無機ナノチューブの簡便な単層合成法を開発〜高効率な太陽電池や高活性な触媒などの開発への貢献が期待〜

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2022-10-05 東京大学

1.概要

東京都立大学大学院理学研究科物理学専攻の古澤慎平(大学院生)、中西勇介助教、蓬田陽平助教、田中拓光(学部生)、柳和宏教授、宮田耕充准教授、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の佐藤雄太主任研究員、東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻の鄭永嘉博士研究員(日本学術振興会外国人特別研究員)、項栄客員研究員、丸山茂夫教授、大阪大学産業科学研究所の末永和知教授らの研究チームは、絶縁体のテンプレートを用いた結晶成長により、円筒構造をもつ一次元物質(ナノチューブ)の汎用的な合成法を開発しました。絶縁体である窒化ホウ素(BN)ナノチューブ(注1)を界面活性剤を用いた簡便な手法で分散し、それをテンプレートに用いた化学気相成長法(注2)によってBNナノチューブの表面で結晶成長を起こすことにより、異種のナノチューブを同心状に成長させることに成功しました。特に、これまで困難だった硫化物の単層ナノチューブを、比較的容易に合成できるようになりました。

この研究成果の重要な点は、光学的に透明かつ電気が流れない絶縁性のテンプレートを用いることにより、合成した無機ナノチューブの電子・光物性を解明することができるようになったことです。これまで未知だった様々なナノチューブの結晶構造や物性を詳細に調べることで、高効率な太陽電池や高活性な触媒などの開発へ向けた新たな材料設計指針が示されることが期待されます。

本研究成果は、10月5日付でアメリカ化学会が発行する英文誌「ACS Nano」にて発表されました。また、本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業「JP19H02543, JP19K15392, JP20H00220, JP20H02572, JP20H02573, JP20H02605, JP20KK0114, JP21H05232, JP21H05234, JP22H00280, JP22H00283, JP22H01911, JP22K04886, JP22H04957, JP22H05468, JP22H05469」、国立研究開発法人 科学技術振興機構CREST「JPMJCR17I5, JPMJCR20B1, JPMJCR20B5」および創発的研究支援事業 FOREST「JPMJFR213X」の支援のもとで行われたものです。

2.ポイント

■界面活性剤を用いて窒化ホウ素(BN)ナノチューブの凝集体を分散し、得られた孤立BNナノチューブがテンプレート合成に利用できることを実証。
■BNナノチューブをテンプレートに用いて硫化物の単層ナノチューブの合成に成功。
■これまで未解明だった様々なナノチューブの物性解明や機能開拓が期待される。

3.研究の背景

カーボンナノチューブは黒鉛(グラファイト)の単層を円筒状に丸めたナノ物質で、巻き方(カイラリティー)によって金属にも半導体にもなる不思議な性質を示します。近年、カーボンナノチューブとは異なる性質・機能を持つ新たなナノ材料を発掘しようとする動きが盛んになり、その一例として、層状の無機化合物を丸めた「無機ナノチューブ」が注目を集めています。特に、遷移金属と硫黄原子からなる遷移金属カルコゲナイドの無機ナノチューブは、超伝導や高効率な光電変換といったカーボンナノチューブには見られない特性を示すことが最近明らかになりました。従来の半導体PN接合とは異なる光電変換メカニズムを示すことにより、従来の太陽電池の効率限界を超える可能性も示唆されています。結晶構造や組成の自由度が豊富な無機ナノチューブは、未知の機能の宝庫としてナノ材料科学に新たな潮流をもたらしています。

無機ナノチューブに対する関心は年々高まっているものの、電流の流れやすさや光との相互作用などの基本的な性質の理解ですら、実験的にはほとんど進んでいません。その最大の原因は、現在主流の合成法では異なる巻き方のナノチューブが複数重なった多層ナノチューブしか得られないことにあります。そのため、精密な結晶構造の同定が困難であり、理論計算と実験結果を精密に比較できる状況に至っていません。例えば、半導体の二硫化モリブデン(MoS2)のナノチューブはカイラリティーに応じて強く発光し、発光波長も変化することが20年以上前から予想されていますが、依然として未検証のままです。このような理論予想を実験的に検証するには、結晶構造の同定が容易な単層のナノチューブの実現が不可欠です。単層の無機ナノチューブを合成する手段として、2020年に本研究チームの丸山教授、項客員研究員、鄭博士研究員が開発したカーボンナノチューブを用いたテンプレート合成法が知られています。この手法は、化学気相成長法によってカーボンナノチューブの表面で結晶成長を行うことにより、高品質な無機ナノチューブを実現できる手法として注目を集めています。しかしながら、金属や半導体であるカーボンナノチューブは高い電気伝導度や強い光吸収を示し、そのうえ得られたナノチューブとの相互作用も強いため、無機ナノチューブ本来の特性を調べることは容易ではありません。

