銀河中心「巨大ガンマ線バブル」の謎に迫る

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1000万年前の大爆発をX線で検証

2918/07/26 早稲田大学 東京大学 理化学研究所 金沢大学

ポイント
  • フェルミ・バブルを囲む巨大ループ構造をX線ではじめて詳細に観測
  • 巨大ループは爆発で圧縮・加熱された高温ガス(銀河ハロー)と結論
  • 流体シミュレーションを用いて1000万年前に起きた銀河中心の爆発を再現

早稲田大学理工学術院の片岡淳(かたおかじゅん)教授らの研究チームは、東京大学・理化学研究所・金沢大学と共同で、銀河中心から噴出するガンマ線バブルとX線で見られる巨大ループ構造が、ともに1000万年前に起きた大爆発の痕跡である証拠を突き止めました。バブルが膨張する際に周囲の高温ガスを圧縮・加熱し、巨大ループ構造を形成したと考えられます。研究チームは2013年から5年にわたり、日本のX線天文衛星「すざく」を中心とした系統的な観測と解析を行いました。いまは穏やかな銀河系も1000万年前には活発に爆発を繰り返し、激しい進化を遂げてきた様子が明らかになりました。

ほとんどの銀河の中心には巨大ブラックホールが潜んでおり、銀河系にも太陽の400万倍の質量を持つブラックホールが存在することが知られています。遠方には活動銀河やクェーサーなど非常に活発で明るい銀河が存在しますが、銀河系や近傍銀河の多くは活動性を示さず、いわば「休火山」のような状態です。昔は銀河系も明るく輝いていたのか?いつ・どのように活動を止めたのか?この基本的な問いに答えることは、様々な銀河の形成と進化を探る上でも極めて重要です。近年、フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡により、銀河中心から南北約50° に噴き出す巨大なガンマ線バブル(通称:フェルミ・バブル)が発見され、大きな話題を呼んでいます。一方で、電波やX線でも全天にまたがる巨大ループ構造が知られていますが、その大きさや形状から、太陽系近くの天体(超新星残骸)が偶然重なって見えているだけ、とする説が主流でした。研究チームは巨大ループがフェルミ・バブルを包み込む形状である点に着目し、2013年より日本の「すざく」衛星や米国のスウィフト衛星を用いて全天140箇所のX線観測とデータ解析を行いました。これにより、この巨大ループ構造はフェルミ・バブル形成時の名残であり、一連の爆発で圧縮・加熱された高温ガス(銀河ハロー)であると結論しました。

2013年より研究成果は7編のシリーズ論文として発表され、その最終成果が米国天文学会の運営する科学雑誌『Astrophysical Journal』に2018年7月25日(現地時間)に掲載されました。

研究の背景

ほとんどの銀河の中心には巨大ブラックホールが存在し、その質量も太陽の10万倍から100億倍と様々です。そして銀河はブラックホールの質量により、明るさの上限値(限界光度)が決まっています。遠方の活動銀河(※注1)ではブラックホールに落ち込む物質の多くをジェットとして噴き出し、限界光度ギリギリで輝く特殊な天体も存在します。一方で、銀河系の中心にあるブラックホールは現在ほとんど活動をしておらず、いわば休火山のような状態です。実際、明るさは限界光度の10億分の1以下と暗く、ジェットのような構造も見られません。この違いは、銀河やブラックホールの性質によるものか、あるいは同じ銀河でも時間とともに進化するのか、天文学に残された最大の謎の一つです。

ところが近年、銀河系もかつて激しく活動をしていた痕跡が、続々と見つかりつつあります。2010年にフェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡(※注2)が発見したガンマ線バブル(通称:フェルミ・バブル)は銀河中心から南北50° 、差しわたし5万光年(=銀河系の約半分の大きさ)に及ぶ巨大な泡構造で、その姿は遠方の活動銀河を彷彿とさせます(図1a)。もし、バブルが爆発的に形成されたとすると、大昔には銀河中心が今より1億倍は明るかったと推測されます。当然、そのような大爆発はガンマ線だけでなく、他の波長にも多くの「爪痕」を残しているはずです。本研究では、特に電波やX線の全天マップで見られる巨大なループ構造に着目しました(図1b)。

