シンチレーション検出器の光出力を決める仕組みを解明-加速器、宇宙、医療現場などの陽子や重粒子線の正確な計測に向けて-

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2018/08/30 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

発表のポイント
  • シンチレーション検出器による放射線計測では、陽子線・重粒子線に対する検出器出力(発光量)の理論的な関係が不確定だった。そのため放射線量を正しく評価できない問題があり、発光の仕組みの解明と、それに基づく予測手法の開発が望まれていた。
  • シンチレーション検出器で放射線が光に変換される際に一部のエネルギーが失われる過程を解明し、陽子線・重粒子線に対しても発光量の予測を可能にした。
  • 本研究で開発した数理モデルにより、標準線源が整備されていない放射線も正確に検出信号が予測できる。その結果として、加速器、宇宙、医療現場など多様な環境におけるシンチレーション検出器による正確な放射線計測や新しい測定器の開発への貢献が期待できる。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)原子力基礎工学研究センターの小川達彦研究員と佐藤達彦研究主幹、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫)高崎量子応用研究所の八巻徹也上席研究員は、シンチレーション検出器1)の光出力が決まる仕組みを解明し、新たに陽子線2)・重粒子線3)に対しても発光量を正確に予測することを可能にしました。

放射線と反応して光を発するシンチレーション検出器は、高感度で低価格という優れた特性から、ガンマ線や中性子線の計測、放射線量の測定に広く使用されています。しかし、陽子線・重粒子線などを測定する場合は、検出器へのエネルギー付与に対する発光量の理論的な関係が不確定なため、放射線量を正しく評価できない問題があり、発光メカニズムの解明とそれに基づく正確な発光量予測手法の開発が望まれてきました。

本研究では、放射線が物質にエネルギーを付与する挙動を予測する計算手法に、付与されたエネルギーが分子間を移動する原理と、移動したエネルギーが特定の状態遷移により発光に関与することなく逸失する原理を組み合わせた数理モデルを開発しました。そして、この数理モデルにより、ガンマ線やベータ線、アルファ線、陽子線・重粒子線などの様々な放射線によるシンチレーション検出器の発光量を再現することに成功しました。特に、従来不明であった陽子線・重粒子線によるシンチレーション検出器の発光が抑制される仕組みが明らかになり、正しい発光量の予測が可能となりました。

本成果により、加速器、宇宙、医療現場などの多様な環境におけるシンチレーション検出器による正確な放射線計測が可能となるとともに、新たな測定器の開発にも貢献することが期待できます。なお、本研究の詳細は、 「Plos One」誌に8月29日付(日本時間8月30日)で公開予定です。

研究開発の背景

放射線施設や環境中の放射線を測ることは、放射線利用の安全を確認するうえで最も重要です。また、放射線計測は、素粒子や核物理などの研究においても重要な基礎技術です。放射線検出でよく使われる検出器を図1(ガス式、半導体式、シンチレーション式)にまとめます。ガス式と半導体式検出器は、それぞれガスと半導体が放射線と反応した際の電気的な変化を信号に変換することで放射線を検知します。一方、シンチレーション検出器はシンチレータという物質が放射線と反応した際に生じる光を使って放射線を検知します。

シンチレータは固体や液体なのでガスより密度が高く、半導体より総じて安価なため有感部分の大きな検出器が作れます。そのためシンチレーション検出器は検出感度が高く、環境中などの微量の放射線でも検知できます。特に東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の事故以降、空間線量率の測定などに広く使われてきました。

