直角に折れ曲がるジェットが描き出す銀河団の磁場構造

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2021-05-06 国立天文台

直角に折れ曲がるジェットが描き出す銀河団の磁場構造電波干渉計で観測したジェットの姿(左)。上下に吹き出したジェットは途中で左右に折れ曲がり、特に左側に細長く伸びた構造になっていることが分かります(クレジット:Chibueze, Sakemi, Ohmura et al.)。「アテルイⅡ」を用いたシミュレーションで得られた、ジェットと銀河団磁場が相互作用するようす(右)。オレンジ色から青色の部分はガスの速度を表し、オレンジ色であるほど速度が速い。黄色の線は磁力線を表しています。(クレジット:大村匠、町田真美、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト) オリジナルサイズ(2.1MB)

銀河の中心から噴き出すジェットが銀河団の中で折れ曲がるようすが、電波干渉計による観測で詳細に捉えられました。また、その観測結果をシミュレーションと比較することで、銀河団の中に広がる磁場の構造が克明に描き出されました。高解像度の観測と精密な計算との協力で得られた重要な成果です。

宇宙にはあまねく磁場が存在しています。磁場は、銀河の中心に存在するブラックホールから噴き出すジェットを加速し細く絞るのに重要な働きをするなど、天体で起こっている現象を理解するのに不可欠です。銀河の集団である銀河団は、電離したガスで満たされていて、銀河団どうしが衝突を繰り返すことで磁場が強められ複雑な構造を作ると考えられています。しかし磁場を直接観測することは難しく、詳細な構造ははっきり分かっていませんでした。

はと座の方向6.4億光年の距離にある銀河団Abell 3376は、大小の銀河団が衝突している現場の一つです。国立天文台や南アフリカ電波天文台などの研究者から成る国際研究チームは、この銀河団を南アフリカ電波天文台が運用する電波干渉計「MeerKAT(ミーアキャット)」を使って観測しました。その結果、小さな銀河団の中心に存在する銀河から噴き出すジェットが、衝突の進行方向と同じ向き、つまり風上側に直角に曲がり細く絞られた形状が維持されていること、しかもそのジェットが風下側にも存在することが、明らかになったのです。ジェットの折れ曲がりは、一般に銀河団に吹く風で吹き流されることで説明されてきましたが、こういった特徴を説明するためには、銀河団の風によって吹き流される以外の成因を考える必要があります。

このようなジェットの形状を作るメカニズムを解明するため、研究チームは国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いてシミュレーションを行いました。その結果、衝突により大きな銀河団の磁場が小さな銀河団との境界で強められ、ジェットが磁場の方向に曲げられると考えると、観測されたジェットの形の特徴がよく説明できることが分かりました。曲がった後の細く絞られたジェットも、境界の磁場の存在を強く示唆しています。  今回の研究で、ジェットの形状を詳細に調べることで、直接観測することが難しい磁場の構造を明らかにするという新しい手法が得られました。研究チームは今後、いよいよ建設が始まる大型電波干渉計「SKA(エスケーエー、Square Kilometre Array)」などを活用して、同様の現象を詳しく観測し解析することを計画しています。

この研究成果は、Chibueze, Sakemi, Ohmura et al. “Jets from MRC 0600-399 bent by magnetic fields in the cluster Abell 3376”として,英国の科学雑誌『ネイチャー』に2021年5月6日付で掲載されました。

ジェットと銀河団磁場の相互作用のシミュレーション。「アテルイⅡ」を用いたシミュレーションで得られた、ジェットと銀河団磁場が相互作用するようすのムービー。画面下から上へ向かって吹き出すジェットの速度をオレンジ色から青色で表していて、オレンジ色であるほど速度が速いことを示しています。黄色の線は磁力線を表しています。また、最後のシーンでは、シミュレーションによって得られた電磁波の放射強度を黄色で示しています。(クレジット:大村匠、町田真美、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

1701物理及び化学
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