結晶系を揃え、原子スケールで乱れのない超伝導体/半導体の接合に成功~新機能を持つ窒化物半導体デバイス開発への一歩~

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2022-09-22 東京大学

○発表者:
小林  篤(東京大学 生産技術研究所 特任准教授)
紀平 俊矢(研究当時:東京大学 大学院工学系研究科 修士課程)
武田 崇仁(東京大学 大学院工学系研究科 博士課程)
小林 正起(東京大学 大学院工学系研究科 附属スピントロニクス学術連携研究教育センター
/電気系工学専攻 准教授)
上野 耕平(東京大学 生産技術研究所 助教)
藤岡  洋(東京大学 生産技術研究所 教授)

○発表のポイント:
◆窒化ニオブ超伝導体と窒化アルミニウム半導体の結晶系を揃える技術を開発し、原子スケールで乱れのない高品質な異種機能材料接合を実現した。
◆精密な薄膜成長技術と構造評価技術を駆使することで、1,200℃を超える高温で窒化ニオブが窒化アルミニウムと同じ六方晶系に結晶化することを発見した。
◆独自に発展を遂げてきた窒化物半導体と窒化物超伝導体のエレクトロニクスを融合させた。今後、新構造量子ビットや単一光子制御素子の社会実装に向けて、材料評価やデバイスプロセスの開発を進めていく。

○発表概要:
東京大学 生産技術研究所の小林 篤 特任准教授、上野 耕平 助教、藤岡 洋 教授、大学院工学系研究科 修士課程の紀平 俊矢 大学院生(研究当時)、博士課程の武田 崇仁 大学院生、附属スピントロニクス学術連携研究教育センターの小林 正起 准教授、物質・材料研究機構の原田 尚之 独立研究者の共同研究グループは、窒化物結晶を用いて超伝導体と半導体の高品質接合を作製することに成功しました。
金属元素は窒素と化合し、結晶化すると、さまざまな機能を生み出します。例えば、窒化ニオブ(NbN)は低温で超伝導体となり、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどの13族元素の窒化物は半導体となります。最近、窒化物超伝導体と窒化物半導体をひとつのデバイスに集積させ、それぞれの機能を融合させる研究が、世界中で盛んに行われています。この技術が実用化すれば、単一光子を利用したコンピュータ(注1)など新しい量子デバイス(注2)を作製できるようになります。しかし、窒化物超伝導体と窒化物半導体は結晶系(注3)が異なるため、両者を接合すると界面に高密度の結晶欠陥が形成され、素子性能を低下させてしまうことが問題でした。
今回、本研究グループは、超伝導体のNbNを結晶化させる温度を精密に制御することで、結晶化温度と結晶構造の関係性を初めて明らかにしました。この技術を応用し、NbNと窒化アルミニウム(AlN)半導体の結晶系を人工的に揃えることで、高品質なNbN/AlN接合を作製することに成功しました(図1、図2)。
今回開発した技術は、これまで独立に発展を遂げてきた半導体と超伝導体のエレクトロニクスをシームレスにつなぐ架け橋となり、極低温で動作する電子デバイスや、単一光子を制御する新規量子デバイスのデザインを可能とします。

○発表内容:
<研究の背景>
金属元素は窒素と化合し、結晶化すると、さまざまな機能を生み出します。例えば、窒化ニオブは低温で超伝導体となり、量子コンピュータの心臓部となる量子ビットや、極低温で単一光子を検出する超高感度検出器などに利用されています。一方、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど13族元素の窒化物は、半導体として機能し、高効率発光ダイオード、レーザー、高電子移動度トランジスタとして実用化されています。窒化物半導体は、ウイルス不活化用紫外線光源や、電気自動車などで電力を制御するパワーデバイスとしての開発も進められています。
ごく最近、窒化物超伝導体と窒化物半導体をひとつのデバイスに集積させ、それぞれの機能を融合させる研究が精力的におこなわれています。例えば、単一光子を利用した演算素子や2次元電子と超伝導状態を共存させるトランジスタなどの新しい量子デバイス構造が提案されています。
しかし、立方晶の窒化物超伝導体と六方晶の窒化物半導体を接合すると、結晶系の違いに起因する高密度の結晶欠陥が接合界面に形成され、素子性能を低下させる要因となることがこれまでの研究でわかっていました。

