微生物の培養だけでセルロースを糖化する技術を開発~微生物糖化法で糖化酵素に要するコストをゼロに~

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2022-06-02 国際農研,キングモンクット工科大学トンブリ校

ポイント

  • セルロース糖化の際に酵素添加を必要としない次世代糖化技術「微生物糖化法」を開発
  • 蓄積される糖はエタノール、油脂など、様々な化学製品へ容易に変換可能
  • 微生物糖化法により、廃棄物の再資源化やアップサイクル1)が実現可能に

概要

国際農林水産業研究センター(以下、国際農研)とタイ国キングモンクット工科大学トンブリ校(以下、KMUTT)の共同研究グループは、セルロース2)を主体とするバイオマスを発酵可能な糖質(グルコース3))に変換する際に、セルラーゼ酵素4)の添加を全く必要としない「微生物糖化法」を開発しました。
本研究成果は、微生物培養のみでセルロース繊維を糖化できることから、高コスト化の原因となっていたセルラーゼ酵素の購入を不要とするものです。さらに、微生物は何度でも繰り返し培養できることから、安価で効率的な次世代の糖化技術として、農林水産省が進める「みどりの食料システム戦略」の「(1)資源・エネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷低減の促進」に貢献します。

本研究の成果は、科学雑誌「Applied Microbiology and Biotechnology」オンライン版(日本時間2022年2月14日)に掲載されました。

関連情報
予算
運営費交付金プロジェクト「農産廃棄物がもたらす地球規模課題の解決を目指したカーボンリサイクルを加速化する技術開発
特許
特願2021-074485号「β-グルコシダーゼを生産する好熱性微生物、そのスクリーニング方法及びβ-グルコシダーゼを生産する好熱性微生物を用いたセルロース系バイオマスの糖化方法、並びに好熱性微生物由来のβ-グルコシダーゼ及び該β-グルコシダーゼをコードする遺伝子」
発表論文
論文著者
S Nhima, R Waeonukul, A Uke, S Baramee, K Ratanakhanokchaia, C Tachaapaikoon, P Pason, Y-J Liu, A Kosugi
論文タイトル
Biological Cellulose Saccharification using a Coculture of Clostridium thermocellum and Thermobrachium celere Strain A9
雑誌
Applied Microbiology and Biotechnology
DOI: https://doi.org/10.1007/s00253-022-11818-0
問い合わせ先など

国際農研(茨城県つくば市)理事長 小山 修
研究推進責任者:国際農研 プログラムディレクター 林 慶一
研究担当者:国際農研 生物資源・利用領域 小杉 昭彦
国際農研 生物資源・利用領域 鵜家 綾香
広報担当者:国際農研 情報広報室長 大森 圭祐

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。

※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

開発の社会的背景

農業分野からの温室効果ガス排出量は、世界全体で年間54.1億トン(CO2換算2017年)であり、気候変動に深刻な影響を与えています。大規模農業生産により副次的に生じる膨大な量の農産廃棄物や、我々の生活から廃棄される繊維や古紙などのセルロースバイオマスは、自然界での分解が難しく、これらのセルロースバイオマスの廃棄や焼却によって発生するCO2排出量は、世界全体で3億トン以上に及びます。
地球規模で進行する気候変動に対処し、更なる環境悪化を阻止するには、温室効果ガス削減へ向けた技術開発が不可欠であり、我が国の「2050年カーボンニュートラル宣言」目標達成に向けて、廃棄物の再資源化やアップサイクルを推進する持続的な資源の管理・利用システムの構築が強く求められています。

研究の経緯

国際農研とKMUTTの共同研究グループは、農作物の収穫時や加工時に出てくる茎葉、皮、粕、ならびに生活廃棄物として出てくる食品残渣、繊維廃棄物、紙ゴミなど、セルロースを主体とするバイオマスから、バイオ燃料やバイオ化成品製造に必要なグルコースを、効率よく安価に得るための糖化技術の開発を行っています。
セルロースは地球上で最も豊富な資源とされていますが、その糖化には、これまでカビの培養によって生産されるセルラーゼ酵素を大量に使用することが必要でした。しかし、セルラーゼ酵素はリサイクルが難しく、その購入や調整に費用を要します。セルラーゼ酵素を用いたバイオエタノール生産では、原料費に次いでセルロース糖化コストが高価となっており、製造費の約3~4割を占める点が実用化の障壁となっていました。

