地球が見える 2018年「しきさい」偏光近紫外観測の紹介

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2018-07-03 JAXA

「しきさい」は偏光と近紫外の観測ができる

気候変動観測衛星「しきさい」搭載の多波長光学放射計(SGLI)は近紫外から熱赤外(380nm~12µm)の波長域で観測を行う光学センサです。赤と近赤外の波長では、衛星進行方向の前方あるいは後方の偏光観測を行う機能も持っています。偏光観測によって、光の強度だけでない光の状態(電磁波の振動方向)を調べることができます。
これまでに打ち上げられた地球観測衛星の中で、近紫外観測ができるセンサはTOMS、OMI、GLI、TANSO-CAIなど、偏光観測ができるセンサはPOLDER-1、POLDER-2、POLDER-Pなどがありますが、近紫外と偏光を同時に観測できる地球観測衛星搭載センサとしてはSGLIが世界初(※1)となります。

「しきさい」の近紫外観測と偏光観測のためのセンサ開発およびアルゴリズム開発には、「しきさい」の前身の衛星である環境観測技術衛星「みどりII」(2002年打上げ)に搭載された、グローバルイメージャ(GLI)と地表反射光観測装置(POLDER-2)の知見が多く取り入れられています。
※1 2021年には近紫外、偏光が同時に観測できるEUMETSATのMETOP-SG搭載3MIが打ち上げられる予定です。参照

なぜ偏光と近紫外?

「しきさい」の偏光と近紫外の観測は、陸上のエアロゾル(大気中を浮遊する塵)を精度良く推定できるようになることが期待されています。可視近赤外域では、陸域の地表面反射率は海に比べ大きく、かつ植生や土地被覆によりその値もさまざまに異なるため、これらの波長域のみでのエアロゾルの推定は非常に困難でした(図1左)。一方、「しきさい」が観測することができる近紫外域では、陸域の地表面反射率は非常に小さくなります。また、偏光反射率(※2)は可視近赤外域の非偏光反射率に比べて陸地による反射の影響を受けにくいという特徴があります。(図1右)よって陸域の地表面反射率の影響を受けにくいこれらの観測を用いることによって微細な大気の特徴を捉え、陸上でもエアロゾルを精度よく推定できるようになることが期待されています。

波長域の違いによる観測概念図

波長域の違いによる観測概念図

図1 波長域の違いによる観測概念図

※2 「しきさい」の偏光観測では、3偏光方位角(0°, 60°, 120°)の観測によりストークスパラメータの3要素(I, Q, U)を導出する手法を用いています。偏光反射率は反射率表記のストークスパラメータを用いて√Q2+U2<?XML:NAMESPACE PREFIX = “[default] http://www.w3.org/1998/Math/MathML” NS = “http://www.w3.org/1998/Math/MathML” />Q2+U2で表され、強く偏光しているほど大きな値となります。

偏光度と近紫外で見た陸地

(左上)RGB画像、(右上)赤バンド反射率、(左下)近紫外バンド反射率、(右下)近赤外バンド偏光反射率

上の図2.1~2.4は、「しきさい」が2018年3月23日に観測した中国周辺のカラー画像(R: VN08、G: VN05、B: VN03)、赤バンド反射率(VN08)、近紫外バンド反射率(VN01)、および近赤外バンド偏光反射率(PL02)の画像です。各バンドの画像(図2.2~2.4)では、海域を濃い灰色、雲域を白色にマスクしています。この日は華北平原および中国南部に非常に濃いエアロゾルが分布していることが、カラー画像で白くもやがかかって見えることからもわかります(図2.1の黄色枠)。偏光反射率画像および近紫外画像(それぞれ図2.3、図2.4)では地表面反射率の影響が小さく大気の状態が比較的よくわかりますが、一方で赤バンド画像(図2.2)では全体的に地表面からの反射が高いため、大気の状態との分離は困難であることがわかります。

偏光と近紫外から推定したエアロゾル光学的厚さ

(左)偏光と近紫外バンドで推定したエアロゾル光学的厚さ、(右)青と赤バンドで推定したエアロゾル光学的厚さ(参考)

図2.2、図2.3の近紫外および偏光の観測情報を使って、エアロゾルの濃さに対応する光学的厚さを推定した結果が図3-1です(※3)。比較として、近紫外と偏光の代わりに青と赤の波長を用いて全く同じ手法でエアロゾル光学的厚さを推定した結果を図3.2に示します。図3.2では地表面反射率が高い山東半島やゴビ砂漠東部(図2.2参照)ではエアロゾルの推定において非常に誤差が大きく正しく値が出ていなかったり欠損となっていますが(図3.2のオレンジ枠)、図3.1では地表面反射率の影響の小さい近紫外反射率と偏光度を用いて推定しているため、全域で安定してエアロゾル推定を行うことができています。偏光度は特に粒径の小さいエアロゾルに感度が高いため、今回示したような中国やインド、東南アジアなどで問題となっている人為起源の大気汚染物質の環境監視が期待されています。また、近紫外バンドでは、人間活動や焼畑・森林火災に伴う含炭素エアロゾルの推定精度が向上すると期待されています。「しきさい」ではこれらの情報を用いて従来より高精度に陸上のエアロゾルを長期間観測することで、気候変動予測に貢献していきます。

※3 今回は「しきさい」偏光近紫外観測の紹介のため、簡易的なアルゴリズムでエアロゾル推定を行っています。

観測画像について

画像:観測画像について

図2.1~2.4、図3.1~3.2
観測衛星 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)
観測センサ 多波長光学放射計(SGLI)
観測日時 2018年3月23日
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