データ科学と実験の融合による新しい材料開発方法の道しるべ
2018/07/04 物質・材料研究機構
NIMSは、マテリアルズ・インフォマティックス (MI) を活用し、世界最小の熱伝導率を有する無機複合薄膜材料の開発に成功しました。
概要
- 物質・材料研究機構 (以下、NIMS) は、マテリアルズ・インフォマティックス (MI) を活用し、世界最小の熱伝導率を有する無機複合薄膜材料の開発に成功しました。データ科学で予測された材料を実験で合成することで、短期間で高性能な新規断熱材料の発見につながりました。MIの有用性を実証した先駆的な事例として、今後の新規材料開発の指針となることが期待されます。
- 断熱材料は、エネルギー有効利用の観点から、建築や電子機器、発電プラント、航空機など、日常生活から工業活動まで幅広く利用されています。最近では、自動車エンジンの熱損失を低減する燃焼室側壁やピストンへの断熱コーティングなど、さらなる高性能な断熱薄膜材料の開発が期待されています。このような断熱材料の実現のためには、膨大な候補物質の中から、熱伝導を低減する材料の組み合わせを見出し、その界面構造をナノレベルで制御した合成を効率よく行うことが求められていました。
- 今回、NIMSの研究チームは、アンサンブル回帰木と呼ばれる機械学習手法を用いて、2000種以上におよぶ材料の組み合わせから、熱伝導率が低くなる組み合わせを予測しました。さらに、NIMSで独自に開発した、構造を変えながら複数の薄膜を全自動で作製できる装置を利用し、予測された材料の組み合わせのナノ構造を変化させて熱伝導率との相関を網羅的に探索しました。その結果、アモルファスシリコン中にビスマスの微結晶を散りばめた構造が、最高の断熱特性を有することを発見しました。この材料は、無機複合薄膜材料では世界最小の熱伝導率 (熱伝導率0.16 W/mK) を示すものとなりました。
- 今回の結果は、MIを活用することで、極めて効率よく新規機能性材料の探索、あるいは、既存材料の高性能化を行うことを実証した先駆的な事例です。今後は、断熱材料のさらなる高性能化をはじめとして、エネルギーに関連する様々な材料開発分野への応用を目指します。
- 本研究は、NIMS統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 データプラットフォーム 徐 一斌 プラットフォーム長、同拠点 伝熱制御・熱電材料グループ Yen-Ju Wu ポスドク研究員、佐々木 道子 特別研究員、Fang Lei NIMSエンジニアとエネルギー・環境材料研究拠点 熱電材料グループ 後藤 真宏 主席研究員によって行なわれました。また、本研究は、主に科学技術振興機構 (JST) のイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ (MI2I)」の一環として行なわれました。
- 本研究成果は、2018年7月3日 (現地時間) に、「ACS Applied Nano Materials」誌に掲載されます。
プレスリリース中の図 : 高性能な断熱特性を有するBi/Si複合材料の構造断面TEMイメージ
掲載論文
題目 : Electrically Conductive Thermally Insulating Bi-Si Nanocomposites by Interface Design for Thermal Management
著者 : Yen-Ju Wu, Michiko Sasaki, Masahiro Goto, Lie Fang, Yibin Xu
雑誌 : ACS Applied Nano Materials
掲載日時 : 2018年7月3日 (現地時間)
DOI : 10.1021/acsanm.8b00575