汗中乳酸から高出力を生み出す薄膜型ウェアラブルバイオ燃料電池アレイを開発

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自己発電型ウェアラブル乳酸センシング・デバイスとして活用可能!

2021-03-15 東京理科大学,筑波大学,理化学研究所,山形大学

Fig. 7. Photographs of (a) the wireless transmission device driven using human sweat…

 

研究の要旨とポイント

●和紙を基板として多孔性炭素電極をスクリーン印刷して作製する、高出力の薄膜型ウェアラブル乳酸バイオ燃料電池アレイの開発を行いました。

●これまで報告されている乳酸バイオ燃料電池と比較して、より高い出力が得られ、自己発電型ウェアラブル乳酸センシング・デバイスとしての活用や、市販の活動量計の電源としても利用可能であることを確認しました。

●医療分野やスポーツ分野における健康管理、トレーニング管理を目的とした汗中乳酸モニタリング用ウェアラブルデバイスに活用されることが期待されます。

東京理科大学理工学部先端化学科の四反田功准教授らの研究グループは、筑波大学数理物質系の辻村清也准教授、理化学研究所生命機能科学研究センターの美川務専任研究員、山形大学学術研究院(有機材料システム研究科担当)の松井弘之准教授らと共同で、基板材料として和紙を、正極に酸素を還元する酵素(ビリルビンオキシダーゼ)、負極に乳酸を酸化する酵素(乳酸オキシダーゼ)をそれぞれ固定化した多孔性炭素電極を用いた薄膜型バイオ燃料電池を作製、アレイ化して、汗中乳酸を用いて高出力を生み出せるウェアラブル型バイオ燃料電池アレイを開発することに成功しました。

さらに、乳酸濃度の増加にともない得られる出力が線形に増加することを確認したことから、汗中乳酸濃度を検出可能な自己発電型バイオセンシングデバイスの開発にもつなげることができました。

本研究の成果は、医療分野やスポーツ分野などにおいて健康・トレーニング管理に活用可能な、小型・軽量ウェアラブルデバイスとして今後展開されることが強く期待されます。

研究の背景

健康状態のモニタリングやトレーニング管理といった目的で、最近、身体に装着してリアルタイムで身体の状態を把握できるウェアラブル型デバイスが注目され、様々な研究が行われています。汗には電解質や金属イオン、代謝物質などが含まれており、それらの汗中濃度を「バイオマーカー」として検出することは、身体への負担の少ない非侵襲的な手法であり、さまざまな試みがなされています。汗中の物質濃度をウェアラブル型デバイスによってモニタリングするには、身体の動きの妨げにならないような軽量・薄膜型でありつつ、安全・長寿命、かつ十分な出力を持つウェアラブル型電池が必要であり、それが実用化に向けた課題の一つとなっています。

四反田准教授の研究グループでは、これまでグルコースなどの物質を燃料として発電できる「バイオ燃料電池」に着目して研究を行ってきました。特に、紙を基板として炭素電極をスクリーン印刷した薄膜型バイオ燃料電池の開発を多数報告しています。紙を基板とすることで、フレキシブル、軽量、薄膜型電池としての性質が担保され、また、スクリーン印刷を用いることは、微細なものであっても電極の形状を比較的自由に設計可能であり、将来の大量生産にも適するという利点があります。一方、汗には乳酸が含まれることが知られていますが、汗中乳酸濃度が血中乳酸濃度と強い相関を持つことが最近明らかとなり、運動強度を管理する目的で汗中乳酸のリアルタイム検出に高い関心が集まっています。今回、これまでの成果をふまえて、汗中乳酸を燃料とした無線通信可能な自己発電型ウェアラブル乳酸センシング・デバイスの開発を目的に研究を行いました。

