高入出力特性と高エネルギー密度を両立した蓄電デバイスを実用化

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ナノ結晶化チタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシターを開発

(産学共同実用化開発事業(NexTEP)の成果)

2019-03-05  科学技術振興機構

ポイント
  • 車両などの減速エネルギー回生システムに用いられる電気二重層キャパシターは、大電流での入出力は可能だが、体積あたりのエネルギー密度が低いことが問題だった。
  • 負極にナノ結晶化チタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシターを開発し、エネルギー密度の大幅な向上に成功した。
  • 本開発によるハイブリッドキャパシターを車両などの減速エネルギー回生システムに組み込むことにより、燃費・電費改善が期待される。

JST(理事長 濵口 道成)は、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「ナノ結晶化チタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシタ」の開発結果を成功と認定しました。

この開発課題は、東京農工大学 大学院工学研究院 応用化学部門 直井 勝彦 教授らの研究成果を基に、平成25年8月から平成30年7月にかけて日本ケミコン株式会社(代表取締役社長 内山 郁夫、本社住所 東京都品川区大崎5丁目6番4号、資本金215億2600万円)に委託して、同社にて企業化開発を進めていたものです。

車両などの減速エネルギー回生システム注1)に用いられる蓄電デバイスには二次電池(充電式の電池)や電気二重層キャパシター注2)があります。二次電池は体積あたりのエネルギー密度が高いものの、蓄電メカニズムに化学反応を利用するため高入出力特性を実現することが不可能であり、現行の液型リチウムイオン電池では発火事故のリスクを完全には払拭できません。一方で、活性炭を用いる電気二重層キャパシター(EDLC)は優れた入出力特性を持ち、効率的にエネルギー回生を行えるものの体積あたりのエネルギー密度が低いという問題がありました。

本開発では、負極にキャパシター向けに調整したチタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシター注3)を開発し、電気二重層キャパシターに対して大幅なエネルギー密度の向上を実現するとともに、薄膜塗工電極などの技術によりキャパシターセルの内部抵抗を低減することに成功しました。これにより安定した充放電サイクル特性を持ち、減速エネルギー回生システムに適した蓄電デバイスを実用化しました。

本開発成果は、減速エネルギー回生システムの用途だけでなく、高い入出力特性やサイクル安定性を生かし、今後各種電装機器のピークアシストやバックアップ用自立電源などへの適用も期待されます。

産学共同実用化開発事業(NexTEP)は、大学等の研究成果に基づくシーズを用い、民間企業が単独で事業化することが困難な、開発リスクが高く規模の大きい開発を支援し、実用化を後押しする事業です。

詳細情報 https://www.jst.go.jp/jitsuyoka/

<背景>

年々要求が厳しくなる各国の二酸化炭素(CO)排出規制(燃費規制)に対応するために、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の普及が進んでいますが、現在の主動力源であるエンジン車でもCO排出量の低減が求められています。走行による運動エネルギーを減速時に電気として回収する減速エネルギー回生システムは、動力源が変わっても低燃費(低電費)を達成するためには必須の技術であり、回生システムに適した蓄電デバイスが求められています。

エネルギー回生システム用の蓄電デバイスには二次電池や電気二重層キャパシターがあげられます。二次電池は体積あたりのエネルギー密度が高いものの、蓄電メカニズムに化学反応を用いるため、高入出力特性を実現することが不可能であり、現行の液型リチウムイオン電池は発火事故のリスクを完全には払拭できません。一方で、活性炭を用いる電気二重層キャパシターは、優れた入出力特性を有し効率的に減速エネルギー回生が行えますが、体積あたりのエネルギー密度が低いためにユニットサイズを大きくせざるを得ない点が課題になっています。このように、既存の蓄電デバイスにはそれぞれ克服すべき課題があり、減速エネルギー回生システムに適した安全性の高い蓄電デバイスの開発が望まれていました。

<開発内容>

本開発では、正極に活性炭、負極にキャパシター用に調整したチタン酸リチウム(LTO)を用いることで、高入出力特性、破壊試験で発火が生じない安全性を持つといった電気二重層キャパシターの優れた特徴を継承しつつ、体積あたりのエネルギー密度を向上させたハイブリッドキャパシターを開発しました。

負極に用いるチタン酸リチウムは、導電率およびリチウムイオンの拡散定数が小さいため、高入出力特性に対応するよう1次粒子径が数十ナノメートル(nm)サイズの微細な結晶とするとともに、結晶端部に高電導性のマグネリ相酸化チタンを形成して導電性の改善を図りました。