図1 ガス式、半導体式、シンチレーション式の様々な放射線検出器の例

シンチレーション検出器は、放射線によって付与されたエネルギーを光に変換することによって信号を出力します。そして、付与されたエネルギー量に対するシンチレータの発光の強さを知るには、既知の放射能を持つ標準線源4)を使ってそれに対する発光量を測定するか(この手順を「校正」といいます)、経験式によって予想する方法がとられてきました。これにより、検出器の出力信号を放射線の線束やエネルギーに換算することができます。しかし、アルファ線、ベータ線、ガンマ線や中性子線を放出する標準線源はあるものの、加速器施設や宇宙に由来する陽子線・重粒子線や、エネルギーの極端に低い放射線には標準線源が存在しません。そのため、そのような放射線に対する検出器の発光量から放射線のエネルギーや線量を知るには、両者の対応関係を知る必要があります。しかし、これらの放射線はエネルギー付与が狭い空間に集中するため(図2)、ベータ線などに使われてきた経験式の適用限界を超えていました(図3)。そのため、シンチレータの発光量を普遍的かつ正確に予測するために、発光メカニズムの解明とそれに基づく理論計算法の開発が望まれてきました。

図2 放射線によるエネルギー付与の違い

図3 重粒子のエネルギー付与と光出力の関係の例。従来の経験式では検出器出力からエネルギー付与量を正しく決めることはできない。(F.D.Becchetti ら、Nucl. Instru. Meth., 138, 93-104 (1976))

研究の内容と成果

本研究では、放射線がシンチレータ中にエネルギーを付与する挙動をナノメートルスケールで予測する計算モデル「RITRACKS5」」と、物質に付与されたエネルギーが構成分子の間で移動する原理(フェルスター効果6)理論)、さらに移動したエネルギーが特定の状態遷移により光以外の形で逸失する原理(Kashaの法則7))を組み合わせ、シンチレータの発光の強さを予測する数理モデルを開発しました。この数理モデルが従来の経験式のモデルと大きく異なるのは、発光量を予想するのにエネルギーの付与量だけでなく、エネルギーが付与される点の空間的な配置に着目した点です(図4)。エネルギーが一部の空間に集中して付与されると、発光する前に近接する分子間を移動し、一部の分子は発光できない励起状態に遷移します。こうしたエネルギーは熱に変換されて逸失してしまうため、エネルギーがまばらに付与された場合と比べて発光量が少なくなります。結果として、エネルギーを一部の空間に集中して付与する重粒子線や低エネルギーの放射線は、付与したエネルギーの大きさに比べて発光量が少なくなります。以上のようなシンチレータの発光量が決まる仕組みにより、従来の経験式では再現できなかった重粒子線などのエネルギー付与に対する光出力の変化を説明できると考えました。

図4 従来の経験式モデルと本研究の数理モデルの違い。

この数理モデルの妥当性を確認するため、計算値を過去に測定された実験値と比較しました。特に多くの条件で測定が行われているNE102という種類のシンチレータの発光量で比較した結果を図5および図6に示します。図5は、数100MeVから数GeVの重粒子線照射に対する発光のデータで、従来の経験式では単位長さ当たりのエネルギー付与量が多い(103(MeV/(g/cm2))以上)領域、つまりエネルギー付与が狭い空間に集中する場合の発光量を正しく予測できていませんでした。一方、本研究の数理モデルに基づく計算値は全域にわたって正確に実験結果を再現しました。

図6では、より高密度にエネルギーを付与する低エネルギー重粒子線照射に対する発光量を比較しました。陽子線(1H)はシンチレータ中でエネルギーを比較的まばらに付与するため、エネルギーを付与された分子は互いに阻害せず発光します。一方、4Heや6Liなどの重粒子線は陽子線に比べて密にエネルギーを付与するため、エネルギーが付与された分子同士が発光を阻害しあいます。結果として、単位長さ辺りのエネルギー付与量が多い重粒子線(グラフ右側)に対して発光量は急速に少なくなります。本研究で開発した数理モデルによる計算値は、これら様々な放射線に対する発光量の測定データを高精度に再現しました。

図5 高エネルギー重粒子線による発光の強度。横軸は単位長さ当たりのエネルギー付与(エネルギー付与の集中度)、縦軸は発光量を示す。103(MeV/(c/cm2))以上で、経験式は測定値と合わなくなる。

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