60年前に予言されていた液晶のような超伝導状態を酸化物で発見

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2022-04-22 京都大学

金城克樹 理学研究科博士課程学生、真砂全宏 同博士課程学生(研究当時、現:島根大学総合理工学部助教)、毛志強 同博士研究員(研究当時、現:ペンシルベニア州立大教授)、北川俊作 同助教、米澤進吾 同准教授、前野悦輝 同教授(研究当時、現:京都大学高等研究院 豊田理研‐京大連携拠点教授)、石田憲二 同教授の研究グループは、約60年前に理論研究から予言されていた空間変調する新奇な超伝導状態を酸化物超伝導体で発見しました。

低温で電気抵抗が完全にゼロになる超伝導(※1)状態は、磁場をかけると壊れます。壊れる寸前に一様ではない新奇な超伝導状態が現れうることが、約60年前に理論的に予言されていました。この新奇な超伝導状態は提案した4人の名前にちなんでFFLO超伝導状態として知られ、超伝導の強さがスメクティック液晶(※2)での棒状分子の分布のように空間的に周期変化します。この概念は超伝導研究にとどまらず、レーザー冷却原子気体(※3)や高密度クォーク物質(※4)といった異なるエネルギースケールの物理にも現れます。ところが現在まで候補となる超伝導体は見つかっているものの、FFLO超伝導状態の直接的証拠となる超伝導の強さの空間変調(※5)を見ることは出来ていませんでした。

本研究グループは、ルテニウム酸化物超伝導体Sr2RuO4(※6)の純良単結晶においてFFLO超伝導状態に特徴的な空間変調(スピン・スメクティック性)を、超伝導の壊れる寸前の磁場領域で核磁気共鳴(NMR)(※7)測定により明らかにしました。さらに、これまでの候補物質のFFLO超伝導状態は10 テスラ(T)(※8)を超える高磁場でしか報告されていませんでしたが、驚くべきことにSr2RuO4では1.3 Tと一桁低い磁場で実現しており、今後は様々な測定が可能となります。Sr2RuO4はこの新奇な超伝導状態を研究する最適な研究舞台となり、今後の研究が飛躍的に進むことが期待されます。

本研究成果は、2022年4月22日に、国際学術誌「Science」のオンライン版に掲載されました。

※1 超伝導:電気抵抗がゼロとなり、磁場を完全にはねのける完全反磁性(マイスナー効果)を示す状態のこと。

※2 スメクティック液晶:柱状分子が平行に配列して、層を形成した状態の液晶。自発的に濃淡が形成されている。

※3 レーザー冷却原子気体:レーザー光を用いて、気体分子の温度を絶対零度近くまで冷却された原子気体。このような極低温では原子気体の量子力学的な性質が顕著になり、粒子の統計性により、ボース=アインシュタイン凝縮(BEC)や縮退フェルミ気体やその超流動状態が実現する。

※4 高密度クォーク物質:素粒子標準模型において、素粒子のグループの一つであるクォークが強い相互作用で結びついた状態。中性子星の内部で実現していると考えられている。

※5 空間変調:物質内で特定の周期をもって濃淡が出来ること。

※6 ルテニウム酸化物超伝導体Sr2RuO4:銅(Cu)酸化物高温超伝導体の母物質La2CuO4と同じ結晶構造を持つルテニウム(Ru)酸化物超伝導体。超伝導転移温度は1.5 Kで、この超伝導は1994年前野教授らにより発見された。

※7 核磁気共鳴:原子核の性質を使って、物質の電子の状態を調べる測定方法。電気抵抗や磁化率測定と異なり、磁気的な性質や電気的性質のわずかな変化も敏感に測定できる。医療で用いられるMRI(磁気共鳴イメージング)はその応用例の一つ。

※8 テスラ(T):磁場の強さを表す単位、1 Tは1万ガウスに相当。ちなみに地磁気の強さは約0.5ガウス。

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図 酸化物超伝導体Sr2RuO4におけるFFLO 状態のイメージ図。超伝導の強さが周期的に変化するスピン・スメクティック性の観測に初めて成功した。

詳しい研究内容≫

研究者情報
研究者名:北川 俊作
研究者名:米澤 進吾
研究者名:前野 悦輝
研究者名:石田 憲二

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