具体的な開発内容は以下の通りです。

1.負極用ナノ結晶化チタン酸リチウム(LTO)の合成技術

今回開発したキャパシター用チタン酸リチウムは、1次粒子サイズが数十nmオーダーの微細構造であり、結晶端部に高導電性のマグネリ相酸化チタン(Ti)を有した複合材料です(図1)。

このナノ結晶化チタン酸リチウムは、Cレート特性注4)評価において、高レート側でも高い実容量を持っており、材料レベルで高い入出力特性を持っています(図2)。

2.ハイブリッドキャパシターとしての特性

調整したナノ結晶化チタン酸リチウムを用いたハイブリッドキャパシターの巻回セル注5)にて、高容量・低抵抗を実現しました。体積あたりのエネルギー密度は、自社従来品の電気二重層キャパシターに対して191%に相当します(図3)。

また、充放電によるセルの容量劣化は、10万サイクルで10%以内であり、長期にわたり安定した特性を維持することを確認しました(図4)。

<期待される効果>

本開発により減速エネルギー回生ユニットの大容量化がなされ、アイドリングストップ時間の延長やオルタネーターでの発電が減ることによるエンジンへの負荷の低減が実現できます。その効果として、燃費改善やCOの排出抑制に寄与することが期待されます。さらに、車載油圧機器の電動化、先進運転支援システム(ADAS)などの新たな電装機器のピークアシスト・バックアップ用自立電源としての活用も期待されます。

<参考図>

図1 ナノ結晶化チタン酸リチウム材料のTEM写真

図1 ナノ結晶化チタン酸リチウム材料のTEM写真

黄色い矢印で示した結晶端部にバルク部分と異なる高電導性のマグネリ相酸化チタン(Ti)が形成されている。

図2 ナノ結晶化チタン酸リチウム材料のCレート特性

図2 ナノ結晶化チタン酸リチウム材料のCレート特性

チタン酸リチウムを薄膜塗工し微小キャパシターを組み立て、各放電スピードでの電気容量を測定。抵抗成分が高いと高レート側での実容量が低くなるが、材料での低抵抗化をはかり高いレベルで容量を維持している。EDLCで用いられる活性炭に対して大幅に高容量の材料である。

図3 実証用巻回構造セルでの初期特性

図3 実証用巻回構造セルでの初期特性

巻回セルでの容量、内部抵抗(DCIR)特性。大容量、低抵抗を実現し、体積エネルギー密度は自社従来品比191%に相当。

図4 実証用巻回構造セルでのサイクル特性

図4 実証用巻回構造セルでのサイクル特性

巻回セルで充放電による容量劣化を測定。10万回後でも安定した容量を維持している。

<用語解説>
注1)減速エネルギー回生システム
走行中の車両が減速時に捨てていた運動エネルギーを電気として回収し、再利用できるように蓄電するシステム。蓄えられた電気はエアコン、カーナビゲーションシステムなどの電装品の電力として使用する。アイドリングストップ時間の延長のほか、オルタネーターの発電停止によるエンジン負荷の軽減により、燃費向上やCO排出低減に寄与する。
注2)電気二重層キャパシター(EDLC)
電極と電解液の界面に形成される電気二重層を利用したキャパシター。電極に表面積が大きい活性炭を用いることで大容量を実現している。二次電池に比べて高出力、長寿命であるが、電極内部を使用しないため体積あたりのエネルギー密度が低い弱点がある。
注3)ハイブリッドキャパシター
電極のいずれか1つに電気二重層を利用し、もう一方の電極に酸化還元反応を利用した蓄電デバイス。電気二重層キャパシターの高出力、長寿命といった利点を継承しつつ、体積あたりのエネルギー密度を高めている。
注4)Cレート特性
蓄電デバイスを定電流放電させたとき、60分で放電終了となる電流値で放電したときを1Cとして、各放電速度(時間)での容量特性をまとめたもの。
注5)巻回セル
電気二重層キャパシターのセル構造の1つ。巻回セルは電極とセパレーターを重ね合わせて巻き芯軸で巻き取った円筒形の構造のこと。
<お問い合わせ先>
<開発内容に関すること>

杉山 浩規(スギヤマ ヒロキ)
日本ケミコン株式会社 基礎研究センター ナノハイブリッドグループ

<JST事業に関すること>

大竹 利也(オオタケ トシヤ)
科学技術振興機構 産学共同開発部

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