<研究内容>
今回、本研究グループは、スパッタ法(注4)を用いて窒化ニオブ(NbN)超伝導体薄膜を六方晶の窒化アルミニウム(AlN)半導体上に作製しました。NbN薄膜をエピタキシャル成長(注5)させる温度を800℃から1,220℃の範囲で精密に制御しながら複数の試料を作製し、X線回折、電子回折、X線光電子分光、電気抵抗率測定を行い、結晶構造、電気的特性と化学結合状態の評価をおこないました。
その結果、エピタキシャル成長温度の上昇に伴い、NbN薄膜の窒素組成が減少し、結晶構造がδ型(立方晶)から、γ型(正方晶)を経てβ型(六方晶)に変化することを発見しました。六方晶のAlN上に六方晶のβ型NbNを作製できたのは、本研究が初めてです。AlN上に1,220℃で作製した六方晶のβ型NbN薄膜の表面は、原子レベルで平坦であり、高品質な結晶が得られていることを確認しました。加えて、β型NbNはAlNと結晶構造やサイズが近いため、β型NbN結晶の第一層目からコヒーレントに成長(注6)していることも確認できました。さらに、このβ型NbNの超伝導転移温度は約0.4 K(ケルビン)であり、他の結晶構造を含まない純度の高い薄膜であることが示されました。

<社会的意義>
今回、発光デバイスや電子デバイスとして実用化している窒化物半導体上に、高品質な超伝導体を接合させることに初めて成功しました。本技術によって、独立に発展を遂げてきた窒化物半導体と超伝導体のエレクトロニクスがシームレスに繋がり、窒化物半導体デバイスにこれまでになかった新機能を付与できるようになります。将来的には、窒化物半導体エレクトロニクスを基盤とした、極低温動作トランジスタや、単一光子制御素子などの新規量子デバイスの開発につながっていきます。

○発表雑誌:
雑誌名:「Advanced Materials Interfaces」(オンライン版:9月22日)
論文タイトル:Crystal-phase controlled epitaxial growth of NbNx superconductors on wide-bandgap AlN semiconductors
著者:Atsushi Kobayashi*, Shunya Kihira, Takahito Takeda, Masaki Kobayashi, Takayuki Harada, Kohei Ueno, and Hiroshi Fujioka
DOI番号:10.1002/admi.202201244

○問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
特任准教授 小林 篤(こばやし あつし)

○用語解説:
(注1)単一光子を利用したコンピュータ
光子一つに量子的な情報を載せ、超伝導体検出器や半導体デバイスで光子を制御し、情報を処理する。

(注2)量子デバイス
量子力学の原理に基づいて動作するデバイス。半導体レーザーやトランジスタが例として挙げられる。近年では半導体量子ドットや超伝導量子ビットなどの開発が進められている。

(注3)結晶系
結晶の周期性を考慮した基本骨格。三斜晶系、単斜晶系、直方晶系、正方晶系、六方晶系、三方晶系、立方晶系の7種類。

(注4)スパッタ法
薄膜を生産性良く製造する手法の名称。集積回路や液晶テレビ等の製造に広く使われている。

(注5)エピタキシャル成長
薄膜結晶は基板結晶の上に堆積することで得られる。薄膜結晶の結晶方位と下地となる基板結晶の結晶方位に、一意的な関係がある場合、エピタキシャル成長という。

(注6)コヒーレント成長
薄膜と基板の格子定数(または原子の間隔)が一致しながら、エピタキシャル成長すること。

○添付資料:

図1 窒素原子(紫)とニオブ原子(ピンク)が六方晶窒化ニオブの結晶を形成する様子(イメージ図)。

小林篤先生図2.png
図2 六方晶窒化ニオブと窒化アルミニウムを接合した界面の高分解能透過電子顕微鏡像。明るく見えるAlとNbの原子が同じ周期(…ABABAB…)で積層されており、結晶系が揃っていることがわかる。

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