種なしカンキツの育種を加速する技術を開発

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カンキツ果実の種子数を決める花粉量と花粉の受精能力を判別できるDNAマーカー

2019-03-04  農研機構

ポイント

カンキツの花粉量と花粉の受精能力1)を判別できるDNAマーカー2)を開発しました。このDNAマーカーを育種に利用すれば、芽生えの段階で花粉量が少なく花粉の受精能力が低い個体を選抜できるため、種なしカンキツ品種の育成を効率化することができます。

概要

カンキツの新品種育成には、長い年月と多くの個体を植え付ける広いほ場が必要となります。そのため、芽生えの段階で優れた特性を持つ個体を確実に選抜できるDNAマーカーの開発が求められています。また、消費者からはおいしいという特性だけでなく、果実の種子が少なく食べやすい特性も求められています。
そこで農研機構は、カンキツ果実の種子数を決める特性の一つである「花粉量」と「花粉の受精能力」を判別できるDNAマーカーを開発しました。
まず、カンキツにおいて、花粉量と花粉の受精能力を制御する染色体上の場所をそれぞれ特定しました。次に、これらの場所におけるDNA配列の違いに基づき、葯3)1つあたりの花粉量の多少と、花粉の受精能力の高低をそれぞれ判別できるDNAマーカーを開発しました。これらのDNAマーカーを用いれば、芽生えの段階で、花粉量が少なく、花粉の受精能力が低い個体を選抜することができます。(ただし、これらのDNA マーカーで選抜の対象となる個体は紀州ミカン4)に由来する細胞質5)を持っている必要があります。)
本マーカーを利用すれば、種なし、あるいは種が少ない個体を高い確率でほ場に植え付けられるため、このような特性をもつ優良なカンキツ品種を効率的に育成することが可能となります。

関連情報

予算:運営費交付金

問い合わせ先など

研究推進責任者 : 農研機構 果樹茶業研究部門 研究部門長 樫村 芳記
研究担当者 : 同 カンキツ研究領域 カンキツゲノムユニット 後藤 新悟

広報担当者 : 同 企画管理部 企画連携室 広報プランナー 和田 雅人

詳細情報

開発研究の背景と経緯

果樹の育種では、交配によって得られた多数の個体をほ場で栽培し、糖度や種子数など様々な特性を評価することで、目的とする特性を持った個体を選抜します。最終的に品種となる個体はおおむね5,000個に1個程度しか得られないため、優れた品種を育成するには、選抜の元となる集団のサイズをなるべく大きくすることが重要となります。しかし、カンキツをはじめとする果樹は植物体自体が大きいため、ほ場に植え付けられる個体数には限りがある上に、果実がなりはじめるまでには長い時間がかかるため、選抜の対象とする個体数を制限せざるを得ません。これに対し、DNAマーカーにより芽生えの段階で果実の特性を評価できれば、選抜の対象とする個体数を拡大することができます。
温州ミカンは出荷量の約7割を占めるカンキツ品種であり、消費者からも好評を得ています。その理由の一つは果実に種が入りにくいことによる食べやすさにあります。そこで、農研機構では、カンキツ果実の食べやすさを左右する重要な特性である種子の数に注目し、果実に入る種子の数を決める特性である「葯1つあたりの花粉量」と「花粉の受精能力」を効率的に判別するためのDNAマーカーを開発しました。

研究の内容・意義
  • 「カンキツ興津46号」6)と「カンキツ興津56号」6)を交雑して得られた57個の個体について、3年間にわたり、葯1つあたりの花粉量と花粉の受精能力の調査と遺伝解析7)を行いました。その結果、第8染色体に葯1つあたりの花粉量の多少を決定する場所(MS-P1)が、第6染色体に花粉の受精能力の高低を決定する場所(MS-F1)が見つかりました(図1)。MS-P1についてはTSRF161とGSR5112を、MS-F1についてはNSX156とSSR08B32を、それぞれの場所を持つ個体を選抜するためのDNAマーカーとして選定しました(図1)。
  • 遺伝解析に用いた「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」を交雑して得られた個体集団において、MS-P1を持つ個体は葯1つあたりの花粉量が少ない性質を示しました(図2A)。MS-P1は「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」とを交雑して得られた個体集団において同定したものです。そこで、MS-P1が他の個体集団でも利用できるか確認するため、「カンキツ興津46号」と「カラ」8)とを交雑して得られた個体集団を用いて検証しました。その結果、MS-P1を持つ個体は葯1つあたりの花粉量が少ない性質を示しました(図2B)。
  • 同様に「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」を交雑して得られた個体集団において、MS-F1を持つ個体は花粉の受精能力が低く(図3A)、「カンキツ興津46号」と「カラ」を交雑して得られた個体集団においても、MS-F1を持つ個体は花粉の受精能力が低い性質を示しました(図3B)。
  • また、代表的な品種・系統の葯1つあたりの花粉量について、細胞質の由来とMS-P1の有無の影響を調べたところ、葯1つあたりの花粉量が極めて少なくなるためには、MS-P1を持つだけでなく、紀州ミカン由来の細胞質も併せ持つことが必要であることが示唆されました(図4A)。同様の調査により、花粉の受精能力が低くなるためにもMS-F1を持つだけでなく、紀州ミカン由来の細胞質も併せ持つことが必要であることが示唆されました(図4B)。
  • このため、今回開発したマーカーを利用して、花粉量が少なく花粉の受精能力が低いカンキツ個体を選別するためには、紀州ミカン由来の細胞質をもつ個体集団を用いる必要があります。
今後の予定・期待

