酸化銅が室温で磁性体にも誘電体にもなることを実証~室温マルチフェロイクスの発現を高圧力下中性子回折により初めて確認~

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2022-11-17 物質・材料研究機構

NIMSは、イギリスのラザフォード・アップルトン研究所、オックスフォード大学と共同で、酸化銅が圧力を加えることにより室温で磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイクス材料となることを実証しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、イギリスのラザフォード・アップルトン研究所、オックスフォード大学と共同で、酸化銅が圧力を加えることにより室温で磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイクス材料となることを実証しました。本成果で確立した理論モデルは、次世代メモリや光制御デバイスなどの開発指針として期待されます。
  2. マルチフェロイクス材料は、次世代メモリ材料や低消費電力の光制御デバイスへの応用が期待されています。しかし、そのほとんどが100 K以下の低温でしかその機能を発現しないため、室温での動作が不可欠なデバイス応用において長年の課題となっていました。今回注目したマルチフェロイクス材料である酸化銅は、加圧すると材料中の銅イオンと酸化物イオンの位置が変化することで磁気的な相互作用が大きくなるので、理論的にはマルチフェロイクスの機能発現温度が室温まで上昇することが示唆されていました。しかし高圧下で微細なスピン (原子レベルの小さな磁石) を直接観察する方法がないため、実験的に実証されていませんでした。
  3. 研究チームは、高圧下でも微小なスピンを観測できる新しい高圧発生装置を用いた中性子回折実験により、加圧することで酸化銅のマルチフェロイクス機能発現が室温で起こることを実証しました。また、高圧力下における銅イオン間にはたらくスピン同士の相互作用 (磁気的相互作用) の大きさと、どの銅イオン間に相互作用が存在するのかという仮定を最小限に抑えた計算手法 (NIMSオリジナル) により決定し、室温で機能するマルチフェロイクス材料の開発に有効な理論モデルを確立しました。
  4. 酸化銅の室温マルチフェロイクス状態は、18.5 GPa (18万5千気圧) 以上の高圧状態に限られますが、本研究で確立された理論モデルを、結晶の歪みを利用した薄膜の成長に応用することで、将来的には大気圧下でも室温で動作するマルチフェロイクス材料の開発が期待されます。
  5. 本研究は、NIMS先端材料解析研究拠点の寺田 典樹主幹研究員、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のIgor Solovyev主幹研究員、機能性材料研究拠点の名嘉節主席研究員、ラザフォード・アップルトン研究所、オックスフォード大学からなる国際共同研究チームによって行われました。本研究は、科研費国際共同研究加速基金 (17KK0099) 、JST未来社会創造事業(JPMJMI18A3)の支援を受けて行われました。
  6. 本研究成果は、2022年11月15日 (日本時間16日) に米国物理学会の学術誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載される予定です。

「プレスリリース中の図 : 加圧により銅イオンが酸化物イオンを挟みこむ角度が増加し、酸化銅の磁気的相互作用が強まります。これにより、室温でマルチフェロイクス状態を安定化できることを実験的に実証しました。」の画像

プレスリリース中の図 : 加圧により銅イオンが酸化物イオンを挟みこむ角度が増加し、酸化銅の磁気的相互作用が強まります。これにより、室温でマルチフェロイクス状態を安定化できることを実験的に実証しました。

掲載論文

題目 : Room-temperature type-II multiferroic phase induced by pressure in cupric oxide
著者 : Noriki Terada, Dmitry D. Khalyavin, Pascal Manuel, Fabio Orlandi, Christopher J. Ridley, Craig L. Bull, Ryota Ono, Igor Solovyev, Takashi Naka, Dharmalingam Prabhakaran, and Andrew T. Boothroyd
雑誌 : Physical Review Letters
掲載日時 : 2022年11月16日 (日本時間)
DOI : 10.1103/PhysRevLett.129.217601

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