振動発電素子のエレクトレット外付けに成功

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無線IoT端末電源として性能向上に期待

2019-01-27  東京工業大学,科学技術振興機構

ポイント
  • エレクトレット型MEMS振動発電素子は従来、材料選択・設計・作製に制約があった。
  • MEMS可変容量素子とエレクトレット層を切り離した新原理の振動発電素子を開発し、開発の自由度が向上。
  • 環境からのエネルギーハーベスティング技術の性能向上を実現。

東京工業大学科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の山根大輔助教(兼 科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者)は、東京大学 先端科学技術研究センターの年吉洋教授、本間浩章 研究員と共同で、MEMS可変容量素子注1)とエレクトレット注2)層を物理的に切り離した 新原理の振動発電素子の開発に成功した。

個別に作製したMEMSとエレクトレットを電気配線で接続するだけで発電可能な新しい振動発電原理を実証した。これは、従来のエレクトレット振動発電における制約条件を打破する成果であり、今後、無線IoT注3)センサーなどへ向けたエネルギーハーベスティング技術注4)の性能向上につながると期待される。

従来のエレクトレット型MEMS振動発電素子は、MEMS可変容量素子内にエレクトレット層を形成したため、材料選択・設計・作製方法などに多くの制約があった。

研究成果は、2019年1月28日に韓国ソウルで開催される国際会議「MEMS 2019(The 32nd International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)」で発表される。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

(1)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域:微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出(CREST・さきがけ複合領域)(研究総括:谷口 研二 大阪大学 名誉教授)

研究課題名:多層エレクトレット集積型CMOS-MEMS振動発電素子の創製

研究代表者:山根 大輔(東京工業大学 助教)

研究期間:平成29年10月~平成33年3月

(2)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出(CREST・さきがけ複合領域)(研究総括:谷口 研二 大阪大学 名誉教授)

研究課題名:エレクトレットMEMS振動・トライボ発電

研究代表者:年吉 洋(東京大学 生産技術研究所 教授)

研究期間:平成27年12月~平成31年3月

科学技術振興機構(JST)はこの領域で、さまざまな環境に存在する熱、光、振動、電波、生体など未利用で微小なエネルギーを、センサーや情報処理デバイスなどでの利用を目的としたマイクロワット~ミリワット程度の電気エネルギーに変換(環境発電)する革新的な基盤技術の創出を目指しています。

上記研究課題(1)では、エレクトレット実装技術とCMOS-MEMS技術を融合し、環境振動エネルギーをミリワット級の電気エネルギーに変換する小型振動発電デバイスの実現を目指しています。本成果では、発電原理の提案、外付けエレクトレットの開発、発電素子の作製と評価を行いました。

上記研究課題(2)では、次世代の無線センサノードに必要な10ミリワット級の自立電源を実現するために、MEMS技術とイオン材料技術を駆使して、環境振動から未利用エネルギーを回収し発電する振動発電素子の研究に取り組んでいます。本成果では、研究課題(2)で開発したMEMS可変容量素子を用いています。

<研究成果>

これまでのエレクトレット型MEMS振動発電は、MEMS可変容量素子とエレクトレット層を同一素子内に組み込み、エレクトレットに空気を介して対向する電極に生じる誘導電荷注5)を利用していた(図1左)。そのため、エレクトレットとMEMSの設計において互いが干渉し、材料選択・設計・作製方法などに多くの制約があった。そこで山根助教らは個別に作製したMEMS可変容量素子とエレクトレット成膜基板を電気配線で接続するだけで発電可能な新しい振動発電原理(図1右、図2)を提案、実際の発電に成功した。

MEMS可変容量素子は外部振動による慣性力で可動電極が動く構造となっている。その結果、振動に応じてMEMS部の静電容量とエレクトレット層下部の静電容量のバランスが変化する。これにより、各静電容量に蓄積される電荷量が変化することから誘導電荷が生じ、その誘導電荷を外部負荷で取り出すことで、発電が可能となる。この原理を利用することで、任意のMEMS構造に任意のエレクトレット材料を組み合わせることができる。

