電波送信装置の小型化を可能にする高出力広帯域パワーアンプの設計技術を開発

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電力合成器への適用により増幅器の広帯域性能を従来の2倍へ拡大、装置の小型化を実現

2020-08-04 株式会社富士通研究所

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、1台で数百メガヘルツ(MHz)から数ギガヘルツ(以下、GHz)までの幅広い周波数帯で信号を出力できる電力増幅器(以下、パワーアンプ)の設計技術を開発しました。

私たちが生活する空間では、気象レーダーやリモートセンシングなど、様々な用途に応じて幅広い周波数帯の電波が利用されています。電波送信装置においては複数の周波数帯に対応しなければならない一方で、装置の小型化ニーズも強く、広帯域パワーアンプの設計技術が注目されています。

今回、パワーアンプの電力合成器にインピーダンス(注2)を変換する機能を持たせることで、トランジスタと電力合成器とのインピーダンスの差分を小さくした広帯域パワーアンプを開発しました。その手段として、薄い回路基板の下部の筐体を空洞化し、その基板の表面と裏面の両面に幅広い信号配線を形成した3次元配線構造の結合線路を電力合成器に世界で初めて適用しました。この設計手法に基づき、これまでの増幅器性能に比べて2倍の周波数広帯域化を、高出力特性を損ねることなく実現しました。

この技術を適用することにより周波数ごとに複数必要であったパワーアンプの共用化が図れ、電波送信装置の大幅な小型化・構造の簡素化を実現することが期待されます。

本技術の詳細は、8月4日(火曜日)から開催する国際会議「IMS2020 (International Microwave Symposium 2020)」にて発表します。

開発の背景

様々な周波数帯の電波を送信するためには、用途ごとの規格に対応した周波数帯をカバーする電波送信装置を設置し、それぞれに異なるパワーアンプを用意する必要があります(図1左)。しかし、これにより電波送信装置が大型化するため、一台で複数規格に対応する周波数帯をカバーでき、共有化できる高出力なパワーアンプの開発が求められています。パワーアンプは、送信信号を必要な出力まで高めることにより電波の到達距離を伸ばす働きをしますが、電波送信装置を構成する部品において、高出力かつ広い周波数帯をカバーするのが困難な部品であるため、電波送信装置の共用化を阻む要因となっていました。

図1 (左)従来の送信装置 (右)開発した技術を適用した場合の送信装置

図1 (左)従来の送信装置 (右)開発した技術を適用した場合の送信装置

課題

パワーアンプは、信号を増幅するトランジスタを並列に並べ、各トランジスタからの出力を電力合成器で合成することで高出力化します。パワーアンプからの出力信号は、アンテナに供給されて電波として送信されます。一般的に、出力電力を高めるためにトランジスタの数を増やすとインピーダンスが小さくなり、トランジスタと電力合成器とのインピーダンスに大きな差が生じます。狭い周波数帯では、インピーダンスに差があっても、信号を減衰させることなく接続することは容易ですが、周波数の範囲が広がるとその周波数の信号は減衰してしまいます。このように、トランジスタと電力合成器の間のインピーダンスの差が大きいと、広帯域にわたり高い出力特性を得ることが難しくなるといった問題がありました。したがって、一台の電波送信装置で高出力、かつ複数規格に対応する広帯域特性を実現するためには、パワーアンプの新たな設計技術の開発が課題となっています。

開発した技術

今回、3次元配線構造を用いた結合線路を電力合成器に適用し、電力合成器にインピーダンス変換機能を持たせることで、インピーダンスの差分の緩和と電力合成の両方を実現し、従来の増幅器に比べて2倍の広帯域性能をもつパワーアンプの設計技術を開発しました。

3次元配線構造を用いた結合線路は、配線間の電気的な結合の強度により帯域幅が決まるため、基板を実装している金属部分に空洞を設け、薄い基板の表面と裏面に幅広い配線とすることで強い電気的な結合をもつ結合線路構造を実現し、広帯域かつインピーダンスの調整を可能としました(図2)。さらに、トランジスタと電力合成器間のインピーダンスの差分が小さくなるように異なる配線幅を持つ結合線路を構成し、段階的にインピーダンスを変化させることで信号の損失が少ない広帯域な電力合成器を実現しました。

図2 開発した3次元配線構造、それにより構成されるGaNパワーアンプの概念図とその実装写真

図2 開発した3次元配線構造、それにより構成されるGaNパワーアンプの概念図とその実装写真

効果

今回開発したパワーアンプの設計技術と、当社が保有している窒化ガリウム(以下、GaN)のトランジスタ技術(注3)を統合させ、GaNパワーアンプを試作し、その特性を評価しました。試作したGaNパワーアンプでは、中心の周波数とカバーする周波数(0.5から2.1GHz)の比である比帯域120%で、200Wの出力を得られました。出力電力と周波数帯域の積で定義する広帯域増幅器の性能指標(注4)は、従来と比べて2倍以上を実現し、広帯域に電力合成ができていることが実証されました(図3)。

本技術は、各種レーダーやセンシングなどで使用されている幅広い周波数を1台でカバーする多目的電力送信装置への適用が期待でき、送信機の小型化に貢献します。

図3 これまでの報告例と本発表の特性の比較

図3 これまでの報告例と本発表の特性の比較

今後

当社は、広帯域増幅器のさらなる高出力化・広帯域化を進めていき、電力送信装置の小型化・高性能化に向けて開発を継続していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 原 裕貴。
注2 インピーダンス:
交流回路における抵抗値(電圧と電流の比)。
注3 当社が保有している窒化ガリウム(GaN)のトランジスタ技術:
従来比3倍となる窒化ガリウムトランジスタの高出力化に成功(2018年8月10日プレスリリース)
注4 性能指標:
出力電力と周波数比帯域の積。広帯域特性の指標として用いられる。

本件に関するお問い合わせ

株式会社 富士通研究所

デバイス&マテリアル研究センター

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