研究の内容・意義

  1. 開発した「微生物糖化法」は、好熱嫌気性セルロース高分解菌クロストリジウム・サーモセラム5)(以降、「セルロース高分解菌」という。)と、新たに排水汚泥から発見された好熱嫌気性サーモブラチウム・セレラ6) A9菌(NITE P-03454)(以降、「A9菌」という。)を一緒に培養することで、セルロースからグルコースを直接生産することができます(図1および図2Aの●)。
  2. セルロース高分解菌は、セルロースを糖化してできたセロビオース7)を好んで消費するため、糖が培養液中に残りません。また、菌体外にはほとんどβ-グルコシダーゼ8)活性がありません。一方、新たに発見したA9菌は、セルロースを糖化することはできませんが(図2Aの△と▲)、菌体外に強力なβ-グルコシダーゼを生産する珍しい嫌気性細菌です(図2Aの〇)。菌体外に生産されたβ-グルコシダーゼは、セルロース高分解菌がセルロースを糖化してできたセロビオースをグルコースへ変換する酵素です。
  3. セルロース高分解菌は、セロビオースを好んで消費する性質を持ちますが、グルコースの消費は非常に消極的で、ほとんど利用しません(図2Aの●と■)。A9菌も類似した性格を持ち、グルコースよりもセロビオースを好んで消費する性質を持っています。
  4. セロビオースは、一般的に微生物の生産するセルラーゼ酵素の働きにブレーキをかける役割を持っていますが、本方法の場合、A9菌が生産するβ-グルコシダーゼによりグルコースに分解されてしまうためブレーキが掛けられず、セルロース高分解菌の生産するセルラーゼ酵素は働き続けます。その結果、セルロースは効率的に分解されると同時に、グルコースが培養液中に蓄積されます(図2B)。
  5. 5.    本手法は、セルロース高分解菌とA9菌を一緒に培養することで、セルロース分解能力と糖の嗜好性、酵素の働きを止めてしまうセロビオースの反応をうまく利用できることから、これまで不可欠だったセルラーゼ酵素のコストを0(ゼロ)にできる画期的な糖化技術です。
  6. 蓄積されるグルコースは非常に使いやすい糖の一つで、エタノール、油脂、有機酸、アミノ酸、プラスチック原料など様々な化学製品へ容易に変換可能です。

今後の予定・期待

豊富な資源であるセルロースバイオマスからのバイオ燃料や化学製品を作り出す技術は、これまで、セルラーゼ酵素の利用に伴う高コストが実利用を阻む要因となっていました。一方、国際農研とKMUTTが開発した「微生物糖化法」は、酵素添加を必要とせず、微生物培養だけでセルロースをグルコースに変える画期的な技術です。微生物は何度でも繰り返し培養でき、増殖の際に自らセルロース分解に必要な酵素を生産するため、セルラーゼ酵素の購入が不要となります。これによって低コスト化が図られることから、国内で年間約170万トンと見積もられる廃棄綿繊維など、再資源化が進まなかった材料への適用も期待されます。
また、混紡(綿とポリエステルの混合生地)を使った微生物糖化実験では、綿繊維部分だけを完全にグルコースの糖液に変え、ポリエステル資源を100%回収できることを確認しており、グルコース糖液は、エネルギーや燃料、プラスチック原料への再資源化が可能です。

用語の解説
1) アップサイクル
廃棄物を単に再利用するのではなく、元の製品よりも付加価値の高い製品を生み出すことを目的とする再資源化方法です。
2) セルロース
植物の形をなす細胞壁の主要構成成分で、自然界にもっとも多く存在する多糖です。セルロースは、植物中で二酸化炭素と水から光合成によって造られています。グルコースがβ-1,4グリコシド結合して生じた多糖類の一種で、綿花、麻、木材などに多く含まれます。
3) グルコース
ブドウ糖とも呼ばれます。果物や穀類などに多く含まれ、自然界に最も多く存在する単糖類です。
4) セルラーゼ酵素
セルロースのβ-1,4グリコシド結合を加水分解する酵素です。主に細菌や糸状菌、植物で生産されます。
5) クロストリジウム・サーモセラム
60°Cで生育可能な好熱性の嫌気性細菌です(学名:Clostridium thermocellum)。土壌や堆肥中で見られるセルロース分解能力の高い細菌です。
6) サーモブラチウム・セレラ
中程度の好アルカリ性、好熱性の嫌気性細菌です(学名:Thermobrachium celere)。
7) セロビオース
グルコース2分子がβ-1,4グリコシド結合でつながった二糖で、化学式はC12H22O11です。セルロースをセルラーゼ酵素で分解すると生じます。
8) β-グルコシダーゼ
二糖のβ-1,4グリコシド結合を加水分解する酵素です。1分子のセロビオースから2分子のグルコースを生成します。

図1. 微生物の培養のみでセルロースバイオマスを糖化する次世代の糖化技術「微生物糖化法」

微生物糖化法は、セルロース高分解菌とA9菌を共培養させることで、セルロースバイオマスからグルコースを直接得る方法です。これまでセルロースバイオマスを糖化するには、カビのセルラーゼ酵素を大量に使用する必要がありましたが、図の2つの菌を組み合わせることで微生物の培養のみで糖化できます。セルラーゼ酵素を購入する必要がなく、微生物を培養するだけなので、何度でも再利用し繰返し糖化ができる次世代のセルロース糖化方法です。

図2. 微生物の糖の嗜好性をうまく利用した「微生物糖化法」によるセルロースからのグルコース生産(A)とセルロースの高効率分解(B)

A9菌は、セルロースを糖化することはできませんが(図Aの▲と△)、菌体外に強力なβ-グルコシダーゼを生産する好熱嫌気性細菌です。セルロース高分解菌は、菌体外にβ-グルコシダーゼを生産しないため(図Aの□)、セルロースは分解できるものの、グルコースを蓄積できる量は少量です(図Aの■)。また、できたセロビオースによりセルロース糖化反応を止めてしてしまい、高濃度のセルロース(図Bの①)を分解できません(図Bの②)。一方、セルロース高分解菌とA9菌の共培養では、セルロース高分解菌によってセルロースを糖化し、できたセロビオースをそのβ-グルコシダーゼにより(図Aの〇)、グルコースへ分解します(図Aの●)。グルコースは、両方の菌に消費されず、またセルロース糖化反応も止めないので、その結果、高濃度のセルロースは効率良く糖化されると同時に、グルコースが培養液中に高濃度で蓄積されます(図Bの③)。蓄積されたグルコース糖液は、持続可能性が高くエネルギーや燃料、プラスチック原料として再資源化できます。

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