今回の原理検証実験では、シリコンMEMS可変容量素子と、エレクトレット(CYTOP、AGC社)を成膜したシリコン基板を用意して、それらを電気配線で接続した。シリコンMEMS可変容量素子のみを振動させた場合は誘導電荷を生じないが、エレクトレット成膜基板に接続した場合は誘導電荷による発電を確認できた(図3)。

<背景>

MEMS技術を利用した小型の振動発電素子は、電池フリー、夜間・暗所でも発電可能であるため、小型IoT端末向けの次世代電源を目指した研究が活発に行われている。特にエレクトレット型MEMS振動発電素子は、他の方式より低周波数かつ出力電力密度が大きいため、環境振動を利用した発電に有利である。

今後、エレクトレット型MEMS振動発電素子を無線IoT端末などの電源に利用するためには、さらなる発電性能の向上が必要となる。従来の発電原理ではMEMS構造内にエレクトレット層を組み込むため、MEMSとエレクトレットの構造・材料を自由に選択できず、各要素の最適設計が困難だった。例えば、エレクトレットに電荷を帯電させる際、数百ボルト~千ボルト以上の高電圧を印加する。MEMS内部にエレクトレットを組み込んだ場合、素子製造の最終工程で高電圧印加を行うため、プルイン現象注6)などが引き起こす故障を防ぐために非常に強固なMEMS機械構造が必要であった。さらに、空気中にイオンを発生させてエレクトレットを帯電させる場合には、電極表面に遮蔽物がない設計も求められる。このため、MEMS構造の限界設計(MEMS機械性能を最大限に引き出す設計)には多くの制約があった。また、発電素子作製後に素子間のエレクトレット帯電量を補正する技術もなかった。そこで山根助教らの研究グループは、MEMSとエレクトレットを物理的に切り離す新原理を考案し、振動発電を実証した。

<今後の展開>

今回の研究で、MEMS可変容量素子とエレクトレットを切り離した新原理の振動発電の実証に成功した。今後、MEMS構造とエレクトレット材料を独立して最適に設計することが可能になり、各要素における最先端技術の融合を大幅に加速できる。これは、従来のエレクトレット振動発電における制約条件を打破する成果であり、無線IoTセンサーなどに向けた電池フリー、夜間・暗所でも発電可能な振動エネルギーハーベスティング技術において、性能向上につながると期待される。

<参考図>

図1

図1 外付けエレクトレットとMEMSを利用した振動発電素子の概要

図2

図2 発電原理の概念図

図3

図3 外付けエレクトレットとMEMS可変容量素子を利用した振動発電

印加加速度0.2G、負荷抵抗10MΩの測定結果。Gは重力加速度。

<用語解説>
注1)MEMS、MEMS可変容量素子
MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械素子)は、半導体微細加工技術を利用して製造したマイクロメートル寸法の3次元電子・機械デバイスの総称。
MEMS可変容量素子は、MEMS技術で作製した微小機械構造を利用して、電気信号や機械振動により静電容量を変化できる電子デバイス。本研究では、外部振動の強度により静電容量が変わる構造を用いた。
注2)エレクトレット(Electret)
半永久的な電荷を保持する誘電体。今回はAGC社のCYTOP(サイトップ)を利用した。
注3)IoT(Internet of Things)
身の回りのあらゆるモノがインターネットを介して情報通信・相互制御を行う仕組み。
注4)エネルギーハーベスティング技術
環境中に存在する振動などのエネルギーを電力に変換する技術(環境発電技術)。
注5)誘導電荷
導体を帯電した物体に接近させた際、帯電した物体の方へ引き寄せられる電荷。誘導電荷の極性は、帯電した物体の極性と逆になる。
注6)プルイン現象
空気を介した電極間に直流電圧を印加すると、電極を引き付けあう静電引力が発生する。片方の電極が可動構造の場合、電極間隔が初期の3分の1以下に縮まると、可動電極は対向電極に接触するまで強制的に引き込まれることが理論解析より明らかになっており、これはプルイン現象と呼ばれる。
<学会発表>

国際会議:The 32nd International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS 2019)

URL:http://mems19.org/html/main.php

タイトル:“A MEMS Vibratory Energy Harvester Charged by an Off-Chip Electret”

<お問い合わせ先>

山根 大輔(ヤマネ ダイスケ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 助教

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

<報道担当>

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

科学技術振興機構 広報課

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