は、半導体的な特性を示す主相とは異なる金属的な特性を示す第二相がわずかに析出する組成領域でした。現状では、機械学習からはなぜ性能が上がるのかを理由づけることは困難ですが、今後の詳細な解析により、そのメカニズムを解明することができれば、一層の性能向上に資する指針を示すことが可能になります。

<今後の展開>

本研究成果は、室温から400℃までの非常に広範な温度域で使用可能な新組成を見いだしたことに成功し、機械学習を用いた材料研究開発の有用性を明らかにしました。今後は、実験のみでは探索が困難な、より複雑な組成を有する新規材料の探索・発見にも期待がもたれます。また、さまざまなセンサーの自立電源としての応用が有力視されており、IoT社会を支える技術としての発展が期待されます。

<参考図>

機械学習を用いて熱電材料の大幅な出力向上に成功

図1

(左)機械学習を取り入れた材料研究開発の流れ、(右)機械学習を取り入れることにより中温域での出力因子を40%程度向上させることに成功。

図2

図2 熱電発電デバイスの模式図

p型およびn型熱電材料(直列接続)、電極、受熱および放熱板(典型的にはセラミックス基板を使用)から構成される熱電発電デバイス。

<用語解説>
注1)熱電材料
熱電材料は、ゼーベック効果を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することができる材料です。温度差を駆動力として発電する熱電発電デバイスは、p型とn型の異なる特性を持った熱電材料を直列に接続させます。熱電材料に求められる条件は、単位温度差あたりの熱起電力が大きく、熱伝導率および電気抵抗率が小さいことが必要です(図2)。
注2)組成(単位:原子%)
材料を構成する各元素の割合を表すものです。例えば、本研究の場合、Al23.5Fe36.5Si40[原子100個の内、アルミニウム(Al)が23.5個、鉄(Fe)が36.5個、シリコン(Si)が40個含まれる割合]を出発組成として、AlとSiの割合の変化をAl23.5+xFe36.5Si40-x(0~x~2.2)として表しています。
注3)機械学習(ベイズ最適化)
ベイズ確率の考え方を用いた推論に基づき、未知の関数を最適化する手法です。
注4)アルミニウム-鉄-シリコン系新規熱電材料
従来材料の多くは、p型とn型の特性を制御するために、構成元素とは異なる元素を添加する必要がありました。アルミニウム-鉄-シリコン系新規熱電材料は、他元素添加なしで構成元素の割合を変えるだけで特性制御ができ、合成プロセスが簡略化されることから、一層のコスト低減につながることが期待されます。
<論文情報>

タイトル:“Machine-Learning-Assisted Development and Theoretical Consideration for the Al2Fe3Si3 Thermoelectric Material”

著者名:Zhufeng Hou, Yoshiki Takagiwa, Yoshikazu Shinohara, Yibin Xu, and Koji Tsuda,These authors contributed equally to this work.

<お問い合わせ先>
<研究内容に関すること>

高際 良樹(タカギワ ヨシキ)
物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 伝熱制御・熱電材料グループ
エネルギー環境材料研究拠点 熱電材料グループ 主任研究員

津田 宏治(ツダ コウジ)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 教授

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 イノベーション拠点推進部 COIグループ

<報道担当>

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室

科学技術振興機構 広報課

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