研究結果の詳細

今回作製したバイオ燃料電池アレイは、①撥水コーティングを施した和紙(基板、空気側)上に、②導電性のカーボン層(各電極を電気的に接続する層。正極の下に配置させる部分には酸素を取り込むため多数の穴を開けた構造を持つ)をスクリーン印刷し、さらにその上に③多孔性炭素電極をスクリーン印刷し、続いて④それぞれ隣り合った炭素電極上にビリルビンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼを固定化してそれぞれ正極、負極とし、⑤それらの上に和紙(身体側の基板。(汗中)乳酸を取り込む)を重ねる、という構造です。電極の配列(アレイ)は、1組の正極・負極を直列方向、並列方向に1組~最大6組並べる構造としました。まず1つの負極に固定化する乳酸オキシダーゼの最適量を検討するため、それぞれ異なる乳酸固定量でサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った結果、固定量40 U/cm2の時に最も高い電流密度が得られることを確認しました。そのため今回作製したバイオ燃料電池アレイでは、乳酸オキシダーゼの固定量は全て40 U/cm2としました。このバイオ燃料電池アレイの構造の利点としては、直列、並列に並べた各電極が和紙で覆われており炭素電極が直接肌に触れないため非刺激性であることと、取り込まれた汗が和紙に浸透しながら各電極に均等にもたらされることが挙げられます。この電極アレイの電圧-出力の相関を測定したところ、(直列×並列)で1×1(=単一セル)、6×1、4×4、6×6の各構造では、出力の最大値がそれぞれ、0.113 mW、0.511 mW、2.55 mW、4.30 mWとなり、これまで報告されている薄膜型乳酸バイオ燃料電池よりも高い出力を示すこと、アレイの数にほぼ比例して出力が増すことを確認しました(そのため必要な出力に応じてアレイ数を柔軟に変更する設計が可能)。また、バッファー溶液中の乳酸濃度と得られる出力にも線形関係があることを確認しました(得られる出力をもとに乳酸濃度測定が可能)。

これらの結果をふまえて、本バイオ燃料電池アレイにより給電され作動する回路を設計し、ワイヤレスのBluetooth通信を用いてスマートフォン上でモニタリング可能な、自己発電型ウェアラブル乳酸センシング・デバイスを作製し、実際に人工汗液を用いて乳酸濃度をモニタリングできることを確認しました。また、6×6アレイの本バイオ燃料電池アレイを用いて(同様に人工汗液を燃料として使用)、市販の活動量計(平均消費電力1.44 mW)を1.5時間作動させることができました。

四反田准教授は、本研究の成果は「乳酸を燃料とするウェアラブルデバイス用の電源として期待できます。」と話しています。

※ 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」(JPMJTS1513)、日本学術振興会科研費「基盤研究(B)」(17H02162)、文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」、東京理科大学「学長特別研究推進費(分野横断・連携枠)」の助成を受けて実施したものです。

論文情報
雑誌名:Journal of Power Sources
論文タイトル:Paper-based lactate biofuel cell array with high power output
著者:Isao Shitanda, Yukiya Morigayama, Risa Iwashita, Himeka Goto, Tatsuo Aikawa, Tsutomu Mikawa, Yoshinao Hoshi, Masayuki Itagaki, Hiroyuki Matsui, Shizuo Tokito, Seiya Tsujimura
DOI:10.1016/j.jpowsour.2021.229533

発表者
四反田功  東京理科大学 理工学部 先端化学科 准教授 <責任著者>
森ヶ山幸也 東京理科大学大学院 理工学研究科 先端化学専攻 修士課程修了
岩下梨沙  東京理科大学大学院 理工学研究科 先端化学専攻 修士課程修了
後藤媛香  東京理科大学大学院 理工学研究科 先端化学専攻 修士課程修了
相川達男  東京理科大学 理工学部 先端化学科 助教(現:住友金属鉱山(株))
美川務   理化学研究所 生命機能科学研究センター 専任研究員
星芳直   東京理科大学 理工学部 先端化学科 講師 (現:名古屋工業大学)
板垣昌幸  東京理科大学 理工学部 先端化学科 教授
松井弘之  山形大学 学術研究院 有機材料システム研究科担当 准教授
時任静士  山形大学 学術研究院 有機材料システム研究科担当 教授 辻村清也  筑波大学 数理物質系 准教授

研究に関する問い合わせ先

東京理科大学 理工学部 先端化学科 准教授
四反田 功(したんだ いさお)

筑波大学 数理物質系 准教授
辻村 清也(つじむら せいや)

理化学研究所 生命機能科学研究センター 細胞構造生物学研究チーム 専任研究員
美川 務(みかわ つとむ)

山形大学 学術研究院 有機材料システム研究科担当 准教授
松井 弘之(まつい ひろゆき)

報道・広報に関する問い合わせ先
筑波大学 広報室
理化学研究所 広報室 報道担当
山形大学 広報室

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