ミリ波/テラヘルツ帯の正確な誘電率計測技術を確立~電波望遠鏡の受信機開発からBeyond 5G/6G用材料の開発に貢献~

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2023-08-08 国立天文台


クレジット:国立天文台

国立天文台と情報通信研究機構の研究者らから成る研究チームは、絶縁体の電気的特性を従来よりも100倍正確に測定できる解析方法を考案しました。この技術は、電波望遠鏡に搭載する受信機の開発への貢献だけでなく、次世代通信網である「Beyond 5G/6G」の実現に向けたデバイス開発への貢献が期待されます。

これまで国立天文台と情報通信研究機構は、共同研究により、ミリ波/テラヘルツ帯における高精度な材料特性計測系の研究開発を行ってきました。今回研究チームが研究の対象にしたのは、電気を通さない絶縁体に電圧をかけたときに、内部の電子がどのように反応するかを示す「誘電率」という値です。誘電率は、絶縁体の中を電波が伝わっていくときのふるまいを理解するためにも重要な値です。電波望遠鏡では、宇宙からやってきた電波がアンテナから受信機に導かれる途中で、レンズを通過することがあります。天文学者たちが求める性能通りに電波望遠鏡を開発するためには、レンズの誘電率を正確に測定することが必要です。また通信の分野でも、通信機器に使われる回路基板やアンテナの材料の誘電率や、電波が通過する建物に使われる建材の誘電率を、正確に測定することが求められています。

誘電率の測定にはさまざまな方法が用いられています。誘電率を正確に測定できる方法の一つに「共振器法」があります。この方法では、測定したい材料を共振器と呼ばれる装置に入れて測定することから、材料を共振器に収まるサイズ(時に厚さ数百マイクロメートル以下)に精密加工する必要があります。また、いくつかの特定の周波数における誘電率しか測定できないという難点があります。装置の開発段階ではいろいろな材料の誘電率を測る必要があるため、測定のたびに高精度加工が必要となると、開発に時間がかかってしまいます。一方でこれらの難点が少ない「自由空間法」も用いられます。この方法では測定結果の解析に近似が用いられているため、これに起因する誤差によって正確な測定が困難であるという難点がありました。

研究チームは、電磁波伝搬の計算手法を工夫することによって、「自由空間法」を用いながらも近似ではなく厳密に誘電率を導き出す解析アルゴリズムを開発しました。解析手法の妥当性を検証したところ、従来の解析方法に比べて、近似に起因する誤差を100分の1に低減し、誘電率を正確に計測することが可能であることを実証できました。また、アルマ望遠鏡のために開発されている受信機のレンズ材料候補を実測したところ、他の測定手法と一致する結果が得られ、実際のデバイス開発における有用性が示されました。これにより、ミリ波帯/テラヘルツ帯における材料の誘電率を、広い周波数帯域にわたって、連続的かつ正確に計測する技術が確立できたことになります。

誘電率測定系の写真。 測定したいサンプルを、楕円(だえん)面ミラーの間に配置している。一方のホーンアンテナからミリ波/テラヘルツ波を放射してサンプルに入射し、その透過特性をベクトルネットワークアナライザで測定することによって誘電率を求めることができる。

本研究と、従来の近似解析法「共振器法」を用いた材料の誘電率測定結果。 近似を用いない本研究は誤差が小さい上に、広い周波数範囲にわたって連続的に誘電率が測定できることが実証された。

近似に起因する誤差を100分の1に低減できたことは、開発のスピードアップにもつながります。個々の材料の誘電率の測定が不正確だと、実際に作製した製品が目標とする性能を満たさない場合があります。設計の段階から正確な誘電率を把握できていれば、不要な試行錯誤を減らすことができ、開発コスト削減も可能になります。

この研究をリードした国立天文台 先端技術センターの坂井了(さかい りょう)技術員は、「自由空間法は他の測定手法と比較して、測定試料の形状に対する制約が小さく、測定周波数帯を拡張することも容易です。今回開発した技術は、電波望遠鏡の部品設計に限らず、ミリ波/テラヘルツ帯を利用する次世代通信網(Beyond 5G/6G)の実現に向けた、高周波材料やデバイス開発への貢献が期待されます」とコメントしています。

この研究成果は、Ryo Sakai et al. “Accurate Free-Space Measurement of Complex Permittivity With the Angular Spectrum Method” として、米国に本部を置く電気・電子・情報・通信分野の専門家組織(IEEE)が発行するする学術論文誌『IEEE Transactions on Terahertz Science and Technology』に、2023年7月3日付で掲載されました。

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