2019-05-27 国立遺伝学研究所
Mechanically distinct microtubule arrays determine the length and force response of the meiotic spindle
Jun Takagi, Ryota Sakamoto, Gen Shiratsuchi, Yusuke T. Maeda, Yuta Shimamoto
Developmental Cell, Vol 49, pp 267-278, 2019 DOI:10.1016/j.devcel.2019.03.014
国立遺伝学研究所の島本勇太准教授と九州大学理学部の前多裕介准教授らの研究チームは、物理と生化学を融合した新しい研究手法を使って、紡錘体と呼ばれる染色体分配装置が機械的な力を発生・享受しながら細胞内で安定して機能するしくみの一端を明らかにしました。この研究成果はDevelopmental Cell誌に掲載され、また同誌の紹介記事にハイライトされました。
私たちのからだを構成する細胞が分裂して自己を複製するためには、コピーされた遺伝情報を親細胞から娘細胞へ正確に受け渡す必要があります。この受け渡しは紡錘体と呼ばれる染色体の分配装置が細胞内で力を発生することによって行われていますが、紡錘体がどのようにして力を出したり感じたりしながら染色体を正確に分配しているかは分かっていませんでした。島本准教授らの研究チームは、ガラスを微細加工して作成した直径1ミクロン程の探針を使って紡錘体を直接触り、赤道面や極など、紡錘体の各部がそれぞれどのくらいの力を出し、また力を感じて変形することができるかを詳細に調べました(図1A)。その結果、紡錘体は不均質な機械的性質を持ち、特に赤道面と極の近傍は非常に硬く変形しづらいこと(図1B黄色の領域)、それに比べて赤道面と極の間の部分は柔らかく変形しやすいことが分かりました(図1B水色の領域)。紡錘体の赤道面や極を作っている構造は、染色体を引っ張るための足場となったり細胞の分裂軸を決めたりするのに重要な役割を担っています。一方で、紡錘体は自らのサイズを細胞に合った大きさで維持するために、赤道面と極の間の距離を適切に制御する必要があります。紡錘体が持つ機械的な不均質性は、赤道面と極の構造を堅牢に保ちながらも全体の長さを柔軟に調節するしくみを良く説明します。本研究は、紡錘体の物性が細胞分裂に必要な多くの機能を同時に実現するために最適化されていることを示唆するものであり、胚発生などで染色体の分配エラーが生じる仕組みを理解するための重要な発見であると考えられます。
図:(A)ガラスを微細加工して作製した力の探針を使って、紡錘体の発生力と硬さを局所計測した。(B)紡錘体は不均質な機械特性を持ち(色付けされた領域)、極と赤道面の構造を硬く維持しながら全体の長さを柔軟に変化させられることが分かった(点線)。