2019-08-28 国立天文台
渦巻く雲、茶色と白の独特な帯、巨大な嵐-。美しく流動する木星の大気は、これまで幾度となく紹介されてきました。しかし、渦巻く雲の下では何が起きているのでしょう?木星の表面に見られる巨大な嵐は、何が原因で起こっているのでしょうか?この現象を調べるには、可視光による観測だけで十分とはいえません。電波観測によって木星を調査する必要があります。今回、アルマ望遠鏡による電波画像は、木星に渦巻くアンモニアの雲から50km下までの大気の様子をとらえました。
アルマ望遠鏡による木星の電波画像。明るい帯は高温域、暗い帯は低温域を示しています。暗い帯は、大気が上昇する領域に対応しており、可視光では白く見えます。明るい帯は、大気が下降する領域に対応しており、可視光では茶色く見えます。この画像には10時間以上のデータが足し合わされているため、木星の自転によって細部が塗りつぶされています。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello
カリフォルニア大学バークレー校のインキー・ド・ペーター氏は、次のように述べています。「我々はアルマ望遠鏡を用いて、雲の下にあるアンモニアガスの3次元分布図を作成することに成功しました。それだけでなく、今回初めて、表層で大規模な噴出が起こった後の下層大気を調査することができたのです。」
木星の大気は、主に水素とヘリウムで構成されており、メタン、アンモニア、硫化水素、水などの微量ガスが含まれています。木星の表層の雲は、アンモニアの氷でできています。その下に硫化水素アンモニウムの粒子の層があり、さらに深く、表層から80km下には水(液体)の雲があります。表層の雲は、地球から見られる茶色と白の独特な帯を形成しています。
木星の嵐の多くは、この茶色と白の帯の内側で起こっています。地球上で発生する雷を伴った嵐と対比され、しばしば雷と関連づけられます。木星の嵐は、可視光の波長では小さな白い雲のように見えます。この雲は、「プルーム」と呼ばれます。このプルームの噴出は、茶色と白の帯を大きくかき乱す可能性があり、数か月または数年にわたって見ることができます。
今回のアルマ望遠鏡による電波画像は、2017年1月、アマチュア天文家が木星の南赤道帯でプルームの噴出を観測した数日後に撮影されました。最初に小さな白いプルームが見え、その後、南赤道帯で大規模な乱れが観測されました。この現象は、数週間にわたって続きました。
アルマ望遠鏡による木星の電波画像(上)とハッブル宇宙望遠鏡による可視光の画像(下)。 南赤道帯での噴出の発生は、両方の画像で見ることができます。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/Hubble
ド・ペーター氏らの研究チームは、このプルームと南赤道帯の下層の大気を調査するため、アルマ望遠鏡を使って電波観測を行いました。そして、ほぼ同時期に他の望遠鏡で観測された紫外線・可視光線・赤外線の画像とアルマ望遠鏡の電波画像とを比較しました。赤外線観測には、国立天文台すばる望遠鏡も活躍しました。
「今回のアルマ望遠鏡の観測によって、木星の表層で大規模な噴出が起きている間、高濃度のアンモニアガスが上層へ引き上げられていることが初めて明らかになりました。」と、ド・ペーター氏は述べています。「複数の波長で観測された同時期の画像を組み合わせることで、表層の噴出を詳細に調べることが可能になりました。その結果、大気の下層にある水の雲の水蒸気の対流によってプルームが引き起こされるという現在の理論を裏付けることができたのです。プルームは、大気の深層から上層へアンモニアガスを引き上げ、さらには表層のアンモニア雲にまで至ります。」
米国国立電波天文台(NRAO)のブライアン・バトラー氏は、次のように述べています。「今回のアルマ望遠鏡のミリ波で観測されたアンモニア分布図は、米国の電波干渉計VLAのセンチメートル波で観測された図を補完しています。」「どちらの図も、可視光で見える雲の下を調査したもので、アンモニアを豊富に含んだガスが引き上げられて上層の雲を形成し、アンモニアの少ない大気が沈降することを示しています。」
論文・研究チーム
この観測成果は、I. de Pater et al. ”First ALMA Millimeter Wavelength Maps of Jupiter, with a Multi-Wavelength Study of Convection”として、天文学専門誌「アストロノミカル・ジャーナル」に掲載されます。
この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Imke de Pater (University of California, Berkeley), R. J. Sault (University of Melbourne), Chris Moeckel (University of California, Berkeley), Arielle Moullet (SOFIA/USRA), Michael H. Wong (University of California, Berkeley), Charles Goullaud (University of California, Berkeley), David DeBoer (University of California, Berkeley), Bryan Butler (National Radio Astronomy Observatory), Gordon Bjoraker (NASA Goddard Space Flight Center), Mate Adamkovics (Clemson University), Richard Cosentino (NASA Goddard Space Flight Center), Padraig T. Donnelly (University of Leicester), Leigh N. Fletcher (University of Leicester), 笠羽康正 (東北大学), Glenn Orton (Jet Propulsion Laboratory), John Rogers (British Astronomical Association), James Sinclair (Jet Propulsion Laboratory), Eric Villard (Joint ALMA Observatory)