4.研究の詳細

このような背景のもと、研究チームはカーボンナノチューブに代わるテンプレートとして、窒化ホウ素(BN)ナノチューブに着目しました。BNナノチューブはカーボンナノチューブと同じく直径1〜数ナノメートルの円筒状のナノ物質ですが、カーボンナノチューブと違って電気伝導度が低く、光学的にも不活性な絶縁体です。そのため、得られた無機ナノチューブの光学・電気特性を評価できるという、ナノサイズの試験管としての大きな利点を持ちます(図1)。一方で、BNナノチューブは互いに凝集する性質が強く、テンプレートとしての利用が難しいという課題がありました。この課題を解決するために、研究チームは界面活性剤を用いた超音波処理によってBNナノチューブの束(バンドル)をほぐす技術を開発しました。分散液を孔の空いた基板に塗布することにより、1〜数本単位で高度に分散したBNナノチューブのネットワークを簡便に作製することができます(図2)。BNナノチューブの周りに付着した界面活性剤は真空熱処理によって除去することが可能で、テンプレート合成に適した清浄かつ高結晶な表面をもつBNナノチューブが得られます。分散の過程で比較的細い二層のBNナノチューブが濃縮されることも明らかになりました。テンプレートが細くなるほど得られる無機ナノチューブも細くなり、一次元電子系の特徴を顕著に反映した物理現象を観測できる可能性があります。このネットワークをテンプレートに用いて気相成長を行うことにより、BNナノチューブの表面への炭素やMoS2のナノチューブの合成に成功しました。研究チームは、透過電子顕微鏡(注3)を用いた観察により、得られた複合ナノチューブが同心構造をもつことを証明しました。成長温度によって得られるナノチューブの層数を制御することが可能であり、適切な成長温度で合成することによって、単層ナノチューブを高い収率で得ることができます。さらに元素分析や結晶構造解析を行うことにより、窒素とホウ素で構成された芯の外側に、高い結晶性をもつ炭素やMoS2のナノチューブが成長していることを確認しました(図3)。原子分解能の透過電子顕微鏡を用いた直接観察により、MoS2の単層ナノチューブのカイラリティーを同定することにも成功しました。今後、得られたナノチューブを一本ずつ詳細に分析することにより、長年判然としていなかったカイラリティーと電子物性の相関関係の解明が期待されます。

5.研究の意義と波及効果

今回開発した合成法は、原理上、様々な無機ナノチューブの合成に適用できます。この手法により、長年理論研究に留まっていた多種多様なナノチューブの実現が期待されます。さらに、BNナノチューブ自体の影響が小さいため、カイラリティーと物性の相関関係を統一的に理解することができます。また、MoS2をはじめとする一部の無機ナノチューブは、高効率な太陽電池や高活性な水素発生触媒の材料として有望視されています。また、本手法で合成した単層ナノチューブの構造分布を研究することによって、成長機構の解明や構造制御合成、そして多量合成法の開発に結びつくことも期待されます。

図1 カーボンナノチューブとBNナノチューブ

fig2

図2 (a)界面活性剤を用いたBNナノチューブの分散、(b)BNナノチューブの固体(左)と分散液(右)、

(c)分散したBNナノチューブのネットワーク

fig3
図3 BNナノチューブの側面に成長した単層MoS2ナノチューブの電子顕微鏡写真

【用語解説】

(注1)窒化ホウ素(BN)ナノチューブ
炭素原子の六員環ネットワーク(六方晶窒化ホウ素シート)を円筒状に巻いた構造をもつナノ物質。炭素原子のシートを巻いたカーボンナノチューブと同じ原子配列をもつ。

(注2)化学気相成長法
原料のガスを基板に供給し、薄膜などを形成する合成法。本研究ではBNナノチューブをテンプレートに用い、その表面でグラフェンやMoS2のシートを成長させることで異種のナノチューブを合成した。

(注3)透過電子顕微鏡
電子線を試料に照射し、透過した電子の電磁レンズで集束または発散させて投影した像を拡大して撮像する顕微鏡。光学顕微鏡では観察不可能な原子レベルの微小構造を観察できる。

【発表論文】

<タイトル>
“Surfactant-Assisted Isolation of Small-Diameter Boron-Nitride Nanotubes for Molding One-Dimensional van der Waals Heterostructures”

<著者名>
Shinpei Furusawa, Yusuke Nakanishi*, Yohei Yomogida*, Yuta Sato, Yongjia Zheng, Takumi Tanaka, Kazuhiro Yanagi, Kazu Suenaga, Shigeo Maruyama, Rong Xiang, and Yasumitsu Miyata*

*Corresponding author

<雑誌名>
ACS Nano(2022)

<DOI>
10.1021/acsnano.2c06067

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