図1: (a) ガンマ線で観測した全天マップとガンマ線バブル (b) X線で観測した全天マップと巨大ループ構造

全天に広がる巨大ループの存在は、1970年代より天文学者の間では広く知られていました。この正体については、太陽系のごく近傍にある天体が巨大に見えているだけ、とする説が一般的です。最も有力な候補として、約400光年先にある星団 “サソリ座ケンタウルス” の超新星残骸(※注3)と考えられてきました。一方で、研究チームの祖父江は、この巨大構造は距離にして約30,000光年、はるか遠方の銀河中心付近に存在し、過去の銀河系の大爆発により形成されたとする新たな説を提唱しました。しかしながら、ループまでの距離の推定に決め手を欠くこと、また当時はX線のスペクトル情報が欠如していたため、「銀河中心爆発説」は形勢不利のまま、二つの仮説が40年間も両立して現在に至っています。

方法

このたび、早稲田大学を中心とする本研究チームは日本のX線天文衛星「すざく」および米国のスウィフト衛星を用いてフェルミ・バブルを包み込む高温ガスや巨大ループ構造をX線で網羅的に観測し、その距離や放射の起源を決定することに成功しました。2013年のプロジェクト開始から解析したデータは全天で140箇所に及び、世界的にも類を見ない大規模なサーベイプロジェクトとなります。特に「すざく」衛星は 1キロ電子ボルト以下の広がったX線放射の検出に優れた感度を持ち、X線を放射するガスの温度や強度、含まれる金属量、さらには星間ガスの吸収量を正確に決めることができます。低エネルギーのX線は距離が遠いほど大きな吸収を受けるため、吸収の有無はループ構造までの距離を測る良い指標となります。図2(左) に巨大ループ周辺での観測位置、また図2(右)に典型的なX線スペクトルを示します。解析したすべての領域において、X線スペクトルは (1) 太陽系近傍のガスによる熱放射 (2) 遠方の高温ガスによる熱放射 (3) 一様なX線背景放射、の3つの足し合わせで説明することができました。ここで (1)は近傍にあるガスからの放射のため吸収の影響は受けず、また (3)は遠方にある活動銀河の足し合わせと考えられる一様放射です。そのため、残された (2) の遠方の高温ガスによる熱放射が今回の主題となります。一般に、銀河は「ハロー」とよばれる高温ガスで包まれており、銀河系の場合はほぼ一様かつ約200万度のガスが満ちています。この定常的に存在する銀河ハローからの放射と、巨大ループ構造からの高温放射を比べることで、その生成起源に迫りました。

図2: (左) 巨大ループ周辺におけるX線観測位置。ONがループ状、OFFが外側の領域。緑の点線はフェルミ・バブルの境界。(右) ON位置における典型的なX線スペクトル。緑の成分が巨大ループによる放射

結果

巨大ループ上の観測点と外側について、高温ガスの温度と強度(放射率)を比較した例を図3(左)に示します。ループの外側では吸収された約200万度の弱いガスが観測され、これらは銀河ハローからの放射であると示唆されます。しかしながら、巨大ループ構造の上ではガスの温度が約300万度と50%ほど高く、またX線強度からガスの密度が2~3倍も高いことが分かります。さらに吸収の量から、ループ構造が太陽系近傍にあるのではなく、銀河系のかなり遠方に存在することが分かりました。ガスの密度が高いことは何らかの膨張により圧縮されたガスが吹きたまっていることを意味します。もし、銀河中心の爆発で生じた衝撃波が銀河ハローを圧縮・加熱したと仮定すると、その膨張速度は約 300 km/s と見積もられ、現状の大きさまでフェルミ・バブルが広がるのに約1000万年の時間を要します。

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