本研究で開発したDNAマーカーは、「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」、「カンキツ興津46号」と「カラ」の交雑集団以外においても、花粉量が少なく花粉稔性が低い個体の選抜に利用できることが期待されます。そこで、現在、様々な品種・系統を交雑して得られた個体集団を対象として、花粉量が少なく花粉の受精能力が低い個体の選抜の検証を進めています。

用語の解説
  • 花粉の受精能力
    花粉がめしべに付着後、花粉から花粉管が胚珠内部へ伸長し、花粉内の精細胞が胚珠内部の卵細胞と合体する能力。花粉稔性とも言います。花粉量が多くても、花粉の受精能力が低ければ雄性不稔性(父型の子孫を残せない性質)を示します。カンキツの場合、雄性不稔性の強弱は、第一に葯1つあたりの花粉量、次いで花粉の受精能力によって決まります。
  • DNAマーカー
    生物個体の遺伝的性質、もしくは系統(個人、親子・親族関係、血統あるいは品種など)を特定するための目印となる特有のDNA配列のことです。

  • おしべの先端にある花粉が収納されている袋状の器官。カンキツは通常、花1つあたり20~25個の葯があります。
  • 紀州ミカン
    中国から伝わったとされるカンキツで小みかんとも呼ばれています。明治中期以前はわが国の主要なカンキツでした。DNA鑑定の結果、温州ミカンの母親であることが推定されています。農研機構で育成された品種の多くはこの紀州ミカン由来の細胞質を持っています。
  • 細胞質
    細胞内の核をのぞいた部分の総称。細胞質は交配に用いた母親側に由来します。植物では、雄性不稔性と細胞質に存在するミトコンドリアとの関連が多く見出されます。
  • 「カンキツ興津46号」、「カンキツ興津56号」
    温州ミカンを祖先に持つ農研機構の育成系統。「カンキツ興津46号」は葯1つあたりの花粉量が非常に少なく、花粉の受精能力も50%程度であるのに対し、「カンキツ興津56号」は葯1つあたりの花粉量が比較的多く、花粉の受精能力は約90%。花粉量と花粉の受精能力の程度が異なる「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」を交雑することで、その子供達(個体集団)から様々な花粉量と花粉の受精能力をもつ個体が得られるため、それらを使った遺伝解析を行うことができます。
  • 遺伝解析
    交雑して得られた個体集団の染色体全体にDNAマーカーを配置し、親の染色体のどの部分をうけついでいるかをそれぞれの個体で明らかにする。この染色体のデータとそれぞれの個体において解析の対象となる性質データとを合わせて、統計解析によって対象性質と関係のある染色体の場所を推定する方法。
  • 「カラ」
    温州ミカンを母親に持つアメリカで育成された品種。葯1つあたりの花粉量が比較的多く、花粉の受精能力は約90%。
発表論文

Goto S., Yoshioka T., Ohta S., Kita M., Hamada H., Shimizu T. (2018) QTL mapping of male sterility and transmission pattern in progeny of Satsuma mandarin. PLoS ONE 13(7): e0200844

参考図

図1 葯1つあたりの花粉量を制御する染色体上の場所(MS-P1)と花粉の受精能力を制御する染色体上の場所(MS-F1)
葯1つあたりの花粉量を制御する場所(MS-P1)は第8染色体に、花粉の受精能力を制御する場所(MS-F1)は第6染色体に見つかりました。MS-P1についてはTSRF161とGSR5112、MS-F1についてはNSX156とSSR08B32を用いることで選抜することができます。図2 MS-P1と葯1つあたりの花粉量との関係
「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」の交雑集団においてTSRF161とGSR5112を用いて選抜したMS-P1を持つ個体は葯1つあたりの花粉量が少なく(A)、「カンキツ興津46号」と「カラ」の交雑集団においても同様の結果が示されました(B)。図3 MS-F1と花粉の受精能力との関係
「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」の交雑集団においてNSX156とSSR08B32を用いて選抜したMS-F1を持つ個体は花粉の受精能力が低く(A)、「興津46号」と「カラ」の交雑集団においても同様の結果が示されました(B)。図4 細胞質の由来が花粉量と花粉の受精能力へ与える影響
代表的な品種・系統の葯1つあたりの花粉量について、細胞質の由来とMS-P1の有無の影響について関係を調べたところ、葯1つあたりの花粉量が極めて少なくなるためにはMS-P1だけでなく、紀州ミカン由来細胞質も併せ持つ必要であることが示唆されます(A)。同様の調査により、花粉の受精能力が低くなるためにはMS-F1だけでなく紀州ミカン由来細胞質も併せ持つ必要があることが示唆されます(B)。

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