2022年9月神奈川県のハヤブサから検出されたH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴

ad

2022-11-01 農研機構

ポイント

今年9月25日に神奈川県伊勢原市で衰弱後死亡したハヤブサから高病原性鳥インフルエンザ1)の原因ウイルスが検出されました。農研機構は、ハヤブサより分離した高病原性鳥インフルエンザウイルス2)の全ゲノム解析を行いました。その結果、このウイルスは2021/2022シーズン(2021年秋~2022年春)に日本で流行したH5N1亜型3)高病原性鳥インフルエンザウイルスと近縁であることが明らかになりました。2004年以降、シーズンの最も早い時期に日本国内の野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出され、10月下旬に家きんにおいても高病原性鳥インフルエンザが発生したことから、家きん農場内にウイルスが侵入しないように一層警戒が必要です。

概要

環境省が都道府県等と連携して実施している野鳥における高病原性鳥インフルエンザサーベイランスにおいて、2022年9月25日に神奈川県伊勢原市で衰弱状態のハヤブサ1羽が回収され、翌日死亡しました。A型インフルエンザウイルス検出簡易検査で陽性反応が確認されたため、国立研究開発法人国立環境研究所で遺伝子検査を実施したところ、H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(highly pathogenic avian influenza virus: HPAIV) が検出されました。本件は、今シーズンの野鳥における高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza:HPAI)の1例目の事例となります。また、H5亜型HPAIが初めて日本国内で報告された2004年以降、野鳥で本ウイルスが検出された事例のなかでは、最も早い時期での報告となります。

農研機構は、ハヤブサ由来の検体よりウイルス分離を実施し、分離ウイルス(神奈川株)の全ゲノム配列を解読しました。その8本の遺伝子分節4)について系統樹解析5)を実施したところ、神奈川株の全ての遺伝子分節が2021/2022シーズンに日本で流行したH5N1亜型の2020-2021年冬季欧州分離HPAIV(20E)と近縁であることが判明しました。また、神奈川株の推定アミノ酸配列には、抗ウイルス剤であるノイラミニダーゼ阻害剤及びウイルス RNA ポリメラーゼ阻害薬に対する耐性変異や、哺乳類に対する感染性を増加させるような既知のアミノ酸変異は認められませんでした。

国内への渡り鳥の飛来時期としては早期である9月末にはHPAIVが国内に存在していたことが明らかとなり、10月下旬には家きんにおいてもHPAIが発生したことから、家きん農場へのウイルスの侵入に対して、今後より一層の警戒が必要です。

問い合わせ先など

研究推進責任者 :
農研機構動物衛生研究部門 所長勝田 賢

研究担当者 :
同 人獣共通感染症研究領域 研究員高舘 佳弘
同 人獣共通感染症研究領域 グループ長内田 裕子
同 人獣共通感染症研究領域 研究領域長真瀬 昌司

広報担当者 :
同 広報担当山田 学

詳細情報

背景

我が国では2020/2021シーズンにH5N8亜型、2021/2022シーズンにH5N8亜型及びH5N1亜型のHPAIVにより、家きんでのHPAIが発生しています。これらのHPAIVは、2004年以降アジア及び欧州を中心に家きんの間で流行しているH5亜型HPAIVと共通の赤血球凝集素タンパク(HA)遺伝子を持つことから、ユーラシア型H5亜型HPAIVと呼ばれています。2014年以降、世界規模でユーラシア型H5亜型HPAIVによる発生が多発しており、渡り鳥がウイルスの伝播に関与していると考えられています。これまで野鳥によるH5亜型HPAIVの最も早い国内への侵入は、2010年10月14日に北海道で回収された野鳥糞便からの検出事例でした。今回、神奈川県で回収されたハヤブサからのH5N1亜型HPAIVの検出は、それより2週間以上も早い2022年9月25日でした。その後、本事例に続き、10月には宮城県、福井県及び新潟県の死亡野鳥、北海道の野鳥由来糞便よりH5亜型HPAIVが検出されています。

内容・意義

1.環境省が都道府県等と連携して実施している野鳥における高病原性鳥インフルエンザサーベイランスにおいて、2022年9月25日に神奈川県伊勢原市において衰弱状態で回収されたハヤブサから得られたA型インフルエンザウイルス陽性検体に関して、(国研)国立環境研究所が遺伝子検査を実施し、H5N1亜型HPAIVであることが明らかになりました。

2.野鳥由来ウイルスに関して詳細な解析を行うため6)、ハヤブサ検体からH5N1亜型HPAIV(神奈川株)を分離し、神奈川株の全ゲノム解析を実施しました。その結果、神奈川株の全ての遺伝子分節(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、MP及びNS遺伝子分節)が、2021/2022シーズンに日本の家きん及び野鳥から分離されたH5N1亜型HPAIV、2020-2021年冬季欧州分離HPAIV(20E) (https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niah/154722.html)と近縁であることが分かりました。2021/2022シーズンに東北及び北海道のハシブトガラス等の野鳥での検出が認められた2021-2022年欧州分離HPAIV(21E)とは遺伝的背景が異なることが分かりました(図1)。

今後の予定・期待

今回解読された遺伝子情報は、近日中に公共遺伝子データベースに公開されます。HPAIVの全ゲノム配列解読・遺伝子解析結果を速やかに明らかにすることで、国内のHPAI遺伝子診断系の有用性確認や家きん感染時の病態を予測することができ、HPAI防疫体制の一層の強化につながると期待されます。

用語の解説
1)高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)
高病原性鳥インフルエンザウイルスによって引き起こされ、鶏に高い致死率を示す家きんの疾病。
2)高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)
国際獣疫事務局(OIE)の規定による分離ウイルスの鶏への静脈内接種試験やHAタンパク質の開裂部位における連続した塩基性アミノ酸の存在によって判定される、鶏に高い致死率を示すA型インフルエンザウイルス。H5及びH7亜型の一部のウイルスが主。
3)(A型インフルエンザウイルスの)亜型
ウイルス表面に存在する2つの糖タンパク質(赤血球凝集素タンパク:HA、ノイラミニダーゼ:NA)の種類に基づくウイルスの分類型。HAには、H1からH18、NAにはN1からN11までの亜型が存在する。A型インフルエンザウイルスの種類は、それぞれの亜型の組み合わせにより、H1N1、H3N2、H5N1等と記載する。
4)遺伝子分節
ウイルスゲノムが複数の断片に分かれている場合に、それぞれの断片を遺伝子分節という。主にRNAウイルスゲノムで用いられる。
5)系統樹解析
生物の遺伝的関係を線でつなぐ形で示したもので、アミノ酸配列やDNA塩基配列をデータとして用いる。枝分かれをした樹木のような図が得られ、近縁な場合は近くの枝に示される。
6)国内農場での発生予防や希少野生動物種の保全のために、北海道大学、京都産業大学、鳥取大学、鹿児島大学及び農研機構により、国内の野鳥で検出された鳥インフルエンザウイルスの遺伝子及び性状解析等を実施している。
参考図

2022年9月神奈川県のハヤブサから検出されたH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴

図1. 神奈川県伊勢原市のハヤブサから分離した高病原性鳥インフルエンザウイルスの遺伝子解析に基づく2021/2022シーズン国内分離ウイルスとの比較

神奈川株の8遺伝子分節の系統樹解析を行った結果、2021/2022シーズンに発生を引き起こした20Eグループの高病原性鳥インフルエンザウイルスと近縁である事が判明した

1201畜産
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました